前門の虎、後門の兎

深海めだか

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-トラウマときっかけ-

※七話

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「………でさ」
「え~? でもそれって……」

 楽しそうに会話する二人から少し離れて後ろを歩く。あからさますぎるかとも思ったが、存外話が弾んでいるみたいでほっとした。
 もしかしてこの二人、中々に相性いいんじゃないか? 期待に胸を膨らませつつ一定の距離を保って歩き続けていると、いつの間にか家の前に着いていた。

「あ、お家ここなの?」
「うん。隣がこーちゃんの家だよ」
「凄く綺麗なお家だね……」

 彼女は俺の家には目もくれず、朔の家を一心不乱に眺めては褒め立てていた。
 それもそのはず。俺の家がごく普通の一軒家であるのに対し、朔の家は広い敷地内にお洒落な外装――俗に言う『デザイナーズハウス』と呼ばれる類のものだ。
 二人で住むには少し広すぎる気もするけれど、夫婦とも稼いでいるから特に問題はないのだろう。

「あ、良かったら上がっていく?」
『えっ』

 予想外の展開に思わず声を上げてしまい、片桐さんの反応に思いっきり被ってしまった。まぁ片桐さんは歓喜混じりの『えっ』で、俺の方は驚き100%の『えっ』だから根本的な感情は違うんだけど。

 それにしても朔が家に誰かを上げるなんて。俺の知る限りでは初めてじゃないか? 
 俺の家で他の友達を招いて遊んだことはあっても、朔は決して自分の家に他人を入れようとしなかった。パーソナルスペースが広いのかな~くらいに考えていたけれど、まさか、あの朔が………!

「ほ、本当にいいの?」
「うん。今日は親いないし」
『えっ』

 ほら、また被った。おばさんがいないなんて言う必要あったか? こいつ確実にワンチャン狙ってるだろ。片桐さんは満更でもないらしく、薄暗い中でもわかるほど頬を真っ赤に染めていた。
 想像以上にクズだった幼馴染にはかなりドン引いたが、この二人がくっついてくれるなら俺にとっては最高の展開。

 女の子相手なんだからゴムはちゃんとしろよな。心の中で決め台詞を吐いて自宅へと足を進める。

 レイプされたことは一生許さないけど、幼馴染のよしみで結婚式くらいは参加してやるか……。気の早い想像に思いを馳せていると、後ろから肩をがしりと掴まれた。

 待ってくれ、なんだか嫌な予感がする。

「でも部屋が凄い散らかっててさ、片付けてくるから少しだけ待っててくれない?」
「もちろん! その間に……その、お母さんに連絡しとくね」
「うん、ありがとう。こーちゃんには部屋片付けるの手伝って欲しくて」
「片付けぇ……? 何言ってんだ。そもそもお前の部屋っていつもき――モガッ!」

 口を塞がれて無理やり家の中へと引き摺り込まれる。相手が朔で引き摺り込まれたのが綺麗なデザイナーズハウスだったからまだ良かったけど、どちらか一つでも違っていたら、かなりホラーな光景になったことだろう。

 見慣れた広い玄関で咽せていると、腕を掴まれて朔の部屋まで連れて行かれる。
 これから女の子とイチャイチャしようって部屋を、よりよってレイプした幼馴染に片付けさせようだなんてマジでどんな性格してるんだ。うっかり人間性を疑うレベルだぞ?

「なぁ朔、そんなに散らかってるのか?」
「うん。見ればわかるよ」

 『見ればわかる』その言葉と共に開け放たれた扉の先は、いつも通り……いつも以上に綺麗だった。
 一瞬で状況を察して逃げ出そうとした体が、長い足に払われてつんのめる。そのまま固い床に押し倒され、背中の上に馬乗りになった朔が、慣れた手つきで両手を縛った。

「待って、なんで………?、! 片桐さんのこと気に入ったんじゃ……!」
「ふーん。やっぱりそんなこと考えてたんだ」

 墓穴を掘ったことに気づいても時すでに遅し、電話の時より数倍恐ろしい声音で囁かれ、恐怖心から後ろを振り向くことすらできなかった。

「はぁ~、俺傷ついたなぁ。この二週間、彼氏として優しく優しく接してきたつもりだったのに」
「ご……ごめ、ごめんなさい……」

 背中から朔の重みが消え、圧迫されていた肺に空気が入り込む。ごほごほと何度も咳き込んでいると、再び戻ってきたらしい朔に制服のズボンを脱がされた。
 ベルトを抜く音がやけに生々しくて嫌になる。どれだけ抵抗したくても、後ろ手に縛られた状態では足をばたつかせることしか出来なかった。
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