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後編
リオが目をぎゅっと閉じて苦しそうに呻く。
挿れるのがかわいそうになるくらい狭いところに俺が捩じ込んだせいで、全然気持ち良くなさそうだ。
長い空白期間があったとはいえ、前世では数えきれないほど繰り返したはずなのに、当時培った技術を発揮できるような余裕なんて今の俺にはなくて、楽に破瓜を済ませてやることはできなかった。
息を弾ませている唇にくちづけると、まぶたが開いて潤んだ瞳が俺を見た。
――ああ、やっぱりお前の目だ。前世ではヒヤシンスのように青かったけど、お前に間違いない。
前世でも、初めてのときのお前はそんなふうに痛そうにしてたな。
十二歳以上が対象のゲームでは当然ながら描写されてなかったようでほっとしたけど、魔王討伐に向かう前日に森の中でするなんて、俺たちもずいぶん無茶したもんだ。
お前は涙目になって俺に頼んだんだよな。
『お願い、動かさないで』って――。
「シュンちゃん……、うごいて」
まるっきり逆の言葉が聴こえてきて、俺は目を瞠った。
あのときと同じまなざしで、リオはもう一度請う。
「お願い、動いて」
戸惑っていると、驚いたことにリオは自分からぎこちなく腰をゆすり始めた。
「お、おい……?」
潤みが増してきたのか滑りがよくなったそこは、堪えていた俺を激しく挑発する。
「知らねえぞ……っ」
抗えず、俺はついに腰を繰り出し始めてしまった。
「シュン……あっ、あ、あ……」
こっちは蕩けるように気持ちいいが、リオは悦んでいるというよりは突かれる反動で声が出ているようだ。
何とかしてやりたいが、心も身体も、リオのすべてが俺だけに向かって開いて、何もかも受け容れようとしてくれていることに、頭の芯が熱く痺れる。
ぴんと尖った胸の先端を指で転がすと、少しだけ声が甘くなった。
リオ、かわいい。好きだ。愛してる。リオ――。
「リデット……」
思わず口をついて出てしまった前世の呼び名に、俺は息を呑んで動きを止めた。
汗がヒヤリと冷たくなる。
――何も知らない今世のお前からしたら、他の女性の名前ってことになるよな……?
しかし次の瞬間、俺の頬を華奢な両手が優しく包み込んだ。
きらきらした涙をためて、リオが俺を見つめて呼び掛ける。
「ディーク……」
――俺の名前だ……。
鏡のように光るリオの目には、固まった俺の影が映っている。
「ディークフリッド……愛してる……」
わけが分からなかった。
思い出したのかと訊ねようとすると、答えるようにリオは涙を溢れさせながら微笑んだ。
「リデット……!」
大きな喜びが俺の全身を駆け巡り、愛する人をもっともっと欲しいと衝き動かす。
「リオ……リデット……、リオ……」
「あ、シュンちゃ……ディーク、シュン……」
俺たちは互いのふたつの名前を呼びながら、前世のように一緒に昇りつめていった。
◇ ◇ ◇
「えっ、お前には物心ついたときから前世の記憶があったのか?」
俺の隣で、紺色のタオルケットを胸までかけて横たわっているリオがこくりと頷く。
「小さいころは『どうしてディークなのにシュンちゃんなんだろう?』って不思議で仕方なかったんだよね……。ママに話したこともあったんだけど、しつこく繰り返してるうちに、『リオは想像力豊かねえ』なんて最初は笑ってたママも、だんだん困り顔になってきちゃって」
唖然としている俺に、リオは淡々と語った。
「それで、あんまり口にしちゃいけないことなのかなって思ったんだ。私だってリデットの姿をしてるわけじゃないし、ここは竜が飛んだり魔法が使えたりしたあの世界とは別の場所だってことも、なんとなく分かってはいたしね」
前世では当たり前だった景色が、俺の脳裏に浮かぶ。今世の視点で見ると、かなり幻想的な風景だ。
