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婚約破棄③
しおりを挟む「……俺が、リーベに手を出したことにすればいい。婚約破棄されたリーベを慰めているうちに、そういう流れになったということにして」
「まあ、ね。たとえ王族といえど、女性の純潔を奪ったりしたらその責任を取らなければ王家が信用を失うから、ストルグがリーベに手を出したとなれば陛下もふたりの婚約を認めざるを得ないだろう」
「ああ、それで婚約期間中にリーベの今後について最善の方向を考えようと思う。そうすれば、今リーベの純潔を奪うまでの必要はない」
はぁ、と呆れたようにため息をついたアフェクトが、ストルグに刺すような視線を送る。
「……やはりストルグは分かってないね。それはやめた方がいい。王族と婚姻前に性交渉を行ったとなると、真偽を問うために調査が入る。リーベは何人もの役人から口に出すのも躊躇われることを聞かれ、身体も隅々まで調べられた挙句に嘘をついていたとふたりとも罰せられるから」
グッと眉を寄せ、苦しそうな表情をストルグが見せた。
「……俺が罰せられるのはかまわない。だがそれなら、俺が今お手付きにしたところでリーベが役人どもに辱められるのは変わらないじゃないか」
「変わるよ。今この場で行われるなら性交渉については私が証人になろう。執務室に戻ったらふたりがその最中だったと。それに今日なら行為後すぐに王家専属の医師を呼ぶこともできる。リーベが純潔を誰に散らされたか、第三者の眼で直後の状況を確認してもらえばそれ以上調査が入ることはない。第二王子ストルグ本人の自白と王太子の証言に加えて第三者の証言だからね、異を唱える者はいないはずだ」
重い沈黙が、三人の間に流れる。
それを破ったのは、ストルグだった。
「……わかった……。俺が、リーベの……純潔を、もらう」
「ス、ストルグ様!?」
普段からクリッと大きな紫色の瞳をますます大きく見開いて、リーベが横に座るストルグに顔を向ける。
「だから……せめて兄上、席をはずして、もらえないだろうか。その……リーベも、兄上には見られたくないだろうし」
「それは無理だな。今この部屋の付近は人払いをしているけれど、私が部屋を出たのを遠目で確認したらすぐに医師を呼びに行く手筈となっているからね。ああ、その者まではこの部屋の声は聞こえないから、安心していいよ」
何をどう安心しろというのか分からないけれど、次期王となる者として身についた人を魅了する笑みを浮かべているアフェクト王太子。
ストルグは他の者と違ってこの笑顔に絆される事はないが、アフェクトがこの表情をした時は自分の考えを譲る気がない事を小さな頃からそばにいたから知っている。
諦めたように、ふー、とため息をついてからストルグはリーベを見つめた。
「……リーベ、カリタスと結婚したいと思う気持ちが、少しでもあったりするか?」
リーベがすぐに首を横に振る。
愛し合うふたりが、自分のためにその愛を引き裂かれてしまうなんて、そんなこと耐えられない、と。
「それなら、一度だけだから、我慢して俺を受け入れてくれ」
ストルグがソファに片膝を乗せ、リーベに身体を寄せた拍子にギシッとソファが軋む。
「終わった後は、悪い夢でも見たと思って忘れてしまえばいい」
リーベの顎に指をかけクィッと顔を上向かせると、ストルグはそっと唇を重ねた。
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