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しおりを挟む「いいですか、魔法で点けた火は、容れ物にフタをしたりバリアなどで覆えば簡単に消えます。決して水で消そうとしないように。それは熱した油に水を注ぐようなものです」
皆、真剣に先生の話に耳を傾けている。
魔法はこの世界で生きていくにあたって、非常に大切な能力だから。
特に侍女クラスの方達にとっては。
魔法ができれば、料理も洗濯も掃除も楽ちん。
就職先も良いご縁に恵まれる。
「では、ヴェレッド・ソムニウム嬢、お手本をお願いします」
「はい」
先生に名を呼ばれ、皆の前へ進み出る。
なぜか私は、小さな頃から魔法の能力が高かった。
ゲームの設定のお陰だと思うけれど。
瓶を手に持ち、頭の中で火が燃えているところをイメージする。
それこそ、目の前で具現化するくらいに。
はっきりとイメージできたところで、口内でタンッと舌を打つ。
ポゥ、と瓶の中で青い炎が点き、チロチロと揺れながら燃え始めた。
小さかった火は次第に大きくなり、ぼぉぉぉおおおお、と校舎の屋上くらいまでありそうな火柱となる。
パチンと瓶に蓋をすると、すぐに炎は姿を消した。
おぉーという声とともに拍手が沸く。
こんなに大きな火を操ることができるのは、学園の生徒で私ぐらい。
私は今日、この魔法の能力を使ってアカリ様に怪我をさせる。
小さなガラス玉を破裂させて、指に小さな切り傷を作るの。
モフィラクト王太子殿下はアカリ様のもとへ駆け寄り、抱き寄せるようにして医務室へ向かうわ。
先日の噴水では失敗してしまったから。
今日は何としても成功させないと。
ん……?
女子生徒たちから少し離れたところで剣術を行う男子達の方から視線を感じた。
すげー、という声や拍手が聞こえてくる。
今の炎の魔法に対してかしら。は、恥ずかしいわ……。
クリフもこちらを見ていた。牛乳瓶の底のような眼鏡で表情はわからないけれど。
「さ、皆さんも始めてみましょう」
先生の声とともに、女子生徒たちは瓶を片手に念じ始めた。
新入生には、自分の魔法が終わった上級生が手を添え手伝う。
手を重ねると、魔法のイメージを共有することができるから。
火が点いた、という経験を何度も重ねることで、だんだんとひとりでもできるようになっていく。
いた、アカリ様。
入学前には魔法を使ったことがない設定だったのかもしれない。
ゲームのシナリオ通り、アカリ様の瓶には火が点いていなかった。
「お手伝いしますね」
アカリ様の背後から手をまわし、瓶を持つ彼女の手に自分の手を重ねる。
ポゥ、と瓶の中に小さな小さな火が点いた。
重ねた手には、ガラス玉を持っている。手を離した瞬間に、魔法で小さく破裂させればゲームの通りアカリ様の指に切り傷を作れるはず。
ゲームではモフィラクト王太子殿下が『アカリは、ヴェレッドがガラス玉を破裂させたと言っているが』と冷たく言い放つから。
よし、手を離す、わよ。
「すごい、すごいです! ヴェレッド様!!」
アカリ様が急に声を上げて私の方を振り向いたので、手を離した拍子にガラス玉が手から零れ落ちてしまった。
ふぁ、仕切り直しだわ。
「では、火を消してみてくださいね」
そう言いながら、ガラス玉を拾う。割れてはいない、よかった。
どうしたらいいかな、と思いアカリ様の方を見て、自分の目を疑う。
ア、アカリ様!?
もしかして、水を注ごうとしてる!?
やだ、先生の話を聞いてなかったの!?
ご自分で持っていた水筒を開け、今まさに中身を瓶に注ごうとしていた。
咄嗟に瓶を持つ彼女の手を払いのけ、近くにいる人へ瞬時にバリアをかける。
パァンッ! と大きな音を立て、瓶が爆発した。
すねに強い痛みを感じ、手で押さえてうずくまる。
ヌルリとした感触があったので、手のひらを見ると血で赤く染まっていた。
鼻がツンとして目が潤んでしまう。
「ヴェレ!!」
声のする方に顔を向けると、駆け寄ってくるクリフの姿が滲んで見えた。
学園内で愛称で呼ばれるなんて、初めてだわ。
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