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10 この子誰の子 (シオン視点)
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ショーンと名乗った子供は控室にあったチョコレートバーを与えたら口の周りを真っ茶色にしながらごきげんにうろうろしだした。歩くたび肩まであるくりくりとした巻き毛がはねる。
このリーグの間は半分俺専用に与えられた控え室だが他の選手も使うこともありたいして面白みもない部屋だが子供にとっては違うらしい。
(とりあえず迷子の一報を入れないとな)
壁にあるインターフォンに目を向ける。そこには数枚の政府の広報なんかのポスターが張ってある。異能者同士の婚活パーティーだとか。特別健康保険制度についてだとか。子供はその前でふんふん言いながら首をフリフリ分かったようなふりして眺めた後は何が面白いのか扉を開けっ放しにしていたロッカーに首を突っ込んでそれから俺を見て首を突っ込んで俺を見ての繰り返しをしてはニコニコしている。
「あー僕、俺のことしってるのかい?」
「おじちゃんのこと知ってるよ、シオンでしょ?」
何がそんなに嬉しいのか発光しそうな笑顔を向けてくる。
(おじ……まぁそうなるか)
さっきまで泣いていた跡が頬に白く残っているが、今この子が迷子だとは誰も思わないだろう。実際問題まだ絶賛迷子中なわけだが。
(危機感がなさすぎじゃないか?親は何を教えてるんだ?)
そうは思うが自分から迷子センターまで連れて行く気は到底ない。
今外に行くと絶対あいつにあってしまうのがどうしても嫌で俺はどこかで気をもんでいるだろうこの子の親には悪いがスタッフを呼ぶことにした。
壁にむかいインターフォンに手を伸ばす。背後からかわいらしい声がかかった。
「僕のママがシオンのこと好きみたい。ファンってやつ。写真も持ってるの今日のシオンとはちょっと違うけど」
「へーサインでもかいてやろうか」
「うん」
「後で来る人がお前をママのとこ連れてってやるから、ちょっとまっててな」
「今シオンが連れてってくれないの?」
「俺は今いそがしい」
「なんで?今シオンお仕事してるの?」
「……」
「ママきっと心配してるから早く席に戻らないと困るんだけどなぁ」
お前が言うのかよ!とは思いつつ子供なんてそんなもんだわなと諦める。どっちにしろ早く届けないと誘拐犯になりかねない。
(だが俺は今あいつに会いたくない)
今も外をうろついているだろうよく知った顔を思い浮かべる。顔色が悪い中年男は笑っていても細い目の奥にある冷たい温度が感じられ、その視線が気持ち悪くて大嫌いだった。学園に居た時も卒業後も何度となく俺に会いに来るがその理由も毎回『なんだか会いたくなって』『私にとって大事なことなんですよ』とよくわからないことをつらつらと述べるので意味がわからない。一応学園の恩師ということにはなっているがあまり恩を受けた覚えもない。
(なんか事件を起こしたとか聞いてたのにあいつここに何しに来たんだ?)
あいつのことを考えるだけで気分が苛立つ。幸か不幸か学園時代にあいつが校舎内で同じフロアにいると感知できるようになったがそれは今も健在でうんざりする。嫌いすぎてあいつの気配を感じることができるようになってしまったらしい。異能者は人外だと言われるが否定出来ない。普通の人間には出来ない芸当だとわかっている。
(あいつに何をされたわけじゃないがいけ好かないんだよな)
俺は苛つきながらインターフォンの受話器を取ると手短に迷子がここに迷い込んでるから迎えに来てくれと告げた。了解の返事を聞いて通話を終える。
「もうすぐ係の人が来てくれるってよ」
「はーい。でもそれだとママはシオンに会えないね」
賢い子だと俺は思う。出会い頭こそ泣きべそだったが状況判断も受け答えも年以上のものが感じられる。
「そうだな。じゃあサイン書くから持ってけよ」
部屋の隅に行き机の上においてあった色紙を取りサインを書く。子供が俺の横に来て手元を覗き込んできた。高い体温がそばに来ると飼ったこともないのにペットの犬がじゃれついてきているような愛しいような不思議な感覚がした。
「んで、名前は?」
「ショーンです。四歳です」
首を縦に振りながらリズミカルに名乗る様子が可愛らしいが思わず突っ込んだ。
「お前の名前じゃなくて」
俺が苦笑するとショーンは少し不満げに眉をしかめたがもう一度同じリズムで頭を振りながら言葉を繰り返した。
「ショーンです。四歳です」
どうやらこの子は名乗りをリズムで覚えているようだと気づく。だが続いた言葉は予想外だった。
「ママの名前はケイです!」
(ケイって言ったのか?)
