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第二章
第23話「小さな手、大きな決意」
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白い煙が、どんどん濃くなっていく。
視界はほとんど奪われ、泣き声と叫び声だけが響いていた。
「ひな……! こわい……!」
さやが俺の腕にしがみつき、動けなくなっていた。
「大丈夫だ、離れるな」
俺は彼女の手を握りしめ、しゃがんだ姿勢で通路を探る。
⸻
(……非常口、非常口……)
前世で見た防災マニュアルの記憶を必死に掘り起こす。
煙の下を進め、出口のマークを探せ――。
だが、頭では分かっていても、体は小さく力も弱い。
足元に転がるバッグや倒れた椅子につまずき、何度も膝を打った。
そのたびに、さやが泣き声を上げる。
「ひな、もう無理だよ……!」
「……ふざけんな。ここで止まったら、本当に終わりだろ」
声が震えていた。
怖いのは俺も同じだ。
でも――逃げないと決めたんだ。
⸻
やがて、うっすらと緑色の非常口のマークが煙の向こうに浮かんだ。
「……見えた!」
俺はさやの手をさらに強く引き、全力で駆け出す。
肺が焼けるように痛い。足も思うように動かない。
それでも、あと数メートル。
「ひなっ!」
さやが叫ぶ。
俺は振り返らず、扉を押し開けた。
冷たい外気が一気に流れ込み、視界が広がる。
⸻
外に飛び出した瞬間、さやが大きく咳き込みながら泣きじゃくった。
「ひな……!」
俺もその場にへたり込み、呼吸を整えながらポケットを探った。
中から取り出したのは――銀色に鈍く光る、微妙にダサいサッカーボールのキーホルダー。
「……ほら」
息を切らしながら差し出す。
「この前、買ったやつ。……やる」
さやは受け取って、まじまじと見つめた。
「え、なにこれ……だっさ!」
思わず吹き出すように笑う。
「いらないなら返せ」
俺がむっとして言うと、さやは首を横に振った。
「もう貰ったもん。返さない!」
そう言ってぎゅっと握りしめる。
笑いながらも、その手は確かに宝物を掴むように強かった。
俺は顔をそむけた。
(……なんでそんなに嬉しそうなんだよ。変なやつ)
けれど胸の奥は、不思議なほど温かかった。
(……めんどくせー。でも、渡してよかったな)
視界はほとんど奪われ、泣き声と叫び声だけが響いていた。
「ひな……! こわい……!」
さやが俺の腕にしがみつき、動けなくなっていた。
「大丈夫だ、離れるな」
俺は彼女の手を握りしめ、しゃがんだ姿勢で通路を探る。
⸻
(……非常口、非常口……)
前世で見た防災マニュアルの記憶を必死に掘り起こす。
煙の下を進め、出口のマークを探せ――。
だが、頭では分かっていても、体は小さく力も弱い。
足元に転がるバッグや倒れた椅子につまずき、何度も膝を打った。
そのたびに、さやが泣き声を上げる。
「ひな、もう無理だよ……!」
「……ふざけんな。ここで止まったら、本当に終わりだろ」
声が震えていた。
怖いのは俺も同じだ。
でも――逃げないと決めたんだ。
⸻
やがて、うっすらと緑色の非常口のマークが煙の向こうに浮かんだ。
「……見えた!」
俺はさやの手をさらに強く引き、全力で駆け出す。
肺が焼けるように痛い。足も思うように動かない。
それでも、あと数メートル。
「ひなっ!」
さやが叫ぶ。
俺は振り返らず、扉を押し開けた。
冷たい外気が一気に流れ込み、視界が広がる。
⸻
外に飛び出した瞬間、さやが大きく咳き込みながら泣きじゃくった。
「ひな……!」
俺もその場にへたり込み、呼吸を整えながらポケットを探った。
中から取り出したのは――銀色に鈍く光る、微妙にダサいサッカーボールのキーホルダー。
「……ほら」
息を切らしながら差し出す。
「この前、買ったやつ。……やる」
さやは受け取って、まじまじと見つめた。
「え、なにこれ……だっさ!」
思わず吹き出すように笑う。
「いらないなら返せ」
俺がむっとして言うと、さやは首を横に振った。
「もう貰ったもん。返さない!」
そう言ってぎゅっと握りしめる。
笑いながらも、その手は確かに宝物を掴むように強かった。
俺は顔をそむけた。
(……なんでそんなに嬉しそうなんだよ。変なやつ)
けれど胸の奥は、不思議なほど温かかった。
(……めんどくせー。でも、渡してよかったな)
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