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-トラウマときっかけ-
四話
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校門を抜けて暫く歩くと閑静な住宅街が見えてくる。その隅っこに位置する寂れた公園の前で、二人の足はぴたりと止まった。正確には、朔が止まった事で引っ張られていた俺も足を止めた形ではあったが。
「……落ち着いた?」
「…少しだけ」
「良かった。いきなり様子が変わったから」
「鞄、重いだろ。自分で持つ」
「いいよこれくらい。こーちゃんまだヘロヘロでしょ、家まで運ぶ」
朔のことを警戒する気持ちは勿論あったが、その優しげな表情を見ると、どうにも縋ってしまいそうになる。
いつだって味方でいてくれた幼馴染の顔。例えそれが作られたものだったとしても、今は、今だけは、それでも良いと思ってしまった。
「さっきはごめんね。まさかあんなに目立つなんて」
「……お前はもっと、自分の顔の良さを自覚しろ」
「ふふっ、何それ。こーちゃんは俺のことカッコいいって思ってくれてるの?」
「まぁ、顔に罪は無いし………」
オレンジに染まり始めた道を、またぽつぽつと歩き出す。二人きりで帰るなんて、多分小学生の頃以来だ。
あの頃の朔は引っ込み思案だったから、いつも俺の方が手を引いて一方的に話しかけてばかりいた。……いつのまにか、すっかり真逆になってしまったけど。
途中、自転車を置いてきてしまった事に気付いたけど、今更戻るのも躊躇われたのであえて口には出さなかった。
家から学校までは自転車でだいたい十分ほど。別に歩いてもいい距離ではあるし、実際朔は毎日徒歩で通っている。俺は朝ギリギリまで寝ていたいからという理由で、迷う事なく自転車を選んだ。
「……朔」
「ん~?」
「明日は来ないでくれ。その……教室に」
久々にも思える穏やかな時間、今ならいけるかと思って恐る恐る口を開いた。焦りと緊張から随分めちゃくちゃな文法になってしまったけど、最低限の意味は伝わるだろう。いや、伝わらなくても汲み取ってくれ。
「………なんで?」
「へ」
祈るような気持ちで待っていたのに、返ってきた言葉は随分呆気ないものだった。思わず足を止めてぽかんと口を開く。なんで? なんでってそりゃ……
「め、目立つだろ」
「別にいいじゃん、俺たち恋人でしょ?」
「こ………ッ、でもそれは秘密にしてくれるって――」
あの思い出したくもない休みの間、付き合ってることを隠したいなら――と毎日朔の性器を咥えさせられた。
舌に残る苦味とえぐみ、奥まで入れたときの嘔吐感、雄くさいにおい、ねばねばとした液体が喉を落ちていく感触……全部、全部我慢したのに……!
「俺は別に秘密にするとは言ってないよ。こーちゃんが嫌なら自分からは広めないってだけ。……あぁ、でも。もし聞かれたりしたら、嬉しくてうっかり話しちゃうかもね?」
「なっ…約束が違う!!」
「も~、だからそんな約束してないって」
「……じゃ、じゃあ俺は一体、何の…ために………」
力が抜けてへなへなとその場にしゃがみ込む。一部の通行人に不審な目で見られていることは分かっていたけど、どうにも立ち上がることが出来なかった。
「はぁ……わかった。そんなに嫌なら、もし聞かれても答えないようにする」
「…ッほんとか!」
「その代わり、登下校は毎日一緒にすること。これが守れるなら俺も約束してあげる」
喜んだのも束の間。すぐに新しい条件を突きつけられ、灰色の瞳が絶望に歪んだ。
聞かれたら答える。この言葉がどの程度の範囲を指しているのかはわからないが、もしここで断れば、朔は間違いなく俺と付き合っていることを広めるだろう。そういう男だということは、既に嫌というほど思い知らされていた。
……かといって、この条件を呑んだとしても、結局は好奇の目に晒され続ける事になる。――嗚呼、本当に性格が悪い。最初から選ぶ余地など無いではないか。
「…………わかった」
「よし。じゃあ暗くなってきたし、そろそろ帰ろうか」