今でも毎日つぶやく懐かしい名前に目を見張る。
いやまさか。同じ名前なだけだ、ケイは男だった。妊娠なんてありえない。そうは思うが子どもの後ろの壁が目に入る。
(!!馬鹿だ俺は。あったじゃないか)
壁に貼られたポスターに。
『知っていますか?パートナーの身体のこと?ー防御型異能者の突然変異についてー』
「まさか、な」
確かに俺はケイを抱いた。あれから5年。この子は4歳といった。計算は合う。
でも、じゃあ何でケイは妊娠がわかってから俺に会いに来なかったんだ。
(別のやつが父親だから……か?)
(いや、この子のクリクリとした巻き毛、俺の子供の頃に似てるんじゃないか?)
(じゃあ、この子は……)
「おまえ、父親は?」
ゴクリとつばを飲み込みたずねるとショーンは一瞬斜め上を見るように首を傾げたがすぐに答えた。
「パパのこと?とっても強くてかっこいいんだよ」
(俺じゃ……なかった?)
にぱっと笑顔を貼り付けた子供の中にケイのかけらを探して見たがよく見れば見るほどこの子は俺の小さい頃に似ている。髪や目の色以外は。
(バカバカしい。この子の親が俺のケイであるわけないじゃないか)
(わかっている。フルネームを聞けばいい)
(でも、俺のケイだったら?なんで俺に会いに来なかったんだ?)
(やっぱりこの子は他の男との間の子だから……)
「シオンさーん。迷子引き取りに来ましたよー」
ドアがノックされる。
「あぁちょっとまってくれ」
俺は色紙に『ケイさんへ』と書き込んだ。
びっくりするほど下手くそな字になったそれを見て子供がおかしそうに笑った。
俺はうまく笑いかえせていただろうか?
このリーグの間は半分俺専用に与えられた控え室だが他の選手も使うこともありたいして面白みもない部屋だが子供にとっては違うらしい。
(とりあえず迷子の一報を入れないとな)
壁にあるインターフォンに目を向ける。そこには数枚の政府の広報なんかのポスターが張ってある。異能者同士の婚活パーティーだとか。特別健康保険制度についてだとか。子供はその前でふんふん言いながら首をフリフリ分かったようなふりして眺めた後は何が面白いのか扉を開けっ放しにしていたロッカーに首を突っ込んでそれから俺を見て首を突っ込んで俺を見ての繰り返しをしてはニコニコしている。
「あー僕、俺のことしってるのかい?」
「おじちゃんのこと知ってるよ、シオンでしょ?」
何がそんなに嬉しいのか発光しそうな笑顔を向けてくる。
(おじ……まぁそうなるか)
さっきまで泣いていた跡が頬に白く残っているが、今この子が迷子だとは誰も思わないだろう。実際問題まだ絶賛迷子中なわけだが。
(危機感がなさすぎじゃないか?親は何を教えてるんだ?)
