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しおりを挟む窓の外を、見慣れた景色が通り過ぎていく。
何度も通ったことのある、お城までの道。
前世の道路とは違って舗装されていないから馬車はガタガタ揺れるけれど、道沿いには綺麗な花が咲いていて通る者の目を楽しませてくれる。
恋人同士だったら、仲睦まじく隣に座って外の風景を一緒に眺めるところだけど。
残念なことに四人乗りの馬車の中で私は進行方向に向かって右側の席に座り、クリフは私の左斜め前の進行方向とは逆向きの席に座っていた。
「それで……お願い事とはなんですか、お嬢様?」
ゲームのシナリオ通りならモフィラクト王太子殿下と合流するところで、アカリ様を乗せた馬車に遭遇する。
アカリ様のお姉さまは嫁がれているから今回の夜会には来ない。アカリ様はお父様に付き添われて、おふたりで夜会にいらっしゃるはず。
「夜会に向かうアカリ様に会ったらクリフが相手をして、できるだけ遅く会場に着くように時間稼ぎをして欲しいの」
牛乳瓶の底眼鏡の上に見える眉が、僅かに寄った。
出かける前に髪をセットしてあげて、前髪をスッキリと後ろに流したからいつもよりも表情が分かりやすい。
「会わなかったら?」
「会うわよ、たぶん」
アカリ様の馬車も通りかかって、殿下の馬車のそばで脱輪するから。
「ふぅん……、ま、お嬢様がそうおっしゃるならいいですけど。ところで時間稼ぎって、いつまですればよいのですか?」
「できれば夜会のダンスタイムが終わるまで」
「なぜ?」
「今回の夜会には隣国メルヴェイユ王国の第二王子である、マッジョルド様がいらっしゃるわ。アカリ様にマッジョルド様とダンスを踊ってほしくないのよ」
クリフの眉間の皺が、先ほどよりも深くなった。
「なぜ?」
同じ言葉で投げかけられた疑問だけれど、一段と訝しんでいるような低い声。
「マッジョルド様が、アカリ様に好意をもってしまったら嫌だから」
ヒロインがマッジョルドルートに入ったらアルアスラ王国とメルヴェイユ王国の間で戦争が起きて、モフィラクト王太子殿下の婚約者である私はメルヴェイユ王国に人質として連れて行かれ奴隷にされるもの。
悪役令嬢だから、私は奴隷にされても仕方ないのかもしれないけれど、二国間の戦争なんて、絶対に起こしてはならない。
「マッジョルド王子のことがそんなに気になるんですか? 他の女性とダンスを踊らせたくないほど」
なんかクリフ、怒ってる?
声がほんの少しだけ、怒りを帯びたように震えてる。
それになによ、不機嫌そうな顔して。
眉間の皺が、これ以上ないほど深くなってるわよ。
面倒くさくて訳の分からない変なお願い事なんてしたから?
でも私だって、アカリ様とふたりきりにさせるようなお願い事なんて、本当はしたくなかったわよー!
しばらくの間、ふたりとも重く黙ったまま馬車に揺られた。
せっかくの綺麗な花が、少しくすんで見える。
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