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怜の生まれ変わりじゃなくてもふたりが好き
しおりを挟む「デュオ、なぜ泣いている!?」
声をかけられたのに驚いて、涙の勢いが少しだけ弱くなる。
僕の顔を、背の高いレイン様がお辞儀をするみたいに腰を曲げて覗き込んでいた。
レイン様はルフトエア公爵の件で忙しくしていたから、こんなに近くでお会いするのは久しぶりだ。
大きな手で優しく頭を撫でられて、僕の目から再び涙が零れていく。
「く……くらうどさまのこと……きいて……な、なくなられたと……」
レイン様が眉を寄せ、少し苦しそうに顔をしかめる。
痛みを我慢しているような、つらそうな表情。
「聞いたのか……」
レイン様の声が沈んでいる事に気が付いた。
よく見ると目が赤い。
「レイン様も……泣いていたのですか……」
「ああ。自分でも驚いた、泣いたのなんていつ以来だろうな」
顔を上げ、鼻に拳を当てると、ズ、とすすりながら遠くを見つめたレイン様。
その表情を見ていたら切なくなり、ギュッと胸が痛くなった。
でも僕に、悲しむ資格なんて無い。
「申し訳ありません、僕があの日、無理をさせてしまったから……」
豪雨の中、僕を助けるために軽装備で馬を走らせてきてくれたクラウド様。
僕の、せいだ……。
再びポンと僕の頭にレイン様の手が置かれた。
「デュオだけが責任を感じる必要は無い。年齢の事を考えると、もっと早く引退させてやるべきだったんだ。俺たちにも責任はある」
「ぇ……」
年齢?
引退??
レイン様の言葉に違和感を覚えたけれど、僕が質問するよりも先にレイン様に聞かれた。
「その事でクラウドの所へ行くところだったんだが、デュオも一緒に行くか?」
「クラウド様の所へ……はい、行きたいです」
「そうか、では行こう」
レイン様の手がそっと僕の背中に添えられる。
部屋の前に近付くと、宰相補佐たちがレイン様を見て姿勢を正した。
レイン様が彼らに声をかける。
「もう伝えたのか?」
「いえ、まだです。レイン様から報告なさった方がよいかと思いお待ちしておりました」
「そうだな、俺からクラウドに伝える。行こうデュオ」
伝える??
クラウド様、に……って
もしかして僕は何か勘違いをしていた?
「入るぞクラウド」
レイン様と一緒に部屋へ入った僕の視界が、また涙で滲んでいく。
ベッドに座ったクラウド様が、優しい眼差しをこちらへ向けていたから。
僕は胸がいっぱいになり、声をかけたいのに言葉が出なくなってしまった。
代わりに涙だけが目からポロポロ流れていく。
「デュオン」
「……くらうしゃま……」
クラウド様に呼びかけられて鼻声で答える僕の体がふわりと宙に浮いた。
レイン様が僕を抱き上げ、クラウド様のいるベッドの方へ進む。
ベッドのそばにある椅子へ腰をおろすと、レイン様は自分の膝の上に座らせた僕の頭を優しく撫でた。
そんな僕たちを見てクラウド様が困ったような笑みを浮かべている。
「デュオンは泣いている顔も可愛いけれど、レインに慰められているのは妬いてしまうな」
おどけたように言うクラウド様。
それに対してレイン様の表情は、暗く陰っている。
「クラウド……ヒューイが亡くなった……」
僕たちへ向けられていたクラウド様の瞳に影がさす。
「そうか……。教えてくれてありがとう、レイン」
ヒューイ……
確かクラウド様の、愛馬の名だ。
亡くなったのは、クラウド様本人ではなく、クラウド様の大切な存在。
「ご、ごめんなさい……やっぱり、僕のせいだ……」
「こっちへおいで、デュオン」
優しい声でクラウド様はそう告げると、僕を見つめて両手を広げた。
だけどレイン様が、片手を伸ばしてクラウド様を制している。
「だめだクラウド、まだ無理すんな。デュオを抱きしめるのは体調が良くなってからにしろ」
クラウド様が軽く肩をすくめた。
「本調子じゃないのがレインには分かってしまうんだね」
「そりゃぁな。付き合いが長い」
クラウド様、まだ具合いが悪いんだ。
それなのに僕を慰めようとしてくれた……。
「クラウド様……無理しないでください……」
僕を見つめてクラウド様が、ふふ、と笑う。
「デュオンにまで心配かけてしまうなんて、私もまだまだだね」
「クラウド様、僕に何かできる事はありませんか。看病とか」
ゆっくりとクラウド様が首を横に振る。
「無いよ。デュオンも大変だっただろう、身体を休めないと」
「クラウド様、こんな時くらいわがままを言ってください」
僕の言葉を聞いて少し目を見開いたクラウド様。
けれどすぐに、悪戯っぽい笑みを浮かべて僕を見つめた。
「ではデュオンに、好きだと言ってほしいな」
クラウド様の事は好きだけど、改めて言うとなると恥ずかしい。
顔が熱くなったのが自分でも分かった。
でも、伝えたい。
言ってほしいと言われたからじゃなくて、僕がクラウド様に言いたいんだ。
まっすぐクラウド様の青い瞳を見つめた。
「クラウド様、好きです」
「レインにも言ってあげて」
少し顔を上げて、レイン様の顔を見つめる。
「好きです、レイン様」
「生まれ変わってよかったよ。ね、レインもそう思うだろう?」
「ああ、そうだな」
嬉しそうなふたりの声。
僕もふたりが生まれ変わってくれてよかったと、心から思う。
だけどこの気持ちは、それだけじゃない。
「怜の生まれ変わりじゃなくても、ふたりの事が好きです」
想いが伝わるように、心を込めて告白した。
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