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-トラウマときっかけ-
六話
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「ねぇ、いつまで待たせるわけ?」
「………わかった、わかったから、とりあえず朔に連絡させて欲しい。あいつ待ってるかもしれないから……」
「良かったね、桜」
「うん。ありがとう嵐山君」
「折角ならさぁ、桜も一緒に帰らせて貰えば? どうせ家あっち方向でしょ」
わいわいと盛り上がる女子たちを尻目に、慌ててポケットからスマホを取り出す。案の定、その画面は朔からの通知で埋まっていた。
やばいやばいやばいやばい。
震える指でロックを解除しようにも、焦りから何度も押し間違えてしまってどうにも上手くいかない。手間取っている間にも、再びスマホが震え始め、画面いっぱいに朔の名前とアイコンが表示された。
『……も、もしもし』
『今どこにいるの』
『あ、えっと……』
『早く教えて』
『校舎裏に、いる』
『校舎裏ね。今行くから動かないで』
恐る恐る通話ボタンを押したものの、短いやりとりの後、一方的に切られてしまった。
あんなに低い朔の声は、今まで聞いたことがない。怒鳴っているわけではないのが逆に恐ろしくて、冷や汗が止まらなかった。緊張から浅い呼吸を繰り返していると、ふわりと甘い匂いがして柔らかい何かが額に押し当てられる。
「大丈夫? 凄い汗だよ」
「片桐さん……」
「良かったらこれ使って」
差し出されたのはピンク色のハンカチだった。既に俺の汗を吸ってしまったようで、所々色が濃くなっている。
「ご、ごめん! 折角綺麗なハンカチなのに……」
「ふふ、気にしなくていいよ。はいどうぞ」
「ありがとう……絶対、洗って返すから」
汚れてしまったのならばと受け取って、鞄の中へ大事にしまう。
汗を拭くために渡されたものだとは分かっていたけど、女子のハンカチ、それも本人の目の前で汗を拭くだなんて、到底出来るはずもなかった。
でも、おかげで少し落ちつけた気がする。いつのまにか女子生徒たちは居なくなっており、この場に残っていたのは片桐さん一人だけだった。
「あれ、他の人たちは……?」
「こーちゃんっ!」
大きな声が耳に届いてビクリと肩が跳ね上がる。息を切らしてこちらに走ってくるのは、紛れもなく朔の姿だった。
「……ハァッ、やっと見つけた。何で連絡してくれなかったの」
「ごめん。ちょっと色々あって……」
「後で詳しく聞かせてもらうから。……で、その子は?」
「あ、この子は――」
「嵐山君と同じクラスの片桐桜花です」
片桐さんが長い髪を揺らして丁寧に頭を下げる。ようやく彼女の存在に気づいた朔は、瞬時にいつもの笑みを貼り付けた。
「俺は兎山朔斗、よろしくね」
「……ッはい」
「じゃあこーちゃん、早く帰ろうか。そろそろ暗くなる頃だし」
あまりにも簡潔に終わってしまった会話に、片桐さんは戸惑っているようだった。どこからどう見ても優しい対応ではあるが、会話に入る余地が一切ない。
ずるずると腕を引き摺られて連れて行かれるなか、寂しそうな片桐さんの様子が見てられなかった。見てられなかった、から……
「その……片桐さんも一緒に帰る? 家、同じ方向だよね?」
「いいの?」
悲しげだった顔が一気に笑顔へと変わる。まさに花が綻ぶような微笑みだ。どうせ俺はお仕置きコース確定なんだから、最後に良いところを見せたってバチは当たらないだろう。
それに、もし二人が付き合ってくれさえすれば、俺もこのイカれた恋人ごっこから解放される。
そうだ、そうだよ。こんな美少女(しかも性格まで良い)に惚れない筈ないだろ。このチャンスを最大限に活かすんだ! 頑張れ俺!
