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7(かのこちゃん視点)

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「あー、びっくりした~」

 琴莉と太陽先輩が帰った直後、リビングに翼の声が響く。
 力が入らないといった感じで、崩れ落ちるように翼がソファへ腰をおろした。

 私はそのすぐ隣に座り、大きく息を吐く。

 家に来る途中、車の中で琴莉が恋人と別れたって聞いて、太陽先輩へ私からその旨を連絡したけど。

 まさか太陽先輩が琴莉と本当の兄妹じゃないなんて……。
 しかも結婚しよう、とか言いだすとは、ねぇ

 まぁ太陽先輩らしいというか何というか……


 太陽先輩が重度のシスコンでヤンデレだってことは中学生の頃から気づいていた。
 おそらく私以外は知らないと思う、太陽先輩の想い。

 んーでも、気づいていたって言うと少し違うのかな。

 琴莉と一番仲が良かった私にだけ、太陽先輩は気づかせてた。
 私を協力者にするために。

「……実は俺さ、中学一年の時、琴莉のこと好きだったんだよね」

 うん気づいてたよ、って言ったら翼に驚いた顔をされた。

 気づくよ、それは。
 好きな男の子が、誰を好きかなんて。

 気づいていたけど、こういう事を翼の方から素直に隠さず言ってくれるのは嬉しい。

 多くの人が幼稚舎から大学までエスカレーター式で通う学校へ、外部からの中学受験で入学した私と翼。

 人懐っこい性格の翼はクラスでもすぐに打ち解けていたけど。
 性格に少しキツイ所がある私は、なかなか馴染めなくて。
 女子なんて特に、小学校からのグループで固まってたからね。

 そんな中、もともと人見知りの性格もあってかどこのグループにも入ってなかった琴莉。
 その状況を、特に本人は気にしてなさそうで。
 ひとりでいるのが苦じゃないって感じ。

 かといって、人を寄せつけないわけでもない。
 誰が話しかけても穏やかな表情で対応している。

 もちろん私にも、ほんわかした態度で接してくれた。
 まるで優しさで包み込むような雰囲気。

 琴莉は特別何ができるっていう訳じゃないけど、一緒にいるだけで癒される。
 そう思うのは、私以外にもたくさんいたようで。
 本人は気づいていないけど、琴莉は実はかなりモテてた。

「もちろん今は、かのこ一筋だから」
「大丈夫、それも知ってる」

 私たちが付き合えるようになったのは、太陽先輩のおかげでもある。
 ま、太陽先輩にとってそうする事が都合が良かっただけだけど。
 琴莉の事を好きな翼がそれ以上好意を寄せないように、太陽先輩はそれとなく翼の興味が私に移るようにしてくれた。

 私たちの他にも太陽先輩は裏で手を回して、いくつものカップルを成立させている。

 男性側は皆、琴莉に好意を寄せていた男たち。

 太陽先輩、琴莉に恋愛フラグが立ちそうな事はことごとく排除していた。
 あの陰の努力には脱帽する。

 琴莉が忘れ物をして男子に借りる事態にならないよう、必要な持ち物については本人以上にいつも把握していた。
 ごく稀に琴莉が忘れ物をしても、いつの間にか太陽先輩が届けにきている。
 突然雨が降って琴莉が傘を持っていない時とか、必ず迎えに来ていた。

 中二になって校舎が別れても、何かと用事を作って中等部に顔を見せたりしてたなぁ。

 中等部でも高等部でも生徒会長をしていた太陽先輩。
 生徒だけでなく先生からも頼りにされる事が多くて、卒業しても顔を見せるための理由には事欠かなかったらしい。

 太陽先輩は人気者だから、いるとみんなが競うように話しかけにいく。
 でもそれは、太陽先輩にとって思うつぼ。
 それとなく琴莉に関する情報を集め水面下で恋の芽を摘み取っていた。

 それなのに。
 4か月前、太陽先輩が海外出張中で、私がインフルエンザで寝込んで翼に看病してもらっていた時期。

 琴莉は大学の友人に誘われ、初めて合コンに参加してしまった。
 いつまでもお兄ちゃんや女友達にべったりじゃダメだよって説得されたらしい。

 そこで社会人の木戸浩次さんと知り合い、付き合うことに。

 琴莉に彼氏ができたと伝えた時の、絶望したような太陽先輩の表情は忘れられない。

 だから琴莉が彼と別れたと知って太陽先輩、嬉しかっただろうな……。

 でも、いきなり結婚って。
 あの様子だと琴莉は、普段よく読む漫画や小説に出てくる契約結婚みたいなものだと思っているのかも。
 琴莉は家族を得るため、太陽先輩にとってはお見合いを断る口実になるための。

 だけど太陽先輩は本気。
 琴莉を手に入れるための、プロポーズ。

 結婚に対するふたりの思いに温度差を感じる。

 太陽先輩、長年の想いが溢れて暴走しなきゃいいけど……





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