38 / 45
夜
しおりを挟む※この物語の世界では、ソーサーが現代と同じ使われ方をしています。
風で窓がガタガタ揺れている。
もうすぐ嵐が来るのかもしれない。
昼間は、とても良く晴れていたのに。
ミチェーリ様が眠るベッドの側に置かれた椅子に座ったまま、窓から遠くを見つめる。
クラウド様とレイン様のいる場所は大丈夫だろうか。
ガチャ、とミチェーリ様の部屋のドアが開いた。
入ってきたのは、お茶のセットを持ったフォッグ様。
「おい、お茶を淹れてきてやったぞ」
「ぇ……、僕のためにお茶を淹れてきてくれたのですか?」
「ぁぁ、そうだ。交替の時刻だしな」
ネージュ様とマリベルさんがシュトルム王太子殿下の公務へ同行しているため、僕はミチェーリ様の部屋でフォッグ様と交替で仮眠をとりながら一緒に過ごす事になっていた。
だけどすぐに、ご自分の部屋へ行ってしまったフォッグ様。
だから僕は、今夜ひとりで子守をするのかと思っていたのに。
まさか交替の時間を覚えていて、しかもお茶を淹れて来てくださるなんて。
「嬉しいです、ありがとうございます」
部屋の中にあるテーブルの所へ移動する。
僕の目の前に、お茶の入ったティーカップをフォッグ様が置いてくれた。
フォッグ様と二人、小さな明かりを置いたテーブルを挟んで向かい合って座る。
湯気が上がっているカップを手にするとフォッグ様は、ふー、ふー、と息を吹きかけてから口にしていた。
『私は王太子という立場上、毒見のされていないものを口にする事が無いから、つい気になってしまってね。でもデュオンも、用心するに越したことはないからよく知らない相手から何か貰っても、すぐ口にしない方がいいよ』
なぜか急に、以前シュトルム王太子殿下に言われた事が頭に浮かんだ。
でもフォッグ様はよく知らない相手ではないし、目の前で先にお茶を飲んでいる。
「どうした、飲まないのか?」
「ぁ、いただきます」
フォッグ様に促され、慌ててお茶を口に含む。
今まで飲んだことの無い、甘い味のするお茶だった。
フォッグ様は公爵家の方だから、通常では手に入らないような珍しいお茶を入手できるのだろう。
ミチェーリ様のお世話をしている間ずっと水分を摂っていなかった僕は、少しぬるくなっていたお茶を一気に飲み干し空になったカップをソーサーへ置いた。
「喉が渇いてそうだな。もう一杯淹れてやろうか」
「ぁ、ありがとう、ございます……。いただき、まふ……」
ん……?
ほんの少しだけ、自分の体調に違和感を覚える。
一瞬だったけれど、眩暈がしたような気がして。
目の前でお茶を注いでくれているフォッグ様を見ていたら、だんだん瞼が重くなってきた。
……あれ…………?
ね、むぃ……?
ぐッと唇を噛んだ。
必死に眠気と闘う。
昨晩クラウド様とレイン様に導かれ激しくイッてしまったとはいえ、睡眠時間は充分だったはず。
交替時間だから眠ってしまってもいい時間だけれど。
子どものお世話に関して経験の浅いフォッグ様の事を、ネージュ様は心配していた。
出発前、ネージュ様が不安な気持ちを僕に少しだけもらしていたから、なるべく今夜は寝ないでミチェーリ様のお側にいようと思っている。
だから、まだ寝るわけにはいかない。
それなのに……。
今までに感じた事の無い眠気が僕を襲ってくる。
起きていたいのに、目が開かない。
どうして……
…………
……
23
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜
小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」
魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で―――
義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!
助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!
夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。 ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公
弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。
あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。
だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。
よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。
弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。
そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。
どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。
俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。
そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。
◎1話完結型になります
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる