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牢屋にて
しおりを挟むカツン、カツン、と薄暗い階段に靴音が響く。
階段をおりた先は城の敷地内にある地下牢。
そのまま王太子シュトルムと妻ネージュは湿った土の匂いがする通路を歩いていく。
そしてつきあたった所で足を止めると、鉄格子の奥にいるルフトエア公爵を見つめた。
公爵の隣には、その息子フォッグの姿もある。
罪人のふたりが王太子へ危害を加える事の無いよう、食事に混ぜた薬でルフトエア親子は予め眠らせてあった。
「シュトルム、私は怒っているのよ」
ネージュの凛とした声が、薄暗い地下で悲しいほど美しく響く。
隣に立つシュトルムは一瞬だけ目を見開くと、すぐにスッと目を細めた。
「心外だなぁ、愛しい妻にそんな事を言われるとは」
「いくら影をつけているからって、私たちの大切なミチェーリをこんな男と一緒にいさせたなんて」
「公爵の目的は兄様たちを失脚させることで、狙うとしたら弱点になるデュオンだって分かっていたからね。ミチェーリに手は出さないという確信がなければ、私だってあんな事はしないさ」
キッとネージュがシュトルムを睨む。
そんな表情も可愛いな、とシュトルムはネージュに叱られそうな事を考えてしまった。
「そう、それも怒っているの。クラウド様とレイン様を遠ざけデュオンに囮のような真似をさせたでしょう、ひどいわ」
「兄様たちふたりに公務の同行をお願いしたのは、ネージュの安全を第一に考えての事だよ。私は妻を世界で一番大切に思っているからね」
「本当かしら」
「本当さ。だけどね、もし私がデュオンを囮にしたとしても兄様たちなら絶対無事に助けてくれるだろう?」
シュトルムはネージュの腰を抱き寄せ、彼女の額にチュと軽く唇を寄せる。
もう、とネージュは小さくため息をついた。
「それで、彼らはどうするの?」
「彼らはエレオス島へ送ろうと思っている」
「エレオス島……以前、騎士たちの訓練で使われていた島よね……確か今は、誰も住んでいないはず」
思案顔のネージュの事を、柔らかい笑みを浮かべたシュトルムが見つめている。
「誰も住んでいないけれど、彼らのために週に一度は船で食糧を運ぶからね。居住に必要な道具も揃えておく。贅沢はできないが普通に暮らしていける島だ。私もネージュと結婚する前、島で行われる三か月間の騎士の訓練に参加したことがあるんだよ」
「騎士たちの訓練で使っていた時も、特に問題は無かったと聞いているわ。でもたまに嵐がくるでしょう、その時は荷を送る船が出せないけれど大丈夫なの?」
ネージュの疑問に対して、安心させるような笑みをシュトルムが向けた。
「嵐は三日も続かないし、嵐が過ぎたら臨時便を出すようにするさ」
「そう、臨時の船を出すのね」
「島がそんなに大きくなくて無人島になっているけれど基本的には気候も土壌も良い土地だから、用意してある種を植えれば大抵の作物は順調に育つ。実際に訓練でも数週間で収穫できる野菜を自分たちで育てていたからね。だから食糧には困らないはずだよ」
王太子シュトルムが訓練に参加したくらいだから安全そうね……、とネージュが呟く。
「ふたりを罰する期間はどのくらいを考えているの?」
「私が訓練に参加したのと同じ、三か月間を予定しているよ。それでふたりの罰は終わりだ」
ネージュが目を大きく開いて意外そうにシュトルムの方を見た。
「シュトルムにしては甘い罰ね」
「そうだね、甘い罰かもしれない」
互いに協力し合えばだけどね、とシュトルムは考えている。
この数日でシュトルムは見張りの者から、互いに罵り合うルフトエア親子の報告を何度も受けていた。
「でも、その方が良いかもしれないわ。厳罰だとデュオンは気にして自分を責めてしまうと思うから」
胸の前で両手の指先をつけるように手をあわせ、安心した表情を浮かべているネージュを見てシュトルムは満足そうに微笑んだ。
そして、思う。
デュオンが襲われた日に捕らえたルフトエア公爵が雇っていた男たちも一緒に島へ送るつもりだという事を、愛しい妻には内緒にしておこうと。
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