「中学に入ったあたりで、ゲームにありそうな世界だったってことにやっと気がついたんだよね。試しにキーワードをいくつか入れて検索してみたら『シュワンヌ・テイルズ』が出てきて、『これだあ!』って……」
「じゃあ、保健の先生が『懐かしい』って言う前から、ゲームの存在を知ってたのか?」
「うん……。実は、去年売り出された復刻版のソフトも持ってるんだ」
「えっ」
リオは照れくさそうに肩をすぼめる。
「少しだけプレイしてみたんだけど、自分が登場したところで何だか恥ずかしくなってやめちゃった」
「なんで俺に言ってくれなかったんだよ」
「――言ったら、信じてくれた?」
俺は言葉に詰まった。
記憶を取り戻してなかったころの俺なら、リオにはとんでもない妄想癖があると心配になったかも知れない。
「今世でもディークと巡り合えて、恋人にだってなれたんだから、もうこれで十分だって考えるようにしてたんだけど、保健室に運ばれたシュンちゃんがディークフリッドだって名乗ったとき、やっぱりすっごく嬉しくて。――でも、その後すぐにシュンちゃん、私の名前を訊ねたでしょ?」
リオの眉尻が寂しそうに下がる。
「私は最初からシュンちゃんのことをディークだって確信してたのに、シュンちゃんには私がリデットだって分からなかったんだって、悲しくなって……」
あのときリオが泣いた本当の理由を知り、俺は慌てた。
「お、お前だって直感したからこそ、確かめるために訊いたんだ」
「その後は、どこか様子はおかしいけど何も言ってくれないし、はっきりと思い出したわけじゃなかったんだなって」
「いや、むしろ、栓が抜けたみたいに一気にすべてが甦ったせいか、徐々に落ち着いてきた今でも、まだ前世の記憶のほうが鮮やかなくらいなんだ」
リオは「ああ」と可笑しそうな顔をする。
「それで、体育のことを『鍛錬』って言っちゃったり、ベッドのことを『寝台』って言っちゃったりしてたの?」
顔が熱くなる。今日は学校でもそんなことを何度か口走ってしまい、そのたびにクラスの奴らから不思議そうな顔をされた。
「お、お前はリデットの記憶を持ちながら十七年間リオとして生きてきたんだから、頭の中はきちんと整理されてるんだろうけど、こっちはいきなり大量の思い出がどっと溢れ出してきたんだから、混乱するのも当然だろ」
俺の言葉を聞き流し、リオは肩を揺らして笑う。
「あっちの世界にも、ポーションとかダンジョンとか、一応カタカナ語はあったんだけどね。あっ、ねえねえ、リモコンは何て言っちゃいそうになるの? 遠隔操作棒? スマホはー?」
楽しそうにからかってくるリオに、俺はちょっと反撃したくなった。
「――なあ、せっかく思い出したんだから、もっと前世の話をしないか」
「ん? いいけど……」
俺はニヤリと口の端を上げる。
「そういえば、前世でもお前の方から気持ちを打ち明けてくれたんだよなあ」
「えっ」
「意識を取り戻したばかりの俺に向かって『あなたのことが好きで好きでたまらないの!』って……。あの情熱的な告白の場面は、ゲームの中でも使われてそうだな」
今度はリオの頬が染まる。照れると少し怒ったような表情になるところも、ほんと変わってない。
「……前世も今世も、じれったいんだもん……」
口を尖らせたリオを俺は抱き寄せる。細いくせに柔らかくて、少しひんやりしてて心地いい。
「もっと早くこうなりたかった?」
「そ、それは……」
リオは恥ずかしそうに瞬きした。
「たまに前世のあれこれがよぎることはあったけど、私だって今世では何もかも初めてなんだから、なかなかそこまでの勇気は……」
愛しさがつのってきて、俺はリオにくちづける。十七歳の、まだどこか不器用なキスだ。
「――いつか、前世みたいなすごいのしような」
唇を離してささやくと、リオはますます赤くなって「もうっ」と俺を軽く叩いた。
――ああ、お前と一緒なら、俺はきっと今世でもずっと幸せだ。
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