姉の婚約者を寝取った話

なかたる

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7(完)

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2人が婚約を解消したのは間も無くのことだった。
リアは泣き喚き怒鳴り散らし理由を聞かせろと叫んでいたけれど、味方だと思っていた父さんの鶴の一声に驚いて黙ってしまった。
「そう。残念」
そうは言いながらも素直に祝福してくれたクリス先輩にもう一度礼を言おうとした時だ。
「何話してんの?」
僕の後頭部に口付けながら尋ねたカイルに彼は心底嫌そうな顔をした。
「嫉妬と束縛の重い男はモテないぞ」
「リルが俺を好きでいたらそれでいいんだよ」
人目も憚らずキスを落としてくる彼にくすぐったくて目を細める。
「その調子じゃ元婚約者にバレるのも時間の問題だ」
「別に俺は気にしねぇよ」
「馬鹿め。肩身狭くなるのはリルくんだ」
「肩身狭くなれば俺と住めばいい。2度と誰にも会わなくて済む環境をすぐにでも整える」
正直、付き合ってからのカイルは甘すぎて困っている。なんと言っても表情から仕草から何から何まで僕を好きだと伝えてくるのだ。
「怖いってマジで。リルくん、こいつが嫌になったらいつでも俺のとこ来いよ」
「はは、もし逃げ出されたらその時はリルを殺して俺も死ぬから、そのつもりでな」
それは綺麗な笑顔で物騒なことを言うものだから一々怖くて堪らない。けれどそれだけ愛されているのだと考えると幸せなのだから、僕も大概だ。
「カイル先輩、っん……もう」
目が合うたびにキスするの本当にやめて欲しい。
「悪い、可愛すぎた」
「おい他所でやれよ馬鹿ップル」
中指を立てたこの人は先輩たちの友人でありこれまた先輩のガルダ・ホーミング侯爵子息。
「すみませんホーミング先輩っ」
「いや君は良いとしてもお前だよ馬鹿が。公衆の面前で何やってんだ」
「うるせぇな。部屋戻れば良いんだろ、行こうぜ」
当たり前のように恋人繋ぎで歩き出した彼に慌ててついて行き、ふと頭に浮かんだことを言ってみる。
「そういえばクリス先輩、夏休暇に連日先輩の部屋に通ってた人とは上手くいったんですか?」
「へ?」
なんのことだとばかりに顔を上げた彼は置いておいても目を大きく開いてこちらを見たホーミング先輩はどうやら例のお相手で間違いないらしい。
「やだなぁ、先輩と身体の相性すごく良いって言ってた人ですよぅ!」
「──へぇ?男連れ込んでたのか」
「えっ、ガルダ違うって!連れ込んでないって!マジで何のことだか──」
焦った表情でこちらを見たクリス先輩はようやく気付いたらしい。
「ちょっとリルくん!?何余計なこと言ってんの!」
「ほう、余計なこと、な。つまり心当たりはあるってことか」
「ちがっ」
「これは俺も詳しく聞く必要があるなぁオイ?」
心配しなくても、実は相手も自分を好きだったなんて意外とよくあることなのかもしれない。
(だってどこからどう見ても、貴方のこと好きじゃないですか)
問題はある。高位貴族だし、それなりに壁にもぶち当たるだろう。けれど。
「…なんで見てんの?俺以外見んなよ」
拗ねたように言うこの人が可愛くて、もうどうでもよくなるくらい今が幸せだから、まぁいいか。
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