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偶然にも私の誕生日と同じだった
しおりを挟む「サクラの家まで歩いて帰る事はできない距離でしたよね?」
「はい……確か、仮眠室がありましたよね、ここの研究所。私は使った事が無いですけど」
「仮眠室、ですか……」
ベルダー様が眉をひそめた。
そんな怪訝な表情でさえ、イケメンがすると惚れ惚れしてしまうほど麗しい。
「サクラ、あの部屋を使うのは男性だけです。他の階には残っている者もいるかもしれない。仮眠室には鍵が無くて女性には危ないですし、使用許可は出せません」
えー、ならどうしろと?
悩む私の目の前に、何かの鍵が差し出された。
…………?
何の、鍵??
思わずキョトンとしてしまう。
そんな私を見て、ベルダー様が少し困ったように微笑んだ。
「これは、私の家の鍵です。家はここから歩いてすぐの所にあります」
ベルダー様の家……。
場所は、知っている。
大きくて立派なお屋敷で有名だから。
王都の一等地に構えるこの王立魔導具研究所から歩いて五分もかからないところにあるお屋敷。
噂好きな人が教えてくれたところによると、ルゼド・ベルダー様は由緒正しいベルダー公爵家の三男らしい。
王国の筆頭魔導師として魔導具の開発に優れた才能を発揮しているため、陛下から研究所近くに屋敷を賜りおひとりで暮らしているのだという。
そんなベルダー様の家の鍵……
それを私に、どうしろと?
「私が仮眠室を使うので、サクラは私の家を使ってください」
「え、え? そんなのダメです、悪いですよ」
「サクラの寝る場所が無い方が、私の夢見が悪くなって困りますから。私のためにも使っていただけると助かります」
手にベルダー様の家の鍵を握らされた。
うう、ベルダー様。最終の馬車を逃すようなマヌケな私にまで優しい。
イケメンなうえに性格も良くて中身まで格好いいとか、ハイスぺ過ぎて困る。
「……申し訳ありませんベルダー様。ありがとうございます……」
「そうそう、屋敷の門に埋め込まれた魔石へ順に触れることで警備魔法が解除されます。その番号も教えておきますね」
耳をかしてください、とベルダー様に手招きされた。
まわりに人がいないから内緒話じゃなくても大丈夫だと思うけど、屋敷の警備魔法を解除する大事な暗証番号だから絶対に他の人に聞かれないようにしたいのだろう。
椅子に座ったままベルダー様の方へ耳を近付けるように、少しだけ身体を傾けた。
ベルダー様の麗しい顔が、私の耳に近づいてくる。
まるで頬へキスされるような錯覚に陥り、私の心臓は勝手にバクバク飛び跳ねてしまう。
ベルダー様の心地よいテノールの声が、私の耳元で優しく響く。
え――?
ベルダー様が教えてくれた暗証番号は、偶然にも私の誕生日と同じだった。
すごい、これならメモしなくても忘れないで済む。
好きな人の暗証番号が自分の生年月日と一緒。
それだけなのに、召喚前の日本のおみくじで一度だけひいたことのある大吉の時のように嬉しくなってしまう。
神様、こんな偶然ってあるんですね。
「ドアを開けて左へ廊下を進むと寝室と浴室があるので、適当に使ってください。シーツは昼間、通いの使用人が交換しているから綺麗なはずです」
シーツ!?
そ……か……、寝るためには使うよ、ね。
なんか恐れ多くて、ベッドの真ん中でなんて寝ちゃいけない気がする。
なるべく端っこで寝よう、そうしよう。
明日は仕事が休みの日。
起きたらシーツを洗濯して、乾かしてから帰ればいいのかな?
でも、本当にいいのかしら?
私が勝手に寝室を使ったりしたら、ベルダー様が恋人の女性から怒られたりしない?
結婚はしていないらしいけれどベルダー様なら絶対にいますよね、お付き合いしている女性が。
第二王女のクローシェ様と恋仲だという噂も聞く。
クローシェ様は青みがかったきれいな瞳をした、栗色のロングの髪がふわりと美しい、とても素敵な人。
恋仲だとういう噂、実際はどうなんだろう。
ベルダー様本人に確認したことはない。私には確認する権利もないし。
「明日、ベルダー様が家に戻られたら入れ違いで帰るようにしますね。それではベルダー様、失礼いたします」
「あ、ちょっと待ってください」
ベルダー様に軽く手首を掴まれて、ドッドッドッと鼓動が速くなる。
驚愕な値の脈拍数が、ベルダー様に伝わってしまいそう。
「こんな時間に女性ひとりで歩いていたら危ないですよ。送ります、あと少しだけ待っていてください」
「ぇ、ぁ、はい、分かりました」
ベルダー様は本当に優しい。
可愛らしい女の子とはほど遠い地味子な私の事まで、いつも女の子扱いしてくれる。
召喚前、日本の満員電車でやたら息を首にかけてくる痴漢に遭って以来ずっと、首が隠れるように重い黒髪をまっすぐおろし地味なデザインの服ばかり着ている野暮ったい私なのに。
研究所を出るとすぐに、ベルダー様は左耳のイヤーカフに指で触れていた。
ベルダー様がイヤーカフをつけているのは私が知る限り初めてだから、外れていないかとかズレていないかとか気になるのかもしれない。
少し歩いたところで、ポツ、ポツ、と雨が降ってきた。
最初は気にならないくらいだったけれど、あっという間に土砂降りの雨へと変わっていく。
雨が降りそうな気配なんて全く無かったから、今は傘を持っていない。
「サクラ、これを被って」
ベルダー様が自分のローブを私に被せようとしたので、手を振って断った。
「私は大丈夫です。ベルダー様が濡れては大変ですから、着ていてください」
「……では、ふたりで被りましょう」
ふわりとローブが身体にかかったと思ったら、グッとベルダー様に肩を抱き寄せられた。
私の心臓がドキッと跳ねる。
ローブで少しは防げたけれど雨の勢いはそれ以上に激しくて、ベルダー様の屋敷の門に着いた時にはふたりともすっかりずぶ濡れになっていた。
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