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雷鳴
しおりを挟む暗い――
ぃゃ、明るい?
目が覚めて、真っ暗だと思った視界。
けれどすぐに一瞬だけ光った。
そしてほんの少し遅れて聞こえてきた、激しい破壊音。
雷?
苦手だ。
前世から、ずっと。
起き上がるために手を動かそうとしたけれど、動かない。
横向きで寝転がったまま視線を足の方へ向ける。
ロープで縛られている僕の足首……。
手は背中の方にまわされているから分からないけれど。
足の状態を見る限り、おそらく手首も縛られているのだろう。
そうしている間もずっと、恐ろしさを感じるくらいの雷鳴が轟いていた。
目隠しはされていなかったので、視線をキョロキョロと彷徨わせてみる。
枠だけでガラスの無い窓の外から、何度も僕の視界を照らす稲光。
枯れた葉が落ちている土の床。
隅の方には壊れた農具が転がっていた。
使っていそうな農具は、無い。
ここは、もう使われていない農場の納屋とかだろうか……。
僕はミチェーリ様の部屋にいたはず。
フォッグ様も一緒だった。
それなのに、どうしてこんな場所に……。
手が使えないのは不便だったけれど、なんとか上半身を起こして座ることができた。
ガタガタッ、と音がしたので咄嗟にバッとそちらへ顔を向ける。
両開きの引き戸が片側だけ開いていた。
そして、開いた戸の所に立っていたのは、フォッグ様。
その背後では、激しい雨が降り続いている。
でもフォッグ様が立っている所には屋根があるのかもしれない。
フォッグ様の髪は濡れていなかった。
表情もいつも通りで体調に変わりは無さそうだ。
ホッと安堵の息を吐く。
「フォッグ様、よかったご無事で……」
「お前は馬鹿か? どこまでお人好しなんだ」
「ぇ……?」
こちらへ近づいてきたフォッグ様は鼻先で笑うと、座っている僕を見下ろし目を細めた。
「お前には犯人になってもらう」
「犯人? いったい何の……?」
「ミチェーリ様を誘拐した犯人だよ」
……ミチェーリ様を誘拐?
僕の馬鹿ッ、どうしてすぐに考えなかったんだ。
小さなミチェーリ様の身が、危険にさらされている可能性を。
「ミチェーリ様はご無事ですか!?」
「人の心配をするなんて余裕だな」
「教えてくださいっ、それともフォッグ様はご存知ないのですかッ」
ククッとフォッグ様が笑った。
「ミチェーリ様の事なら心配する必要は無い。お前の悪事に気付いた僕が助けたのだから」
「僕の悪事に気付いたフォッグ様が……?」
「今は外に停めてある馬車の中にいる 。ミチェーリ様は無事だ」
「馬車に……」
ミチェーリ様、雷が怖くて泣いていないだろうか。
馬車の中にいると言われ、外の様子が気になった。
先ほどフォッグ様が入ってきた戸口の方へ視線を向ける。
でも外を見る事はできなかった。
戸口に屈強な男たちが数名いて、こちらへとやってくるところだったから。
「お前はミチェーリ様の誘拐に失敗して、仲間たちの怒りを買う」
そう僕に告げるフォッグ様のうしろに、先ほど入ってきた男たちが無表情で立つ。
男たちは四人……違う、五人?
「身代金を得られなかった仲間たちは腹いせに、お前を嬲るんだよ」
「なぶ……、フォッグ様、僕にそんな事をしても、何にもなりませんよ!」
「なるさ。僕はミチェーリ様を助けた英雄になれる」
僕はフォッグ様を睨みつけた。
フォッグ様の利益のためにミチェーリ様を巻き込むなんて、そんなこと絶対に許さない。
「僕は全部話します。ここであった事、全部」
「話せるなら、話せばいい」
ニヤリとフォッグ様が笑った。
何が楽しくて笑うのか、僕には分からない。
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