聖女のやる事じゃない件について

第十九話【家出少年と師匠】

ルティーは王の期待に応えるべく、静かに口を開きました。

「陛下、お知らせがございます。実はこの隣にいる方は、グローリア・アビス・ケイロス帝王でございます。この度、ケイロス帝王との交渉に成功し、生涯を通じての味方となる魔法契約を結ぶことに成功しました」

アビスはルティーの言葉に少し驚きを隠せず、彼をじっと見つめました。彼は内心で深い疑問を抱きながら、そのまま静かにルティーの説明を待ちました。

王もまた、驚きを隠せず、深いしわを寄せて考え込んでいました。ルティーの言葉に疑念を抱き、隣にいる人物が本当にケイロス帝王なのかを疑問視しました。彼は慎重な態度でその人物を見つめ、不安な思いを抱きながら次の展開を待ちました。

アビスは、正体が明るみに出てしまった以上、これ以上の隠し通せないと諦めたような表情を浮かべます。そして、王に向かって、意外なくらいに冷静な口調で「久しいな、ティグルス」と声をかけました。
王は内心で、そうであってほしくないという気持ちを抱きながらも、やはり避けては通れない話題を切り出すために、深いため息をつき、アビスに向かって言いました。「グローリア、もしよろしいなら、メーベルを見せてくれないか？」

アビスは王の要求に応えるように、自信に満ちた声で宣言しました。「メーベル、五段階！」と大声を張り上げます。
その言葉と共に、アビスの手からは大粒のルビーで飾られた指輪が放たれました。その指輪は王の前できらめき、鮮やかな光を放ちながら、その輝きはまるで宝石の海のようでした。

次に、彼が手にするのは、贅沢にルビーをあしらったステッキでした。その輝く宝石は王の間に華やかな光を放ち、まるで王の権威そのものを象徴しているかのようでした。

そして、彼が示すのは王冠でした。その冠は光を反射し、その輝きは王の威厳を際立たせていました。

さらに、赤い重厚なマントとロココ調の赤い椅子を見せました。マントは風格を纏い、王の威厳をより一層際立たせました。

その姿はまるで王者そのものであり、その威厳は周囲に広がっていくようでした。王は感嘆の声を漏らしました。これこそが、グローリア・アビス・ケイロス帝王の真の姿であり、その気品に彼も心奪われていきました。

王の眉間にはしわが寄り、その表情からは疑問と不安がにじみ出ていました。

「グローリア、どうしたというのだ…。その姿は。」

王は戸惑いながらも、不思議そうに問いかけました。彼の声には驚きと同時に、何かが起こっていることに対する心配がにじみ出ていました。

ルティーは王とアビスが知り合いだったことに驚きを隠せず、彼らを交互に見つめました。
彼の口元には驚きの表情が浮かび、その眉間には深いしわが寄りました。
「まさか、陛下と…ケイロス様が知り合いだったとは！」ルティーは驚きの声を漏らした。

アビスは深いため息をつき、ルティーに向かって語り始めました。彼の声には、遠い過去を思い起こさせるような深みがありました。

「実は、ティグルスが幼い頃、ケイロス帝国へ家出してきたことがあるんだ。その時、彼を匿っていたのは私だ」とアビスは静かに語りました。

その言葉に、ルティーの目からは驚きと興味がにじみ出ました。彼はその過去の出来事に興味津々の様子でした。

アビスは微笑みながら、ルティーに向かって言い聞かせました。「まぁ、この話は後々語るとしよう。」

彼の声には、どこか謎めいた響きがありました。そして、その微笑みの奥には、まだ語られぬ秘密や出来事が待ち受けているかのような予感が漂っていました。

ルティーは王に向き直り、熱い眼差しで彼に訴えました。「陛下、お願いです。ケイロス様を養子に迎えてください。彼は王国に貢献することができる素晴らしい人物です。」

その言葉には、ルティーの真剣な想いと、アビスへの信頼が込められていました。王は彼の懇願に耳を傾け、重要な決断を迫られました。

王はルティーの懇願に対し、少し渋みを帯びた表情を浮かべました。彼はゆっくりと頭を振り、言葉を選びながら答えました。

「ルティーよ、お前の懇願は理解できる。しかし、私より800歳以上も年上の方を息子にするというのは、なかなか考えにくいものがある。特に、かつてお世話になった恩人であるという事実を踏まえると、ますます慎重でなければならない。」

ルティーは王に向かって、堂々とした表情で語りました。「陛下、ケイロス帝国を滅ぼしたのは、アメリアという少女です。しかし、ガナン帝国をただの大地へと変えたのは、ケイロス様ですよ。その力は想像を絶するものがあります。」

彼の言葉には、脅しのような意味が含まれており、王の表情も一変しました。

アビスは隣で静かに笑い声を漏らしました。「ルティーは、お前よりもずっと賢明そうだな、ティグルス」と、彼の言葉には少し小バカにしたような口調が漂っていました。

王はアビスの言葉に驚きを隠せませんでした。彼の表情には深い考えが見え、ルティーの賢さを認めると同時に、アビスの態度に不快感を感じているようでした

王はあきらめたような表情で、「ああ、わかった」 と渋々と返事をしました。彼の声には、少しの不満と諦観がにじみ出ていました。

王はアビスと少し話がしたいとルティーに伝え、彼に席を外すよう命じました。ルティーは王の意向を受け入れ、静かに部屋を去りました。

王はアビスに向かって、「私の息子は私に似て、とびっきりの愚息だったはずだ。それをなおしたのはグローリア師匠ですか？」と尋ねました。その言葉には疑念と驚きがにじみ出ており、彼の目はアビスを鋭く見つめました。

アビスは王の問いに対し、微笑みを浮かべながら答えました。「確かに最初に会った時は、王子殿下は愚息のように見えた。でも、ルティーには眠らせておくには勿体ない才能があったからな、暇つぶしに教育してみただけだ。」彼の声は自信に満ちており、その言葉は王を少し驚かせました。

王はアビスに向かって、不思議そうな表情を浮かべました。

「師匠は、私の息子になりたいと申し上げていたと思いますが、何故長男にならないのですか？」

アビスは王の問いに対して、深い溜息をつきながら、悩ましげな表情を浮かべました。彼は静かな声で答えました。

「時期国王にでもさせる気か？やめてくれ。俺はアメリアと一緒にいたいだけだ。王家の息子はクラリアスに対抗する手段の１つなんだ。」

王はアビスの言葉に深く考え込み、そして重々しい表情でうなずきました。

「なるほど。」と彼はアビスの考えを受け入れた。

アビスはふと思いついたようすで、王に対して深い意味を含んだ言葉を述べました。

「あぁ、そうだ。俺をあまり表に出し過ぎるなよ。成長すればケイロスの王だとバレるからな。」彼は王に対し、慎重を期するように忠告しました。

王はアビスの忠告を受け入れ、少し残念そうな表情で項垂れながら、「わかった。」と諦めのような言葉を口にしました。

アビスは王に向かって、重要なことがまだ一つあると告げました。王は少し鬱陶しそうな表情を浮かべながら、「まだ何かあるのか？」と尋ねました。

アビスは穏やかな笑顔で、少し脅すような口調で王に対して話しました。「ティグルス、近日中にアメリアとの婚約を発表したいんだ。その手助けを頼んだよ。ティグルス・ボイド・メロウト王様。」

王は苦しそうな表情を浮かべながらも、アビスの提案を受け入れることにしました。その決断は彼にとっては辛いものでしたが、アビスの影響力に屈するしかない状況でした。

物事がまとまった後、アビスは軽快な足取りで王のいる間を後にしました。