悪役令嬢で物語を進めたら、全ての攻略ルートを辿ってしまいました。~悪役令嬢は第二王子とXXXする~

無月公主

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第四幕【クリア後の世界】

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「イヴィ……イヴィ……。」

――体をゆさゆさと揺さぶられる感覚に、私は眠りの淵から引き戻された。

「ん……なに? ルル……?」

ぼんやりと目を開けると、そこには暗がりの中で私を見下ろすルルの姿があった。月明かりが彼の淡い金髪をふわりと照らし、彼の瞳は期待に満ちた輝きを宿していた。

「起きて起きて。」

「んん……。」

まだ眠気が抜けきらず、私は目をこすりながら上半身を起こした。

「どうしたの? ルル……こんな夜中に。」

しかし、はっきりと視界に映ったルルの姿に、私は一瞬で目が覚めた。

「――え?」

彼は見慣れた王子らしい正装ではなく、シンプルな旅衣装を身にまとっていた。長めのマント、動きやすいブーツ、しっかりと荷物を詰め込んだ小さな鞄。

「……ルル、それは……?」

「イヴィも早く支度して?」

「はい?」

「家出するの!♡」

「……えぇぇぇぇぇ!?」

思わず飛び起きた。

「ちょっと待って!? ルル、何言ってるの!? 家出って、まさか本気で……?」

「本気だよ♪ 婚約旅行しに行くの!」

「婚約旅行ぉ!? そ、そんなの聞いてないわよ!?」

「だから今言ったの♪」

にっこりと可愛らしい笑顔を見せるルル。しかし、私はまったく笑えなかった。夜中にいきなり家出を宣言されても、困惑しかない。

「ちょ、ちょっと待って!? いくらなんでも急すぎるわ! そもそも、お城の許可を取らないと……」

「大丈夫だよ。僕ね、ヤードに内緒で裏で手を回して、許可を取ったの!」

「……は?」

――ヤードに内緒で?

私は眉をひそめ、混乱する頭を整理するようにゆっくり息を吸った。

「ルル、ちょっと待って。それ、絶対ヤードさんが怒るやつじゃない?」

「うーん、たぶんね?」

「たぶんって……!!」

この国の宰相であるヤードを騙して、裏から許可を取るとは……ルル、10歳とは思えないほどの策略家になってきてない!?

「ええと、でも……夜中に出発しなくてもいいんじゃない? 明日ちゃんと……」

「ううん、ダメなの!」

ルルは私の手をぎゅっと握りしめた。

「今すぐ行きたいの! イヴィと二人きりで……!」

「え……。」

その言葉に、不意打ちで胸がきゅうっと締めつけられる。

――ずるい。そんな可愛い顔で、そんな甘えた声で言わないでよ……!!

「お願い♡」

ルルは瞳を潤ませながら、指で小さなハートマークを作ってみせる。

「僕と一緒に婚約旅行……行ってくれる?」

「か……かわいい……♡」

ダメだ、もう無理。

こんなルルを目の前にして、「ダメ」とか「待って」とか、言えるわけがない!!

「……うん、行こうね♡」

ふにゃりと笑みを浮かべながら、私は甘んじて彼の手を取った。

さっさと着替えを済ませ、ルルが前もって用意していた荷物を背負い、夜の静寂に包まれた王宮を抜け出す。――このまま、ルルと二人きりの婚約旅行が始まるはずだった。

しかし、外へ出た瞬間、目の前の光景に私は思わず立ち止まった。

「……え?」

――そこには、先日、一生の別れと言わんばかりに見送ったはずのヒルコが、腕を組みながら立っていた。

「全く。こんな夜中に呼び出すとはな。」

低く響く声、飄々とした態度、そして不機嫌そうにため息をつくヒルコ。

「えぇ!? ヒルコがなんで……!?」

驚きのあまり叫ぶと、ルルがニコリと得意げに笑った。

「僕がイヴィの勾玉を使って呼んでおいたの♡ 国外に出るの、大変だからね。」

「……は?」

ルルの手元には、ヒルコからもらった勾玉がキラリと光っていた。まさか、これを使ってヒルコを呼び出していたなんて……!