そうは思うが自分から迷子センターまで連れて行く気は到底ない。
今外に行くと絶対あいつにあってしまうのがどうしても嫌で俺はどこかで気をもんでいるだろうこの子の親には悪いがスタッフを呼ぶことにした。
壁にむかいインターフォンに手を伸ばす。背後からかわいらしい声がかかった。
「僕のママがシオンのこと好きみたい。ファンってやつ。写真も持ってるの今日のシオンとはちょっと違うけど」
「へーサインでもかいてやろうか」
「うん」
「後で来る人がお前をママのとこ連れてってやるから、ちょっとまっててな」
「今シオンが連れてってくれないの?」
「俺は今いそがしい」
「なんで?今シオンお仕事してるの?」
「……」
「ママきっと心配してるから早く席に戻らないと困るんだけどなぁ」
お前が言うのかよ!とは思いつつ子供なんてそんなもんだわなと諦める。どっちにしろ早く届けないと誘拐犯になりかねない。
(だが俺は今あいつに会いたくない)
今も外をうろついているだろうよく知った顔を思い浮かべる。顔色が悪い中年男は笑っていても細い目の奥にある冷たい温度が感じられ、その視線が気持ち悪くて大嫌いだった。学園に居た時も卒業後も何度となく俺に会いに来るがその理由も毎回『なんだか会いたくなって』『私にとって大事なことなんですよ』とよくわからないことをつらつらと述べるので意味がわからない。一応学園の恩師ということにはなっているがあまり恩を受けた覚えもない。
(なんか事件を起こしたとか聞いてたのにあいつここに何しに来たんだ?)
あいつのことを考えるだけで気分が苛立つ。幸か不幸か学園時代にあいつが校舎内で同じフロアにいると感知できるようになったがそれは今も健在でうんざりする。嫌いすぎてあいつの気配を感じることができるようになってしまったらしい。異能者は人外だと言われるが否定出来ない。普通の人間には出来ない芸当だとわかっている。
(あいつに何をされたわけじゃないがいけ好かないんだよな)
俺は苛つきながらインターフォンの受話器を取ると手短に迷子がここに迷い込んでるから迎えに来てくれと告げた。了解の返事を聞いて通話を終える。
「もうすぐ係の人が来てくれるってよ」
「はーい。でもそれだとママはシオンに会えないね」
賢い子だと俺は思う。出会い頭こそ泣きべそだったが状況判断も受け答えも年以上のものが感じられる。
「そうだな。じゃあサイン書くから持ってけよ」
部屋の隅に行き机の上においてあった色紙を取りサインを書く。子供が俺の横に来て手元を覗き込んできた。高い体温がそばに来ると飼ったこともないのにペットの犬がじゃれついてきているような愛しいような不思議な感覚がした。
「んで、名前は?」
「ショーンです。四歳です」
首を縦に振りながらリズミカルに名乗る様子が可愛らしいが思わず突っ込んだ。
「お前の名前じゃなくて」
俺が苦笑するとショーンは少し不満げに眉をしかめたがもう一度同じリズムで頭を振りながら言葉を繰り返した。
「ショーンです。四歳です」
どうやらこの子は名乗りをリズムで覚えているようだと気づく。だが続いた言葉は予想外だった。
「ママの名前はケイです!」
(ケイって言ったのか?)
今でも毎日つぶやく懐かしい名前に目を見張る。
いやまさか。同じ名前なだけだ、ケイは男だった。妊娠なんてありえない。そうは思うが子どもの後ろの壁が目に入る。
(!!馬鹿だ俺は。あったじゃないか)
壁に貼られたポスターに。
『知っていますか?パートナーの身体のこと?ー防御型異能者の突然変異についてー』
「まさか、な」
確かに俺はケイを抱いた。あれから5年。この子は4歳といった。計算は合う。
でも、じゃあ何でケイは妊娠がわかってから俺に会いに来なかったんだ。
(別のやつが父親だから……か?)
(いや、この子のクリクリとした巻き毛、俺の子供の頃に似てるんじゃないか?)
(じゃあ、この子は……)
「おまえ、父親は?」
ゴクリとつばを飲み込みたずねるとショーンは一瞬斜め上を見るように首を傾げたがすぐに答えた。
「パパのこと?とっても強くてかっこいいんだよ」
(俺じゃ……なかった?)
にぱっと笑顔を貼り付けた子供の中にケイのかけらを探して見たがよく見れば見るほどこの子は俺の小さい頃に似ている。髪や目の色以外は。
(バカバカしい。この子の親が俺のケイであるわけないじゃないか)
(わかっている。フルネームを聞けばいい)
(でも、俺のケイだったら?なんで俺に会いに来なかったんだ?)
(やっぱりこの子は他の男との間の子だから……)
「シオンさーん。迷子引き取りに来ましたよー」
ドアがノックされる。
「あぁちょっとまってくれ」
俺は色紙に『ケイさんへ』と書き込んだ。
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