吸血鬼にとって俺はどうやら最高級に美味しいものらしい。

音無野ウサギ

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4 吸血鬼のオールドルールは有効らしい

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 長い長い口吻のあと俺の中の嵐のような幸せホルモンと性的興奮(勘弁してくれ!相手男だぞ!!)がやっとおさまって状況説明を求めることができた。



『なぜ、俺にかみついたのか』



 噛み付いただけでなく多分、絶対、確実に、間違いなく、血を吸われてたんだけども、そこはあまり考えたくなかった。人間の血には催吐作用があるから、普通の人間には飲み物としては不適切ってどっかで読んだことがあった。つまり、そこを考えるとこの美形は超有名人外種族だろうと思うんだけども・・・・現実逃避って大事だからな。



「私はカワカミタケシに招待を受けここへ来た。そしてお前を見つけた。それだけのこと」



 そう言って俺の頬を撫でる美形はとても満足そうに目を細めた。っていうか、この膝上横抱っこ状態やめてくれよ。顔の距離が近すぎて目のやり場に困る。いや、頬を撫でるってのも十分おかしいんだけど。とりあえず下ろしてほしい。でも俺の抵抗は無いものとしてさらに抱き込まれた。バラの香りが俺の頭をクラクラとさせる。



「招待を受けねば行く先も決まらぬ。哀れだろう?」



 あれか、招かれないと家に入れないルールってやつか。オカルト苦手な俺ですらそのルール有名すぎて残念ながら知ってる。やはりニンニクとか十字架とか苦手だったりするんですかね。



「あんたいったいなんなんだよ」



 金色の瞳が向けられて再度俺の体が固まった。今なら猫に睨まれたネズミの気持ちがわかる。



「流石に分かっているだろうと思ったんだが、そんなに鈍くて大丈夫か?」



 その金の瞳はやっぱりカラコンなんかじゃないってことだよな。



「いや、わかっていても、の現実逃避か」



 くくくっと喉の奥で笑うその顔が美しくて目をそらせない。



「我はさすらう民。日本流に言えば吸血鬼だな。カワカミタケシに日本に呼ばれた。土地神のいない10月の日本は召喚者の技能が低くても比較的我らを呼びやすいからな」



 やっぱりあいつのせいか。俺は心のなかでカワカミを罵った。



「最近は添加物のせいで日本人の味の質が落ちているんだが、ヤマダソラはほんとうに美味だ」



 添加物って、俺普通に飯食ってるし、一人暮らしだから冷食とか使いまくりなのに。



「カワカミタケシの側に良い香りがしたからな。期待はしていなかったが念の為にきて良かった。今日はゆっくり休むんだ。味が落ちるからな。我がホーニヒタウ」



 また言った。『ホーニヒタウ』。味が落ちるって、まさに家畜扱いじゃねぇ?俺は人間だぞ!!



『グーテナハト シャッツ』



 その言葉に俺のまぶたが落ち始める。眠りに落ちる短い時間で、カワカミあの野郎。とりあえず明日あったらぶっ飛ばす。そう強く思った。



 自分の部屋で目覚めてすぐに鏡を見た。首元には小さな小さなかさぶたが二箇所できていて、残念ながら俺は彼にとって美味しい食料だってことを告げてきた。超絶美貌の吸血鬼に血を吸われた時に感じた気持ちよさがずくんと体の中をはしりぬける。あの金の瞳に見つめられて舌を肌に伸ばされたい・・・・



 やっべぇ。冷蔵庫の前で暴走を始めた思考に体が固まる。まな板に喜んで乗るコイ状態なんだけど。今日も会いたい。今すぐ会いたい。あの瞳に見つめられたい。バラの香りに・・・・



「くっ!とりあえず、今日カワカミをぶっ飛ばそう」



 ろくでもない方向へいこうとする思考をカワカミへの怒りで振り切る。あいつが呼んだなら送り返すのもあいつにやらせるべきだ。とりあえずしっかり飯食って鉄分補給する、キッチンにむかい冷蔵庫から牛乳を取り出しごくごくと飲みほした。冷凍してあるおにぎりをレンジでチンするあいだにバナナにかぶりつく。



 俺が貴重なホーニヒタウとかいうやつなら、今日明日に飽きられて殺されることもないだろう。あれだけ時間管理して俺の血を吸ったという事実が俺の推測を裏付ける。とりあえず朝からニンニク料理は周りに迷惑だろうからと精一杯のシルバーアクセサリーを制服の下につけてガーリックパウダーを瓶ごと握りしめて家をでた。
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