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4.王の介入
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数日後、王からの新たな手紙がクレノースのもとに届いた。彼は無造作に手紙を開き、内容を確認する。すると、瞬時に表情が険しくなり、怒りを抑えきれずに机をドンと叩いた。
「なんだと!?」
その言葉は部屋中に鋭く響き渡った。手紙にはこう書かれていた――「結婚式は特別に王宮の教会を使うといい。そして初夜は王宮で行い、見届け人を立てる。」
クレノースは驚愕し、再び手紙を読み返した。王がここまで干渉する理由は明白だった。彼の母親、狂った愛情を注ぎ続ける母親の存在が、国王の心に深い懸念を生んでいたのだ。
『あの王が、俺の結婚にまで手を出すつもりか……』
王は、クレノースの亡き父と親しかった。そのため、父の代わりにクレノースを守ろうとしているのだろう。しかし、クレノースにとっては屈辱的な介入に他ならなかった。
クレノースが怒りを煮え滾らせていると、執事のバルドが静かに歩み寄り、慎重に言葉を選びながら彼に話しかけた。
「公爵様、王命であれば、従うしかないかと存じます。」
バルドは、28歳という若さにもかかわらず、長年クレノースに仕えてきた。短く刈り込んだオールバックの髪は彼の冷静さと厳格さを象徴していた。クレノース付きの執事でありながら、バルドはかつて大奥様、すなわちクレノースの母親派であった。それゆえに、クレノースにとって彼の発言は予想外だった。
クレノースは冷たい視線をバルドに向け、声を荒げた。
「母上に忠実だったお前が、なぜ今になってこんなことを言う?」
バルドは一瞬躊躇したものの、サクレティアとの交流を通して変わりつつある自身の心情を言葉にする覚悟を決めた。
「確かに、私はこれまで公爵夫人――大奥様に従ってまいりました。ですが、サクレティア様をお側にお仕えする中で、少しずつ感じ始めたのです。彼女は、公爵家にとって必要な存在だと。」
バルドは一歩前に進み、その冷静な瞳でクレノースを見据えた。彼の言葉には、これまで抱いていた忠誠心が揺らぎ、サクレティアへの信頼が芽生えたことが滲み出ていた。
執事は一歩前に進み、少し緊張した面持ちでクレノースを見つめ続けた。
「王命であれば、公爵様も従うしかありません。ご母堂に逆らうのは困難かもしれませんが、王のご命令です。そしてサクレティア様を守るためにも、この決定は最善であると存じます。」
クレノースはその言葉に苛立ちを覚えつつも、執事の誠実さを感じ取っていた。これまで忠実に母親に仕えてきた執事が、今こうして王命に従うよう促すことに、何か変化を感じずにはいられなかった。
「……わかった。」
クレノースは深いため息をつき、目を伏せた。彼の中で、王の命令と自分の感情がせめぎ合っていたが、最終的には王の命に従うしかないと理解した。
クレノースは、王からの手紙の件をサクレティアに説明するため、彼女の部屋へと向かっていた。扉の前に立つと、部屋の中から楽しげな笑い声が聞こえてきた。クレノースは一瞬驚いたが、軽くノックをした。
しかし、何度ノックしても反応はなかった。
少し不審に思い、彼は扉をゆっくりと開けた。すると、目の前に広がった光景は予想外のものだった。サクレティアは農作業用の服を着て、侍女たちと楽しそうに笑い合っていた。彼女は作業をしながらも生き生きとしており、その姿はこれまでの彼女とはまるで別人のようだった。
「サクレティア様が発明された顕微鏡というものは実に素晴らしいです!これで私たちも作物の状態を細かく観察できますね。きっと、これが広まれば、いろんな人が押し寄せてきてしまうでしょうね。」
侍女のアリアがそう話すと、他の侍女もそれに同意するように頷いた。
「公爵様にきちんと報告したほうが良いかもしれませんわ。」
別の侍女が、少し緊張した表情でそう付け加える。彼女たちは、顕微鏡がもたらす影響の大きさを感じ取っていた。
クレノースはしばらくその光景を静かに見つめていた。サクレティアがただの「お飾りの妻」ではなく、何かもっと特別な存在であることを、彼は徐々に理解し始めていた。彼女が笑顔で侍女たちに囲まれながら、自分の発明品について話している姿は、彼にとって新鮮な驚きだった。