「勿論いいよ。 な、朔!」
「…………うん。片桐さんが良ければだけど」
「嬉しい、ありがとう!」
優等生の演技をしている朔は、こんな時に断れない。今回ばかりは俺の作戦勝ちである。
もし万が一、片桐さんが被害を被った時は、真っ先に通報するから許して欲しい。そんな他人よがりな考え方をしつつ、薄暗くなり始めた道を三人並んで帰って行った。
「………わかった、わかったから、とりあえず朔に連絡させて欲しい。あいつ待ってるかもしれないから……」
「良かったね、桜」
「うん。ありがとう嵐山君」
「折角ならさぁ、桜も一緒に帰らせて貰えば? どうせ家あっち方向でしょ」
わいわいと盛り上がる女子たちを尻目に、慌ててポケットからスマホを取り出す。案の定、その画面は朔からの通知で埋まっていた。
やばいやばいやばいやばい。
震える指でロックを解除しようにも、焦りから何度も押し間違えてしまってどうにも上手くいかない。手間取っている間にも、再びスマホが震え始め、画面いっぱいに朔の名前とアイコンが表示された。
『……も、もしもし』
『今どこにいるの』
『あ、えっと……』
『早く教えて』
『校舎裏に、いる』
『校舎裏ね。今行くから動かないで』
恐る恐る通話ボタンを押したものの、短いやりとりの後、一方的に切られてしまった。
あんなに低い朔の声は、今まで聞いたことがない。怒鳴っているわけではないのが逆に恐ろしくて、冷や汗が止まらなかった。緊張から浅い呼吸を繰り返していると、ふわりと甘い匂いがして柔らかい何かが額に押し当てられる。
「大丈夫? 凄い汗だよ」
「片桐さん……」
「良かったらこれ使って」
差し出されたのはピンク色のハンカチだった。既に俺の汗を吸ってしまったようで、所々色が濃くなっている。
「ご、ごめん! 折角綺麗なハンカチなのに……」
「ふふ、気にしなくていいよ。はいどうぞ」
「ありがとう……絶対、洗って返すから」
汚れてしまったのならばと受け取って、鞄の中へ大事にしまう。
汗を拭くために渡されたものだとは分かっていたけど、女子のハンカチ、それも本人の目の前で汗を拭くだなんて、到底出来るはずもなかった。
でも、おかげで少し落ちつけた気がする。いつのまにか女子生徒たちは居なくなっており、この場に残っていたのは片桐さん一人だけだった。
「あれ、他の人たちは……?」
「こーちゃんっ!」
大きな声が耳に届いてビクリと肩が跳ね上がる。息を切らしてこちらに走ってくるのは、紛れもなく朔の姿だった。
「……ハァッ、やっと見つけた。何で連絡してくれなかったの」
「ごめん。ちょっと色々あって……」
「後で詳しく聞かせてもらうから。……で、その子は?」
「あ、この子は――」
「嵐山君と同じクラスの片桐桜花です」
片桐さんが長い髪を揺らして丁寧に頭を下げる。ようやく彼女の存在に気づいた朔は、瞬時にいつもの笑みを貼り付けた。
「俺は兎山朔斗、よろしくね」
「……ッはい」
「じゃあこーちゃん、早く帰ろうか。そろそろ暗くなる頃だし」
あまりにも簡潔に終わってしまった会話に、片桐さんは戸惑っているようだった。どこからどう見ても優しい対応ではあるが、会話に入る余地が一切ない。
ずるずると腕を引き摺られて連れて行かれるなか、寂しそうな片桐さんの様子が見てられなかった。見てられなかった、から……
「その……片桐さんも一緒に帰る? 家、同じ方向だよね?」
「いいの?」
悲しげだった顔が一気に笑顔へと変わる。まさに花が綻ぶような微笑みだ。どうせ俺はお仕置きコース確定なんだから、最後に良いところを見せたってバチは当たらないだろう。
それに、もし二人が付き合ってくれさえすれば、俺もこのイカれた恋人ごっこから解放される。
そうだ、そうだよ。こんな美少女(しかも性格まで良い)に惚れない筈ないだろ。このチャンスを最大限に活かすんだ! 頑張れ俺!
「勿論いいよ。 な、朔!」
「…………うん。片桐さんが良ければだけど」
「嬉しい、ありがとう!」
優等生の演技をしている朔は、こんな時に断れない。今回ばかりは俺の作戦勝ちである。
もし万が一、片桐さんが被害を被った時は、真っ先に通報するから許して欲しい。そんな他人よがりな考え方をしつつ、薄暗くなり始めた道を三人並んで帰って行った。
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