神の愛し子と呼ばれていますが、婚約者は聖女がお好きなようです

天宮花音

文字の大きさ
6 / 14

6

しおりを挟む
ローゼリカは普段、王族とそれに連なるものの認められた者のみが使用できる特別室でランチを取っている。ローゼリカとマリオン、ナナリーは毎日のこと、そして生徒会で忙しいリュシアールも時間を見つけ3日に1回は一緒にランチを取っていた。
だが、ここ数か月は連日続けて断られることが多かった。
そしてまた断られたある日、ローゼリカが気分を変えたくなったのだろう、庭園でランチをしようと提案した。





「ねぇ、マリオン。ナナリーとリュシアール様に最近距離を取られてる気がするの。わたくし何かしてしまったのかしら?お茶に誘っても用事があるって断られることも多いし、たまにご一緒してくれても前より素っ気ない気がして…。」
庭園に向かいながらローゼリカは落ち込んだ様子でマリオンに話しかけた。
「確かにそうだな、でも気に障るようなことなんてしてなかったと思うぞ?俺から見ても突然様子が変わった気がする。」
「やっぱりそう思う?それにリュシアール様は生徒会と王太子のお仕事で忙しくされてるから、ご一緒されることは中々なかったけれど…。」
ローゼリカは先の言葉を続けるか悩んだが庭園に着いたため、一旦言葉を止め、そして庭園から聞こえてくる声に気付いた。



「リュシー様ったら、本当ですか?」
「あぁ、本当だよ。私は嘘は付かない。ナナリーと過ごす時間はとても楽しくていつまでもこうしていたいよ。」
「嬉しい!!!私もですわリュシー様♪」
それは、ローゼリカの誘いを忙しいから予定があるからと断った、ナナリーとリュシアールの楽しそうな声だった。
他の生徒会の面々も一緒にいるようだ。


その会話の内容にローゼリカは耳を疑ったが、覗いてみると確かにナナリーとリュシアールであった。
―どうして、ナナリーとリュシアール様が一緒に…。それに愛称で呼んで。まるで恋人のよう…。
ローゼリカは、胸が痛むのを確かに感じた、そして走り出し、その場から去った。

マリオンも目の前の光景と聞こえてきた会話が信じられず、傷ついた様子のローゼリカを見て、二人を問いただしたくなった。
だがしかし、それよりも先にローゼリカが走り出したため、ローゼリカを追いかけた。



-----------------------------------------------------------------------------

ナナリーは神の言葉を聞いてから、早速、生徒会に通うようになった。
言われた通り、ローゼリカに怪しまれないよう話しかけられたらそれとなく笑顔で対応し、
誘いも数回に1度は参加するようにした。

生徒会を手伝いたいというナナリーに最初は断りをいれていたリュシアールだったが、
何度も頼んでくるナナリーを鬱陶しく思うどころか、こんなに健気に自分たちの役に立とうとしてくれているナナリーを拒んではいけないという気持ちになった。
それは他の生徒会のフランツ・ヴィルム・キースも一緒だったらしく、ナナリーの申し出を受け入れることにした。

そうして、生徒会でナナリーと過ごすうちに、ナナリーと一緒にいたい気持ちが膨らんでいった。
ローゼリカのことは頭にあったが、ローゼリカのことを考えると自身の中にある黒い感情が増えるようで気持ちが悪く、一層ナナリーといることに拍車をかけた。

そうやって、数か月、ナナリーは生徒会の4人と過ごし、それぞれと親密になっていった。
そんなナナリーの腕と首では神からもらったネックレスとブレスレットが怪しく光っていた。
--------------------------------------------------------------------------------




庭園から逃げたローゼリカはマリオンと共に特別室に戻ってきた。

「最近、ナナリーがリュシアールや生徒会の方々と親しくしているっていうのは本当だったのね。あのナナリーが婚約者のいる方々と不適切な距離で親しくしているなんて。いつも誠実でいてくださったリュシアール様がそれを許しているだなんて。聞いても信じられなかった、信じたくなかった。………わたくしはどうしたらいいの?」
「ローゼリカ…」

ローゼリカは愛し子である、ゆえに愛情を惜しみなく注がれてきた。そして平和なこの国ではローゼリカを悲しませるような人間もいなかった。ローゼリカは愛し愛され生きてきた。だからこそ、二人の裏切りともとれる行動を前に動揺しひどく悲しんでいた。こんなに悲しい気持ちになったのは初めてだった。

「ローゼリカ、泣け。今は泣くんだ。たくさん泣いて、それから考えよう。俺はずっと側にいるから…。」
マリオンがそう言うとローゼリカの瞳から涙がひとつまたひとつと零れた。
そして、涙はとめどなく溢れ、ローゼリカは泣いた。


ひとしきり泣いたローゼリカ。マリオンはずっと隣にいてくれた。
「ありがとう、マリオン。こんなに泣いたのは初めてだわ。」
「そっか、俺はローゼリカの笑った顔が大好きだけど。泣きたいときは思いっきり泣いた方がいいんだ。すこし落ち着いただろ?」
「えぇ、まだ戸惑いはあるけれど、少し落ち着いたわ。それでね、マリオン。わたくし、一度ナナリーとリュシアール様とお話しようと思うの。もし、二人が想いあっているのならそれでいいともわたくしは思うの。でも今の状況は良くないわ。本当に想いあっているのなら、わたくしとの婚約は解消してそれからお付き合いをするべきだわ。」

先ほどまで悲しみに押しつぶされそうだったローゼリカはいない、やるべきことを前に見据えている。
「それはそうだが、ローゼリカはそれでいいのか?兄上のことが好きなんじゃないのか?」
「リュシアール様のことは尊敬しているわ、でもそれが恋なのかと言われると分からないわ…。わたくしはリュシアール様もナナリーも好きなの。この気持ちは一緒だわ、きっとそれは恋の好きではないのでしょう?マリオン、恋の好きってなんなの?」
「それは………。誰よりも守りたくて、大切で、特別なんだ。相手のことを想うだけですごく幸せな気持ちになれる、でも時々辛くもなるんだ。まぁ辛くなるのは一方通行の恋だけなのかもしれないがな。」
そう言うと、マリオンはとても優しいけれどどこか熱を持ったような瞳でローゼリカを見つめた。
そんなマリオンにローゼリカは胸に違和感を感じたがすぐに気を取り直した。
「マ、マリオンはそういう相手がいるってこと?」
「いや、そんな感じだって聞いたんだよ。それより、ローゼリカが二人と話をしたいって言うなら俺も協力する。ちゃんと話し合おう。」
「えぇ、ありがとう、マリオン。心強いわ。実は生徒会の他御三方にも婚約者の方がいらっしゃるでしょう?その方々から、ナナリーとも親しくしている私から注意してくれないかと言われていたの。どうにも、ナナリーはリュシアール様だけでなくその御三方とも親しくされていて、婚約者のいる方に対する距離感ではないらしいの。もちろん、婚約者の方にもナナリーにも直接言ったらしいのですが真面目に取り合ってくださらないようで…。ナナリーがそんなことするなんて信じられなかったから、考えておきますわとは言っていたのですけれど、あの様子を見るとそれもあながち嘘ではないのでしょうね。」
「あぁ、俺も信じられなかったが、先ほどのを見てしまってはな…。」
「近いうちにナナリーとリュシアール様とお話をしなくてわね。」
「あまり無理するなよ、ローゼリカ。こういうことはあまり慣れてないだろう。」
「それはそうですけれど、甘えるばかりではなく自分の足でしっかり歩かなくてはいけないわ。これはわたくしがやらなくてはいけないことなのよ。」


無垢で悪意など知らなかったローゼリカ。世間知らずとも言うのだろう。
でもローゼリカは知ってしまった、辛い気持ちを悲しい気持ちを。
そして、自身の力で前に進むことを選択したのだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした

由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。 無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。 再び招かれたのは、かつて母を追放した国。 礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。 これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。

悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした

ゆっこ
恋愛
 豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。  玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。  そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。  そう、これは断罪劇。 「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」  殿下が声を張り上げた。 「――処刑とする!」  広間がざわめいた。  けれど私は、ただ静かに微笑んだ。 (あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)

王子の逆鱗に触れ消された女の話~執着王子が見せた異常の片鱗~

犬の下僕
恋愛
美貌の王子様に一目惚れしたとある公爵令嬢が、王子の妃の座を夢見て破滅してしまうお話です。

悪役令嬢発溺愛幼女着

みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」  わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。  響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。  わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。  冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。  どうして。  誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~

桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」 ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言? ◆本編◆ 婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。 物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。 そして攻略者達の後日談の三部作です。 ◆番外編◆ 番外編を随時更新しています。 全てタイトルの人物が主役となっています。 ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。 なろう様にも掲載中です。

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

処理中です...