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贅沢? 苛め? 勘当?
しおりを挟むなぜ困るのかしら……?
心の中で両親の言葉に首をかしげる。
両親、と言っても実父母ではなく叔父夫婦だけれど。
私の母は元々身体が弱く、私が1歳の時に病気で亡くなっている。
父は再婚するつもりがなかったようで、ひとりっ子で男児のいないシブツリトー侯爵家のため王家から打診されてスデーションタ殿下と私の婚約を決めたらしい。
その父も、私が5歳の時に馬車の事故で還らぬ人となってしまう。
そして私とスデーションタ殿下が結婚するまでの間は、私よりひとつ年下の娘がいる叔父夫婦がシブツリトー侯爵領を任されることになり、私に新たな家族ができた。
「なぜ、困るのかな?」
私と同じ疑問をイーチュスエド殿下が両親に問う。
「む、娘は、ノナーニュービは、もの凄く贅沢でわがままなんです。領地運営なんてできるわけがない」
「それにいつも妹のネムセーニを苛めてばかりで、ネムセーニの物を無理やり奪ったりする事もしょっちゅうです」
ひどく慌てた口調で叔父と叔母が発言する。
事実とまったく異なる事を。
そんな事はありません、と言おうとしたらスデーションタ殿下の「そんな事をしていたのか!」の言葉に遮られてしまった。
その後はネムセーニも加わり、食事は自分だけ肉ばかりで家族には肉を食べさせてくれないだの、宝飾品が大好きで買い漁っているだの言いたい放題。
お肉、特に牛肉が大好きなのはネムセーニで、家族と食事内容が違う私は父が亡くなってから家でお肉を食べたことが無いのに。
私から実母の形見のアクセサリーを奪うほど宝飾品が大好きなのは叔母とネムセーニなのに。
救いを求めるように真実を知る幼馴染の顔を見てしまう。
けれど彼の口は固く閉ざされたまま。
それはそうよね、ヨダンリッゼは護衛騎士としてこの場にいるだけで、口を挟むわけにはいかない立場だもの。
でも心なしか、口元が笑いを堪えているように見えるのが気になるわ。
スデーションタ殿下のオッパイ発言からずっと笑いを堪えているのかしら、もしそうなら恥ずかしすぎる。
「なるほど……ね」
イーチュスエド殿下が小さくため息をついた。
こんな話、イーチュスエド殿下は真に受けないですよね?
冷酷だと言われているけれど、物事を正しく平等に判断してくれるイーチュスエド殿下ですもの、一方だけの発言を鵜呑みにすることは無いはず。
「ノナーニュービ嬢がシブツリトー侯爵家にこのまま留まるのは望ましくなさそうだ。シブツリトー侯爵家からノナーニュービ嬢を除籍することを命ずる」
え、イーチュスエド殿下、なぜ……
除籍……?
私、家から勘当されるの……!?
「では、ノナーニュービ嬢の除籍も含めて手続きに必要な書類をすぐに整えよう。準備が整うまでシブツリトー侯爵家には控えの間を用意するので、そこで待つように」
イーチュスエド殿下はヨダンリッゼではなく、部屋の中にいるもうひとりの護衛騎士に声をかけた。
「カシーナフリセ、案内を頼む。シブツリトー侯爵たちを銅の間へ。ああでも、除籍するのだからノナーニュービ嬢は別の部屋の方がいいか」
今度はヨダンリッゼの方を見て命じる。
「ノナーニュービ嬢の案内はヨダンリッゼにお願いしよう。金の間がいいかな。ヨダンリッゼ、先ほどの話だとノナーニュービ嬢は贅沢でわがままなようだから、侍女に言って私が食すものと同じ茶菓子を用意させるように。長い待ち時間に不満が溜まって暴れられでもしたら大変だからね」
金の間に着くとヨダンリッゼはすぐに部屋を出ていった。
おそらくイーチュスエド殿下の言いつけ通り侍女に声をかけに行ったのだろう。
しばらくすると、侍女がお茶とお菓子を持ってきてくれた。
紅茶と一緒にテーブルへ置かれたのは私の大好きなアップルパイ。
大好きと言ってももちろん自分の家で食べたことは無く、ヨダンリッゼの家へ遊びに行った時くらいにしか食べた事は無いけれど。
お茶を用意してくれた侍女と入れ違いで、ヨダンリッゼが部屋に戻ってきた。
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