吸血鬼にとって俺はどうやら最高級に美味しいものらしい。

音無野ウサギ

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5 ごちそう(山田)はぺろりと食べられちゃったらしい

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「ごめん!ほんとごめんなさい!山田くんがそんなごちそうだったなんて知らなくて!!」



 学校で俺を見かけたとたんカワカミがジャンピング土下座を披露した。まわりにいる生徒たちがざわつく。3年の校舎へ向かう渡り廊下でカワカミが床に這いつくばっているということで、この奇妙な出し物を見ているのは3年だけでなく2年も、ちらほらと知った顔もある。俺に視線だけで変わり者のカワカミは何をしているのかと興味津々に尋ねてくる。生徒会でいちばんかわいいけど、っていわれてる書紀の藤川さんも。けど、がつくのは彼女がちょっと変わっているからで。



「食べられちゃった?山田くんあの男に食べられちゃった?ごめんね!ごめんなさい!!」



 藤川さんの目が丸くなり、嬉しそうな笑顔にかわる。興味津々、ターゲット発見ってやつだ。



「ちょっ、おま、だまれ!!」



 焦る俺はカワカミに駆け寄る。が、非情にも俺とカワカミの10歩の距離が無くなる前に爆弾は落とされた。



「やっぱり、痛かった?あいつ山田くんのことすっごく美味しそうだから誰にも渡したくないって!あぁ!ごめん、俺のせいだ!!山田くんの人生もうおしまいだぁ!!これから先あいつだけじゃなくいろんな奴がきっと山田くんのことを食べに来るんだ!!」



 一瞬の静寂のあとざわめきがひろがっていく。

 学校一の腐女子として名を馳せる藤川さんはもちろんのこと、今の発言で思春期の奴らが考えつくことは唯一つ。俺が誰かしらんが男に食われた、しかも今後もホモたちに掘られ続ける、一択だ。



 人生の前にお前は俺の学生生活に残っていた、ひょっとしたら卒業式にはボタンを欲しがる後輩がくるかもしれないというかけらのような希望さえすりつぶした・・・・おしまいだ。俺の青春は非モテのまま終了だ。



 俺はカワカミの後頭部を見つめながら灰になった



 --------------------------------------------------------。



「どうしても無理なら10月中は出雲に行くといいと思う」



 カワカミはそう言って出雲とかかれたガイドブックを差し出した。



 窓際の俺の席からは今日も海と街と遊園地が見える。あぁ、もう帰りたいなぁ。そう思いつつも目の前に居るカワカミに目を向ける。燃え尽きて灰になった俺はクラスメイトたちから向けられる好奇の視線を無視するためにもカワカミを見つめた。視線で物理的ダメージを起こせるならこいつは滅多刺しになっているだろうが、残念ながら俺は超能力者でもないので、やつはひょうひょうと俺の前に立っている。



 渡り廊下での『3年生の山田くんは俺のせいで男に食われた被害者だ』パフォーマンスをおえたカワカミは意外にも普通の調子で俺に対峙してきた。

 テンションの違いが高低差激しすぎんだろ。あやまるときは全力で、大声で、が中学の部活で叩き込まれたモットーらしく迷惑極まりない。



「ここは今土地神様たちがいないから、いろんなのが入り込みやすくなってるんだよ」



「ってかお前が呼んだんじゃないの?」



「・・・・土地神様がいないと余計なものが入り込みやすくなるんだよ」



 わざとらしく視線をそらしたカワカミに手を伸ばす。



「お前が呼んだんじゃないの?」



 視線をそらすんじゃねぇと、ぎりぎりとカワカミの頬を片手でしめつける。



「ぼ、ぼぎゅのぜい゛・・・・」



「やっぱりか、何した!あぁ?」



「山田くんががらがわるい・・・こわいなぁ」



「おまえのせいだろう!」



 ホモ疑惑も、俺が今吸血鬼の餌なのもどこからどう見てもお前のせいなんだが。



「ちょっとね、黄金率について調べてたんだよ。オカルト的に黄金率の身体を持つ人って昔から生贄に捧げられたりしてて。あ、黄金率っていうのは完全な左右対称のことでさ。普通は育つにつれて利き腕や噛み癖とか生活の細かい動作とかで左右の体のバランスが崩れていくんだけど。黄金率を体現しているつまり完全なる円そのエネルギーは循環するってことで、えーと、意味わかる?」



 カワカミは急に饒舌に話し出す。興味対象については早口で前のめり、オタクの習性ってやつなんだろうな。



「よくわからんが話の流れから俺の身体が黄金律ってやつだっていいたいのか?」



「うん、そういうこと。山田くんって両利きでしょ、やっぱりどちらかに偏らなかったことが良かったんだろうねぇ」



「で、どうやって吸血鬼共を呼んだんだよ?」



「えー、普通に。コックリさんに吸血鬼のメルアド教えてもらって。そしたらメールでやりとり出来るようになってね」



「現代か!軽いな」



 あの黒マントの美丈夫とコックリさんとメル友ってことなんだろうか?現代テクノロジーがオカルトの人外たちにまで使われているということに衝撃をうける。コウモリとか使い魔とかもっとあるだろうに、メアドもってんだ・・・・



 ニコニコ笑顔になったカワカミは自慢げに続ける。



「ダメもとでね、メール以外にもちゃんと魔法陣とか色々したんだよ。吸血鬼もやっぱり食事には味覚触覚嗅覚視覚を使うわけだから、罠をかける上でおいしい餌は大事で・・・・」



「餌?」



 こいついま餌っつったよな。



「黄金率の血は吸血鬼にとっての猫にまたたびって話があるんだけど、それを証明するにはやっぱり吸血鬼の意見が聞きたいだろ。餌である君の匂いを届けるのが一番苦労した・・・・いえ、あの、失言です。だから、耐えられないようなら10月中は出雲に行くといいよ、それだけ、それだけ言いたかったんだ」



 俺の視線が更に鋭くなったのにやっと気づいたカワカミはそそくさと自分の席に戻っていった。

 同時にチャイムがなる。



「ほーい。授業始めるぞー席につけー」



 現国の教師が入ってきて授業が始まってしまった。10月中はってことは11月にはこの状況は変わるってことか・・・・?



 なぜかズキリと痛んだ胸を無視して教科書を開いた。
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