「……なるほど、これが彼女の力か。」
彼はそう小さく呟き、ふと薄っすらと微笑んでから、静かに声をかけた。
「サクレティア……その顕微鏡とやらについて、詳しく聞いても良いか?」
突然のクレノースの声に、サクレティアは少し驚いたように顔を上げた。しかし、すぐに笑顔を浮かべ、彼に近づいた。
「はい、もちろんです。こちらが私が作った顕微鏡です。」
サクレティアは自作の顕微鏡を持ってきて、クレノースに見せた。それは細かいパーツが組み合わされ、独自の工夫が施された精巧な作りだった。クレノースは興味深げにその機器を手に取り、じっくりと観察した。
「これは、簡単に言えば、肉眼では見えない微小なものを拡大して見るための道具です。作物の葉や根の状態、病害虫の兆候を細かく確認できるので、植物の成長を最適に管理できるんです。」
サクレティアの説明は熱がこもっており、その目には自信と情熱が光っていた。クレノースは、彼女がこの顕微鏡を単なる道具としてではなく、自分の才能を活かし、生活を豊かにする手段として考えていることに気づいた。
「なるほど……非常に興味深い。君がこんなものを発明するとは思ってもみなかったよ。」
クレノースは再び微笑み、顕微鏡を丁寧にサクレティアに返した。その表情には、かつての冷たさはなく、少しだけ柔らかさが滲んでいた。彼女がただの娘ではないことが、はっきりと伝わってきた。
しかし、ふとクレノースの脳裏に一つの疑問が浮かんだ。サクレティアの実家であるボーン伯爵家が、奇妙な発明品で巨額の利益を得ているという噂があったのを思い出したのだ。彼女の才能がその家に何らかの影響を与えているのではないかと、考えざるを得なかった。
「サクレティア……君の実家、ボーン伯爵家が奇妙な発明品で大金を儲けていると聞いたことがある。まさか、それも……」
クレノースは思わず問いかけた。彼の目には疑念と好奇心が入り混じっていた。もしかすると、彼女の才能があの伯爵家の財源に繋がっているのではないかという考えが頭をよぎったのだ。
サクレティアはその言葉に一瞬沈黙し、顔を曇らせた。彼女の表情には、隠しきれない悲しさが浮かんでいた。
「……はい。それは、私が幼い頃から作らされていたものです。そして、それらは全て、伯爵家のものになってしまいました。私は無力で……ただ、言われた通りに作り続けることしかできませんでした。生きる為に…。」
サクレティアの声には悲しみと諦めが込められていた。彼女の才能が搾取され、自由を奪われてきた過去が、その短い言葉の中に詰まっていた。
クレノースは彼女の答えを聞いて、少し戸惑った表情を見せた。彼女の過去には、思った以上に複雑で苦しいものが隠されていることを、彼は初めて知ったのだった。
クレノースはサクレティアの悲しげな表情を見つめながら、ふと彼女をこれ以上苦しませたくないという気持ちが胸の中に生まれた。だが、彼にはどうしても伝えなければならないことがあった。彼は、少し躊躇いながらも、重たい言葉を口にした。
「……サクレティア、実は、王宮で式を挙げなければならない。初夜も……その王宮で行うことになる。そして……見届け人が付く。」
クレノースの声には苦しさが滲んでいた。彼の表情も、今まで見せたことのないような複雑なものだった。
「だから……君にとっては非常に辛いことになるだろう。好きでもない男と……寝なければならないのだから……」
彼は言葉を詰まらせながら、サクレティアに伝えた。
しかし、サクレティアは一瞬の間を置き、力強く頷いた。彼女の目には決意が宿っていた。
「お任せください、クレノース様。私にご要望があるなら、それをきちんとこなしてみせます。」
その言葉に、クレノースは驚きの表情を浮かべた。彼女の決意の強さに、彼は一瞬言葉を失った。
「好きでもない男と……寝るのだぞ。それでも、本当に大丈夫なのか?」
クレノースは再び問いかけた。彼には信じ難いことだった。だが、サクレティアは微笑みを浮かべながら、静かに答えた。
「はい、大丈夫です。クレノース様が、あの家から私を救い出してくださったおかげで、今こうして好きなことをさせていただいています。それに……これからの生活に感謝しています。」
彼女の声には感謝の気持ちが込められており、その言葉は心からのものだった。サクレティアはこれまでの苦しい日々から救われ、今では公爵家の一員として新しい人生を歩んでいた。その恩義を感じ、彼女は何があっても乗り越える覚悟を固めていた。
クレノースはサクレティアの決意に戸惑いながらも、その強さに再び驚かされた。彼女は彼が想像していた以上に、強くそして心優しい人物だった。
「なんだと!?」
その言葉は部屋中に鋭く響き渡った。手紙にはこう書かれていた――「結婚式は特別に王宮の教会を使うといい。そして初夜は王宮で行い、見届け人を立てる。」
クレノースは驚愕し、再び手紙を読み返した。王がここまで干渉する理由は明白だった。彼の母親、狂った愛情を注ぎ続ける母親の存在が、国王の心に深い懸念を生んでいたのだ。
『あの王が、俺の結婚にまで手を出すつもりか……』
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クレノースが怒りを煮え滾らせていると、執事のバルドが静かに歩み寄り、慎重に言葉を選びながら彼に話しかけた。
「公爵様、王命であれば、従うしかないかと存じます。」
バルドは、28歳という若さにもかかわらず、長年クレノースに仕えてきた。短く刈り込んだオールバックの髪は彼の冷静さと厳格さを象徴していた。クレノース付きの執事でありながら、バルドはかつて大奥様、すなわちクレノースの母親派であった。それゆえに、クレノースにとって彼の発言は予想外だった。
クレノースは冷たい視線をバルドに向け、声を荒げた。
「母上に忠実だったお前が、なぜ今になってこんなことを言う?」
バルドは一瞬躊躇したものの、サクレティアとの交流を通して変わりつつある自身の心情を言葉にする覚悟を決めた。
「確かに、私はこれまで公爵夫人――大奥様に従ってまいりました。ですが、サクレティア様をお側にお仕えする中で、少しずつ感じ始めたのです。彼女は、公爵家にとって必要な存在だと。」
バルドは一歩前に進み、その冷静な瞳でクレノースを見据えた。彼の言葉には、これまで抱いていた忠誠心が揺らぎ、サクレティアへの信頼が芽生えたことが滲み出ていた。
執事は一歩前に進み、少し緊張した面持ちでクレノースを見つめ続けた。
「王命であれば、公爵様も従うしかありません。ご母堂に逆らうのは困難かもしれませんが、王のご命令です。そしてサクレティア様を守るためにも、この決定は最善であると存じます。」
クレノースはその言葉に苛立ちを覚えつつも、執事の誠実さを感じ取っていた。これまで忠実に母親に仕えてきた執事が、今こうして王命に従うよう促すことに、何か変化を感じずにはいられなかった。
「……わかった。」
クレノースは深いため息をつき、目を伏せた。彼の中で、王の命令と自分の感情がせめぎ合っていたが、最終的には王の命に従うしかないと理解した。
クレノースは、王からの手紙の件をサクレティアに説明するため、彼女の部屋へと向かっていた。扉の前に立つと、部屋の中から楽しげな笑い声が聞こえてきた。クレノースは一瞬驚いたが、軽くノックをした。
しかし、何度ノックしても反応はなかった。
少し不審に思い、彼は扉をゆっくりと開けた。すると、目の前に広がった光景は予想外のものだった。サクレティアは農作業用の服を着て、侍女たちと楽しそうに笑い合っていた。彼女は作業をしながらも生き生きとしており、その姿はこれまでの彼女とはまるで別人のようだった。
「サクレティア様が発明された顕微鏡というものは実に素晴らしいです!これで私たちも作物の状態を細かく観察できますね。きっと、これが広まれば、いろんな人が押し寄せてきてしまうでしょうね。」
侍女のアリアがそう話すと、他の侍女もそれに同意するように頷いた。
「公爵様にきちんと報告したほうが良いかもしれませんわ。」
別の侍女が、少し緊張した表情でそう付け加える。彼女たちは、顕微鏡がもたらす影響の大きさを感じ取っていた。
クレノースはしばらくその光景を静かに見つめていた。サクレティアがただの「お飾りの妻」ではなく、何かもっと特別な存在であることを、彼は徐々に理解し始めていた。彼女が笑顔で侍女たちに囲まれながら、自分の発明品について話している姿は、彼にとって新鮮な驚きだった。
「……なるほど、これが彼女の力か。」
彼はそう小さく呟き、ふと薄っすらと微笑んでから、静かに声をかけた。
「サクレティア……その顕微鏡とやらについて、詳しく聞いても良いか?」
突然のクレノースの声に、サクレティアは少し驚いたように顔を上げた。しかし、すぐに笑顔を浮かべ、彼に近づいた。
「はい、もちろんです。こちらが私が作った顕微鏡です。」
サクレティアは自作の顕微鏡を持ってきて、クレノースに見せた。それは細かいパーツが組み合わされ、独自の工夫が施された精巧な作りだった。クレノースは興味深げにその機器を手に取り、じっくりと観察した。
「これは、簡単に言えば、肉眼では見えない微小なものを拡大して見るための道具です。作物の葉や根の状態、病害虫の兆候を細かく確認できるので、植物の成長を最適に管理できるんです。」
サクレティアの説明は熱がこもっており、その目には自信と情熱が光っていた。クレノースは、彼女がこの顕微鏡を単なる道具としてではなく、自分の才能を活かし、生活を豊かにする手段として考えていることに気づいた。
「なるほど……非常に興味深い。君がこんなものを発明するとは思ってもみなかったよ。」
クレノースは再び微笑み、顕微鏡を丁寧にサクレティアに返した。その表情には、かつての冷たさはなく、少しだけ柔らかさが滲んでいた。彼女がただの娘ではないことが、はっきりと伝わってきた。
しかし、ふとクレノースの脳裏に一つの疑問が浮かんだ。サクレティアの実家であるボーン伯爵家が、奇妙な発明品で巨額の利益を得ているという噂があったのを思い出したのだ。彼女の才能がその家に何らかの影響を与えているのではないかと、考えざるを得なかった。
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クレノースは思わず問いかけた。彼の目には疑念と好奇心が入り混じっていた。もしかすると、彼女の才能があの伯爵家の財源に繋がっているのではないかという考えが頭をよぎったのだ。
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「……はい。それは、私が幼い頃から作らされていたものです。そして、それらは全て、伯爵家のものになってしまいました。私は無力で……ただ、言われた通りに作り続けることしかできませんでした。生きる為に…。」
サクレティアの声には悲しみと諦めが込められていた。彼女の才能が搾取され、自由を奪われてきた過去が、その短い言葉の中に詰まっていた。
クレノースは彼女の答えを聞いて、少し戸惑った表情を見せた。彼女の過去には、思った以上に複雑で苦しいものが隠されていることを、彼は初めて知ったのだった。
クレノースはサクレティアの悲しげな表情を見つめながら、ふと彼女をこれ以上苦しませたくないという気持ちが胸の中に生まれた。だが、彼にはどうしても伝えなければならないことがあった。彼は、少し躊躇いながらも、重たい言葉を口にした。
「……サクレティア、実は、王宮で式を挙げなければならない。初夜も……その王宮で行うことになる。そして……見届け人が付く。」
クレノースの声には苦しさが滲んでいた。彼の表情も、今まで見せたことのないような複雑なものだった。
「だから……君にとっては非常に辛いことになるだろう。好きでもない男と……寝なければならないのだから……」
彼は言葉を詰まらせながら、サクレティアに伝えた。
しかし、サクレティアは一瞬の間を置き、力強く頷いた。彼女の目には決意が宿っていた。
「お任せください、クレノース様。私にご要望があるなら、それをきちんとこなしてみせます。」
その言葉に、クレノースは驚きの表情を浮かべた。彼女の決意の強さに、彼は一瞬言葉を失った。
「好きでもない男と……寝るのだぞ。それでも、本当に大丈夫なのか?」
クレノースは再び問いかけた。彼には信じ難いことだった。だが、サクレティアは微笑みを浮かべながら、静かに答えた。
「はい、大丈夫です。クレノース様が、あの家から私を救い出してくださったおかげで、今こうして好きなことをさせていただいています。それに……これからの生活に感謝しています。」
彼女の声には感謝の気持ちが込められており、その言葉は心からのものだった。サクレティアはこれまでの苦しい日々から救われ、今では公爵家の一員として新しい人生を歩んでいた。その恩義を感じ、彼女は何があっても乗り越える覚悟を固めていた。
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