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18p【ヒトとして扱う】

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朝になって目を覚ました。窓にカーテンがないせいで日差しで起きてしまう。
コンコンとノックされて、急いでドアを開けるとシンさんが朝食がのったオボンを持って立っていた。
「あ、おはようございます。どうして起きたってわかったんですか?」
「おはよ。ギルド一覧に睡眠中マークついてたのが外れたから。これ君の朝食だから冷めないうちに食べなよ。」とシンさんは中に入って机の上にオボンをおいてくれた。
「ありがとうございます。」さっそく椅子に座って朝食を食べる事にした。
サラダとロールパンに目玉焼きとベーコン…凄いオーソドックスな朝食。コップの中には牛乳が入っていた。まるで給食だ。
シンさんは近くのベッドの上に座った。
「今って現実世界では何月なの。」
「5月ですね。もうすぐ6月になりますけど。」
「ふーん。てことは6月中に後100人は増えるかな。うちも。」シンさんは窓の外に視線をおくる。
「ギル員が増えるって事ですか?」
「そ。ヴァルプルギスの準備があるから毎年ヴァルプルギス終了後の5月と6月は勧誘時期なんだってさ。」
「あの、なんで僕にそこまで詳しく教えてくれるんですか?それにギル長のAIにつきっきりで説明してもらえてるし、恐れ多いというか、なんというか。」
「ん?あぁ。君のGMアイテムにはそういう力があるってだけだよ。」
「あ、忘れてました。そういえば持ってましたね。」
「ルナがわからない事は全部教えろって言ってたし。最重要機密以外は喋ってもいいみたいだし。」
「なるほど。どうして僕にGMアイテムなんてもの届いたんでしょう?」
「さぁね。まぁ、ルナの予定ではヴァルプルギスまでに千翠さんとまではいかないかもしれないけど、ガウル君クラスには強くなってもらうから。」とシンさんがニコっと笑う。
ガウルさんって。あの人勝利数結構あったような?歴戦の猛者感半端なかったのに!!
「あと、次の新人たちのパジャマクエにでてもらう予定だからね。それまでにAIゲットしてAIにもパジャマとらせようね。」とシンさんが笑顔で言う。
「え。やっぱりAIにもパジャマいるんですね?」
「人間飼うのと変わんないからね?このシステム。寿命だってあるし。」
「ぐふっ!!ケホッケホッ!!」驚いてむせてしまった。
「きたない。」シンさんにジト目を向けられてしまった。
「すみません。あの、寿命があるって知らなくて、AIは無限だと思ってました。」
「見た目だけはそうかもしれないけどね。公式ホームページの小さい文字で注意書きがかかれてるんだけどさ。AIには寿命があります。死はいつ訪れるかはわかりません。ってあるんだけど、実際にうちで寿命がきたAIがいて、僕も悲しかったよ。」
「寿命がきたらその場でパっと消えるんですか?」
「ううん、苦しそうだった。こんな痛み初めてだって。その後眠るように目が閉じて眠ったんだ。そしたら墓石ってアイテムになってさ。どこにでも置けるようになる。」
「そう、なんですね。」

朝食を食べ終えて、シンさんが食器を片付けにいってる間装備を整えた。
やっぱり部屋が埃っぽい。もうちょっと落ち着いたらハウジングとかしようかな。
「ん?何?」と背後から声がして、いつの間にかシンさんが戻ってきていて驚いた。
「あ、いえ。ハウジングもしていかないとなぁって。」
「あぁ、そうだね。ほんと埃っぽくて辛いよね。僕の部屋みる?」
「え?部屋あるんですか?」
「君、さっきから失礼だねぇ。この世界では…。いや、うちのギルドではAIを人間として見ないとルナに追い出されちゃうよ。」と注意されて、それから「ついてきて」と言われて長い廊下をあるいた。

しばらくして、やっとシンさんの部屋についた。
ドアを開けてくれて入ってみると、とてもシックで落ち着いた空間が広がっていた。
「凄いですね。空気が綺麗というか。ファンタジー世界に似合わないくらい現実世界に近い部屋ですね。」
「クスッ。僕は現実世界への憧れが強くてさ。現実世界の本とか過去の新聞、ニュースとか大好きで。コホンッ。ちょっと喋りすぎた。」
シンさんは、凄く現実世界に…。ううん。人間になりたいのが痛いほど伝わってきた。
「シンさんは人間と全くかわらないです。ただ、現実世界に肉体がないだけですよ。」
「どうも…// と、とにかく部屋の家具とかは町や国限定品のとかもあるし、もちろん初心者村で企業がだしてるものとかもあるし、暇があったらやってみれば?」と照れた顔を隠しながらも色々と丁寧に教えてくれた。

しばらく現実世界のインテリアについての雑談をした後…

「そういえば、MAPを埋める方針でいいの?」
「あー…いえ、武器の武器を揃えたいなぁって思ってます。刀…とか。」
「刀か。丁度次の町にありそうかな。」
「ほんとですか!?」
「うん。じゃあ、早速今から行こうか。」

シンさんがゲートをだしてくれた。

ゲートをくぐると、教科書や写真で何度もみた事のある懐かしい風景が広がっていた。
「凄い!日本…なのかな?いや、昔の日本だ。」
次の町は【江戸】ギルド【わびさび】というメンバーが作った国でここも1、2年は維持されたままらしい。
ほんとに昔の江戸を再現してるのかな?
ちょっと、ところどころ雑というか、江戸城らしき城のてっぺんにしゃちほこがあるように見えるし。
でも、この桜並木だったり、しだれているタイプの桜が美しくて見とれてしまう。
「ん?どうかした?」
「いやぁ、もう、凄く綺麗で見とれてました。」
「これも綺麗か。ふーん。日本人だったよね?日本ってこんな感じじゃないんだよね?今って。」とシンさんが無表情ながらも興味深々な感じで聞いてきた。
「あ、はい。近未来化がかなり進んでて、ここは何百年か前の日本ですね。僕の住んでるところにはまだ似たような建築物は残ってますけど。」
「無理だとは思うけど、いつか行ってみたいよ。」シンさんは歩き出した。

………行けるようになるよなんて絶対に言えない。この世界で生きてこの世界で死ぬしかない…そんなヒトだから。
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