「魔塔主の俺が、まさか馬扱いとはな。」

ヒルコは肩をすくめ、呆れたようにため息をついた。

「アリスを手に入れたんだから、いいでしょう?」とルルが微笑む。

「……チッ。」ヒルコは舌打ちをしながら、「まあ、いい。ほら、注文の品だ。」と、懐から何かを取り出し、ルルに渡した。

小さな銀色の腕輪だった。

「ありがとう。」

ルルはそう言って、それを手首にカチリとはめる。

すると――

淡い光がルルを包み込んだ。

「……え?」

私は目の前で起こった現象に目を丸くする。

光が消えた時、そこにいたのは…… 大人のルル だった。

「る……ルル!?」

目の前には、まるで別人のように成長したルルが立っていた。
少年の可愛らしさを残しつつも、精悍な顔立ち、引き締まった体つき、低く落ち着いた声。
サラサラの金髪ボブが肩にかかり、王子というより、まるで "王" の風格すら漂っている。

「これで動きやすいね。」

ルルは落ち着いた声で言いながら、軽く手を握ったり開いたりしながら、身体の具合を確かめる。

「い、いや、動きやすいって……そういう問題じゃなくて……!」

見た目は大人、でも中身はルル……? いや、もともと成長していたのは知ってるけど、こうも 実際に大人の姿になってしまう と、混乱するしかない。

そんな私の戸惑いなどお構いなしに、ルルは腕を軽く回しながら、満足げに「うん、完璧。」と頷いた。

―― いや、そういう問題じゃないのよ!

隣でヒルコが大きく伸びをした。

「さて、そろそろ行くか。」

そう言うと、彼は スッと片手を掲げ 、静かに指を鳴らした。

パチンッ!

瞬間―― 私たちの視界が一瞬、闇に包まれた。

「えっ、なに!? ちょ、ちょっと待っ――」

次の瞬間、 ゴォォォォッ と耳をつんざくような音と共に、私たちは まったく別の場所 に立っていた。

「……っ!? こ、ここは……?」

息を飲んで周囲を見渡す。

そこは、王国の国境にある門の前だった。

大きな城門がそびえ立ち、その先には 広大な大陸 が広がっている。

「うわぁ……」

思わず息を呑む私の隣で、ルルは涼しい顔で頷いた。

「さすがヒルコ、仕事が早いね。」

「お前がせっかちなんだよ。」

ヒルコは肩をすくめながら、どこか呆れたように 言うと、ポケットから懐から取り出した書類をルルに手渡した。

「これ、旅の許可証だ。お前の名前はもちろん、イヴェンティアの名前も通るようにしておいた。」

「ありがとう、ヒルコ!」

ルルはにっこりと笑いながら受け取り、私にチラリと視線を向ける。

「さぁ、イヴィ。 "婚約旅行" のはじまりだよ♡」

―― なんか……思ってた以上に、本格的な旅行っぽいんですけど!?

私は、王宮の屋敷でのんびり過ごしていた昨日までの自分を思い出しながら、 呆然とするしかなかった。

「イヴィ、ちょっと待っててね。」

ルルはすたすたと歩いていき、事前に用意してあった馬を、国境の門の近くの森から引いてきた。

「えっ……馬?」

そのまま私の前に戻ると、何の躊躇もなく私の腰に手を回し――

「きゃっ……!」

思わず短い悲鳴がこぼれた。

ルルは、まるで羽毛のように軽々と私を抱き上げ、そのまま馬の上へと乗せた。まるでお姫様扱い……いや、実際にお姫様抱っこされてるんだけど!?

「ま、まさか……このまま移動するの?」

動揺しながら彼を見下ろすと、ルルは さらりとした笑顔 でこう答えた。

「そうだよ。」

…… さらっと言うんじゃないわよ!!

ルルは何事もないように馬の手綱を軽く引き、私の横にひょいっと飛び乗った。

「ありがとう、ヒルコ。」

ルルは軽く手を上げ、ヒルコに礼を告げる。

「……あぁ、また何かあれば呼べ。」

ヒルコは呆れたように溜息をつきながらも、手をひらひらと振る。

「うん。」

ルルも同じように小さく手を振ると、何のためらいもなく、私の腰に片手を回した。

「えっ、ちょっ、ちょっとルル!? 近――」

言葉が終わる前に、馬が パカラッ と勢いよく走り出す。

「きゃあああああ!!」

驚いた私は、 反射的にルルの背中にしがみついた。

「ふふっ、大丈夫だよ、イヴィ。」

そう言いながら、ルルは馬を上手く操りながら、優しく囁く。

「僕がちゃんと守るから。」

―― ズルい。

そんな声で言われたら、もう何も言えないじゃない。

夜風が心地よく頬を撫でる中、私は 彼の温もりを感じながら、ただしがみつくしかなかった。

…… こうなったら、もう覚悟を決めるしかない!

この "婚約旅行" が、一体どんなものになるのか……。

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