立てる? 優しく差し出された手をはらって、なんとか自力で立ち上がる。ついでに朔の左肩にかけられたままだった鞄も奪い返して歩き出した。
少しでも信じようとした俺が馬鹿だった。……もう、何があってもこいつには頼らない。
「……落ち着いた?」
「…少しだけ」
「良かった。いきなり様子が変わったから」
「鞄、重いだろ。自分で持つ」
「いいよこれくらい。こーちゃんまだヘロヘロでしょ、家まで運ぶ」
朔のことを警戒する気持ちは勿論あったが、その優しげな表情を見ると、どうにも縋ってしまいそうになる。
いつだって味方でいてくれた幼馴染の顔。例えそれが作られたものだったとしても、今は、今だけは、それでも良いと思ってしまった。
「さっきはごめんね。まさかあんなに目立つなんて」
「……お前はもっと、自分の顔の良さを自覚しろ」
「ふふっ、何それ。こーちゃんは俺のことカッコいいって思ってくれてるの?」
「まぁ、顔に罪は無いし………」
オレンジに染まり始めた道を、またぽつぽつと歩き出す。二人きりで帰るなんて、多分小学生の頃以来だ。
あの頃の朔は引っ込み思案だったから、いつも俺の方が手を引いて一方的に話しかけてばかりいた。……いつのまにか、すっかり真逆になってしまったけど。
途中、自転車を置いてきてしまった事に気付いたけど、今更戻るのも躊躇われたのであえて口には出さなかった。
家から学校までは自転車でだいたい十分ほど。別に歩いてもいい距離ではあるし、実際朔は毎日徒歩で通っている。俺は朝ギリギリまで寝ていたいからという理由で、迷う事なく自転車を選んだ。
「……朔」
「ん~?」
「明日は来ないでくれ。その……教室に」
久々にも思える穏やかな時間、今ならいけるかと思って恐る恐る口を開いた。焦りと緊張から随分めちゃくちゃな文法になってしまったけど、最低限の意味は伝わるだろう。いや、伝わらなくても汲み取ってくれ。
「………なんで?」
「へ」
祈るような気持ちで待っていたのに、返ってきた言葉は随分呆気ないものだった。思わず足を止めてぽかんと口を開く。なんで? なんでってそりゃ……
「め、目立つだろ」
「別にいいじゃん、俺たち恋人でしょ?」
「こ………ッ、でもそれは秘密にしてくれるって――」
あの思い出したくもない休みの間、付き合ってることを隠したいなら――と毎日朔の性器を咥えさせられた。
舌に残る苦味とえぐみ、奥まで入れたときの嘔吐感、雄くさいにおい、ねばねばとした液体が喉を落ちていく感触……全部、全部我慢したのに……!
「俺は別に秘密にするとは言ってないよ。こーちゃんが嫌なら自分からは広めないってだけ。……あぁ、でも。もし聞かれたりしたら、嬉しくてうっかり話しちゃうかもね?」
「なっ…約束が違う!!」
「も~、だからそんな約束してないって」
「……じゃ、じゃあ俺は一体、何の…ために………」
力が抜けてへなへなとその場にしゃがみ込む。一部の通行人に不審な目で見られていることは分かっていたけど、どうにも立ち上がることが出来なかった。
「はぁ……わかった。そんなに嫌なら、もし聞かれても答えないようにする」
「…ッほんとか!」
「その代わり、登下校は毎日一緒にすること。これが守れるなら俺も約束してあげる」
喜んだのも束の間。すぐに新しい条件を突きつけられ、灰色の瞳が絶望に歪んだ。
聞かれたら答える。この言葉がどの程度の範囲を指しているのかはわからないが、もしここで断れば、朔は間違いなく俺と付き合っていることを広めるだろう。そういう男だということは、既に嫌というほど思い知らされていた。
……かといって、この条件を呑んだとしても、結局は好奇の目に晒され続ける事になる。――嗚呼、本当に性格が悪い。最初から選ぶ余地など無いではないか。
「…………わかった」
「よし。じゃあ暗くなってきたし、そろそろ帰ろうか」
立てる? 優しく差し出された手をはらって、なんとか自力で立ち上がる。ついでに朔の左肩にかけられたままだった鞄も奪い返して歩き出した。
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