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住み込みの使用人?
先ほどイーチュスエド王太子殿下の隣で吹き出した時から、ずっと笑うのを我慢していたのかもしれない。
「もう、ヨダンリッゼったら、笑い事じゃないのよ!」
金の間に入り扉を閉めた瞬間からお腹を抱えて大爆笑しているのは、私の幼馴染のヨダンリッゼ。
リアナミタス伯爵家の次男でイーチュスエド王太子殿下の護衛騎士。
私の、初恋の人。
そして今でも、秘かに想っている人。
幼い頃から仲が良かった私たち。
父が亡くなって私が塞ぎ込んでいた時も寄り添ってくれた。
気力を失っていた私に、将来スデーションタ殿下と一緒に夫婦でシブツリトー侯爵領を守っていくことを望んでいたノナーニュービの父さんのためにもがんばろうって励ましてくれて。
叔父夫婦が女の私には不要だと言い続ける領地運営のための勉強も、ヨダンリッゼが色々な所から学んできて私に教えてくれた。
伯爵家の次男で家を継ぐ予定のないヨダンリッゼは、騎士になるための訓練もしていたからかなり負担だったと思う。
忙しい合間を縫って、私の勉強に付き合ってくれていた。
貴重な時間だったにもかかわらず、亡くなった父と母を想って私が泣いてしまい勉強が手につかない時もあったのに。
そんな時でも文句も言わずに、私が泣き止むまでずっとそばにいてくれたヨダンリッゼ。
感情に無理やり蓋をさせず泣きたい時は思う存分泣かせてくれたヨダンリッゼのおかげで、嬉しいとか楽しいとか他の感情を取り戻すことができた。
「だってあいつ、絶対にオッパイって言おうとしてただろ。婚約破棄の理由が、オッパイって」
「もう……だから、笑い事じゃないってば……」
情けなくて、涙が出そう。
落ち着いて考えると、公衆の面前でペチャパイだって言われたようなもの。
そんな私の様子に気づいたのか、ヨダンリッゼは急に心配顔になって私の顔を覗き込んできた。
「悪い、泣かせるつもりは無かったんだ。あんな奴の事なんて、笑い飛ばしてしまえばいいと思って」
「婚約破棄はまだいいの。でも、家まで勘当されてしまって……」
こればかりは、笑ってなんていられない。
明日から、住むところさえないんだもの。
「それなんだけど、ノナーニュービ。俺の所に来ないか? 先日の武術大会で優勝した褒美に陛下から……実質的には王太子殿下からだけど、屋敷を賜った。そこに住めばいい」
え……ヨダンリッゼの家、に?
「住み込みの使用人として? 私にできるかしら……でも弱音言ってちゃダメね、仕事ありがとうヨダンリッゼ、頑張るわ」
「いや、使用人としてではなく、妻として」
妻……として?
「私たちの話聞いてた?もう私は侯爵家の娘じゃないの、ただの平民なのよ?」
私と結婚しても、伯爵家のヨダンリッゼには何のメリットも無いわ。
「問題ない。この国では貴族と平民の結婚も認められている」
確かに、そうだけど……。
「同情して気を遣ってくれるのは嬉しいけど、結婚はダメよ。だって私を妻にしたら、ええと……その……好きな女性と、性的な関係を持てなくなってしまうわ」
この国では夫婦間での性交渉しか認められていない。
婚前交渉も禁じられているし、ましてや不貞行為なんて絶対に許されない。
だから私と結婚したら、ヨダンリッゼは私としかそういった行為をできなくなってしまう。
同情なんかで結婚を決めたら、後悔するわよ?
「ああ、分かっている。この国では結婚後に不貞を働いたら身分剥奪の重罪だ。軽い気持ちで言っているんじゃない。ノナーニュービがスデーションタ殿下と結婚して幸せになるならと諦めていたけど、俺はずっと、ずっとノナーニュービの事が好きだった。ノナーニュービは、俺の事をどう思っている?」
嬉しい……けど。
ヨダンリッゼも、スデーションタ殿下と同じように胸の事を重要視したりしない?
「私もヨダンリッゼの事が好き。でも、ね。ドレスの上からでも分かるでしょ、私の胸、小さいのよ。スデーションタ殿下に婚約破棄されちゃうくらい」
ハハハ、とヨダンリッゼが笑った。
太陽のように明るい、私の大好きな笑顔で。
「大切なのは大きさじゃなくて愛しいと思えるかどうかだろう? 小さな胸も含めて俺はノナーニュービが好きだ。たとえ大きな胸でも、他の人じゃ代わりにならない」
ヨダンリッゼは私の前で片膝をついて跪くと、そっと私の左手をとった。
「ノナーニュービ、俺と結婚してほしい」
――何もない私でも、いいの?
書類の準備が整ったと呼ばれ、婚約破棄と除籍に関する書類を確認してサインしていたら別の書類が追加で机の上に用意された。
陛下から権限を委譲された王太子殿下の特別許可により、異例の短期間で婚約から結婚までの手続きができる書類。
来月スデーションタ殿下と結婚するはずだった私は、婚約破棄されたら初恋のヨダンリッゼに大爆笑されその彼と来月結婚できることになった。
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