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第2部 継承
EP23 道
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長い休暇も明日で終わる。
ユイは掃除し終えたばかりの部屋をもう一度眺める。
「この部屋ってこんなに広かったんだなぁ……」
南西向きの1DK、ベランダ付き。
学校から徒歩5分の距離にある、セキュリティの高いマンションだ。
家賃がどれくらいなのかも知らないまま、ユイは学校を卒業した。
このマンションもそのうち退去しなければならない。
『ユイ~! ちょっといい!?』
レイラからの文字通信だ。
ユイが素早く返事を打つと――。
「すでに玄関前にいるようだぞ」
部屋の隅にある充電盤の上で丸くなるマシューは、淡々と伝える。
「なんかホラーだなぁ……」
玄関を移すモニターには、ブランド菓子店の箱を満面の笑みで掲げるレイラが映っている。
追い返す理由など在ろうはずもない。
ー※ー
レイラが手土産に持参したマロングラッセをつまみながら、ユイはレイラの相談を聞いていた。
彼女の祖父、アレンは現在アゼレウス社の重役だ。
学生をしながら短期雇用でレイラはトミオのいた修理部門に所属していた。
アレンとしてはそのままアゼレウス社に、と期待していたものの――
レイラは美容関係の職に就きたいと考えていた。
そこでアレンはレイラに一つ”お願い”をした。
トミオを失った”修理部門を支えることのできる新しい人材を探してほしい”と。
かつて共に修理部門にいたレイラの目利きを信頼してのことだ。
「レイラがやたらパーティに行くのはそのせい?」
「うん。でもついに、素敵な人をみつけたの」
彼は、現在学生をしているそうだ。
苦労して看護師の資格を取ったものの、彼は突如方向転換。
“機械”に関する勉強を始めたそうだ。
「なんか……おじいちゃんに似てそう」
「それ……かなり当たってる」
充電盤のマシューが大きく口を開けてあくびをする。どこでおぼえたんだろう。
ユイは本棚を開き、トミオが生前持っていた技術書を数冊取り出す。
それをレイラの前に置く。
レイラは技術書のタイトルを見て目を輝かせる。
「私がみてもよくわからないし、レイラの気になってる彼に……、貸してあげてもいいよ」
「……ちょっと中を見せて貰ってもいい?」
ユイが頷くと、レイラが一冊を手に取る。丁寧にページをめくり、目を見張る。
「ヤバっ! これ、トミオさんのメモつきじゃない!? めっちゃお宝よ? いいの?」
「うん。棚の肥やしにするより使ってくれる人がいるほうが、おじいちゃんも喜ぶと思う」
レイラの話によると、トミオは生前若手の育成に力を入れていたそうだ。
しかしトミオほどの熱量をもった若手はなかなか存在しなかった。
今は”良いものを長く使う”より”それなりのものを気分で買い替える”時代。
価値観の相違が、トミオと若手の人材の間に見えない壁をつくっていた。
――”消費”を主軸にした文化や価値観は否定しないし、その気もない。ただそれで”技術”に対する見方が変わってしまうとしたら……とても哀しいことだ。
この台詞がレイラにとってはトミオの最期の言葉として残ったそうだ。
(おじいちゃんに影響を受けた人がこんなところにも……。私は)
ユイはマロングラッセを見つめた。
このお菓子はお婆ちゃんの好物、そして私の好物でもある。
(――私に、できること)
なんとなく学校を卒業して、一応希望する職種には就職できたユイ。
レイラは自分の道を懸命に歩いている。
この、熱量の違いたるや。
(これが……私の、道?)
ユイの中で一つだけ確かなこと。
その答えは誰も教えてくれない。
自ら探し、見つけなければならない。
それは”四葉のクローバー”を探すようなものだと、ユイはふと思った。
ユイは掃除し終えたばかりの部屋をもう一度眺める。
「この部屋ってこんなに広かったんだなぁ……」
南西向きの1DK、ベランダ付き。
学校から徒歩5分の距離にある、セキュリティの高いマンションだ。
家賃がどれくらいなのかも知らないまま、ユイは学校を卒業した。
このマンションもそのうち退去しなければならない。
『ユイ~! ちょっといい!?』
レイラからの文字通信だ。
ユイが素早く返事を打つと――。
「すでに玄関前にいるようだぞ」
部屋の隅にある充電盤の上で丸くなるマシューは、淡々と伝える。
「なんかホラーだなぁ……」
玄関を移すモニターには、ブランド菓子店の箱を満面の笑みで掲げるレイラが映っている。
追い返す理由など在ろうはずもない。
ー※ー
レイラが手土産に持参したマロングラッセをつまみながら、ユイはレイラの相談を聞いていた。
彼女の祖父、アレンは現在アゼレウス社の重役だ。
学生をしながら短期雇用でレイラはトミオのいた修理部門に所属していた。
アレンとしてはそのままアゼレウス社に、と期待していたものの――
レイラは美容関係の職に就きたいと考えていた。
そこでアレンはレイラに一つ”お願い”をした。
トミオを失った”修理部門を支えることのできる新しい人材を探してほしい”と。
かつて共に修理部門にいたレイラの目利きを信頼してのことだ。
「レイラがやたらパーティに行くのはそのせい?」
「うん。でもついに、素敵な人をみつけたの」
彼は、現在学生をしているそうだ。
苦労して看護師の資格を取ったものの、彼は突如方向転換。
“機械”に関する勉強を始めたそうだ。
「なんか……おじいちゃんに似てそう」
「それ……かなり当たってる」
充電盤のマシューが大きく口を開けてあくびをする。どこでおぼえたんだろう。
ユイは本棚を開き、トミオが生前持っていた技術書を数冊取り出す。
それをレイラの前に置く。
レイラは技術書のタイトルを見て目を輝かせる。
「私がみてもよくわからないし、レイラの気になってる彼に……、貸してあげてもいいよ」
「……ちょっと中を見せて貰ってもいい?」
ユイが頷くと、レイラが一冊を手に取る。丁寧にページをめくり、目を見張る。
「ヤバっ! これ、トミオさんのメモつきじゃない!? めっちゃお宝よ? いいの?」
「うん。棚の肥やしにするより使ってくれる人がいるほうが、おじいちゃんも喜ぶと思う」
レイラの話によると、トミオは生前若手の育成に力を入れていたそうだ。
しかしトミオほどの熱量をもった若手はなかなか存在しなかった。
今は”良いものを長く使う”より”それなりのものを気分で買い替える”時代。
価値観の相違が、トミオと若手の人材の間に見えない壁をつくっていた。
――”消費”を主軸にした文化や価値観は否定しないし、その気もない。ただそれで”技術”に対する見方が変わってしまうとしたら……とても哀しいことだ。
この台詞がレイラにとってはトミオの最期の言葉として残ったそうだ。
(おじいちゃんに影響を受けた人がこんなところにも……。私は)
ユイはマロングラッセを見つめた。
このお菓子はお婆ちゃんの好物、そして私の好物でもある。
(――私に、できること)
なんとなく学校を卒業して、一応希望する職種には就職できたユイ。
レイラは自分の道を懸命に歩いている。
この、熱量の違いたるや。
(これが……私の、道?)
ユイの中で一つだけ確かなこと。
その答えは誰も教えてくれない。
自ら探し、見つけなければならない。
それは”四葉のクローバー”を探すようなものだと、ユイはふと思った。
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