前門の虎、後門の兎

深海めだか

文字の大きさ
7 / 12
-トラウマときっかけ-

※七話

しおりを挟む
「………でさ」
「え~? でもそれって……」

 楽しそうに会話する二人から少し離れて後ろを歩く。あからさますぎるかとも思ったが、存外話が弾んでいるみたいでほっとした。
 もしかしてこの二人、中々に相性いいんじゃないか? 期待に胸を膨らませつつ一定の距離を保って歩き続けていると、いつの間にか家の前に着いていた。

「あ、お家ここなの?」
「うん。隣がこーちゃんの家だよ」
「凄く綺麗なお家だね……」

 彼女は俺の家には目もくれず、朔の家を一心不乱に眺めては褒め立てていた。
 それもそのはず。俺の家がごく普通の一軒家であるのに対し、朔の家は広い敷地内にお洒落な外装――俗に言う『デザイナーズハウス』と呼ばれる類のものだ。
 二人で住むには少し広すぎる気もするけれど、夫婦とも稼いでいるから特に問題はないのだろう。

「あ、良かったら上がっていく?」
『えっ』

 予想外の展開に思わず声を上げてしまい、片桐さんの反応に思いっきり被ってしまった。まぁ片桐さんは歓喜混じりの『えっ』で、俺の方は驚き100%の『えっ』だから根本的な感情は違うんだけど。

 それにしても朔が家に誰かを上げるなんて。俺の知る限りでは初めてじゃないか? 
 俺の家で他の友達を招いて遊んだことはあっても、朔は決して自分の家に他人を入れようとしなかった。パーソナルスペースが広いのかな~くらいに考えていたけれど、まさか、あの朔が………!

「ほ、本当にいいの?」
「うん。今日は親いないし」
『えっ』

 ほら、また被った。おばさんがいないなんて言う必要あったか? こいつ確実にワンチャン狙ってるだろ。片桐さんは満更でもないらしく、薄暗い中でもわかるほど頬を真っ赤に染めていた。
 想像以上にクズだった幼馴染にはかなりドン引いたが、この二人がくっついてくれるなら俺にとっては最高の展開。

 女の子相手なんだからゴムはちゃんとしろよな。心の中で決め台詞を吐いて自宅へと足を進める。

 レイプされたことは一生許さないけど、幼馴染のよしみで結婚式くらいは参加してやるか……。気の早い想像に思いを馳せていると、後ろから肩をがしりと掴まれた。

 待ってくれ、なんだか嫌な予感がする。

「でも部屋が凄い散らかっててさ、片付けてくるから少しだけ待っててくれない?」
「もちろん! その間に……その、お母さんに連絡しとくね」
「うん、ありがとう。こーちゃんには部屋片付けるの手伝って欲しくて」
「片付けぇ……? 何言ってんだ。そもそもお前の部屋っていつもき――モガッ!」

 口を塞がれて無理やり家の中へと引き摺り込まれる。相手が朔で引き摺り込まれたのが綺麗なデザイナーズハウスだったからまだ良かったけど、どちらか一つでも違っていたら、かなりホラーな光景になったことだろう。

 見慣れた広い玄関で咽せていると、腕を掴まれて朔の部屋まで連れて行かれる。
 これから女の子とイチャイチャしようって部屋を、よりよってレイプした幼馴染に片付けさせようだなんてマジでどんな性格してるんだ。うっかり人間性を疑うレベルだぞ?

「なぁ朔、そんなに散らかってるのか?」
「うん。見ればわかるよ」

 『見ればわかる』その言葉と共に開け放たれた扉の先は、いつも通り……いつも以上に綺麗だった。
 一瞬で状況を察して逃げ出そうとした体が、長い足に払われてつんのめる。そのまま固い床に押し倒され、背中の上に馬乗りになった朔が、慣れた手つきで両手を縛った。

「待って、なんで………?、! 片桐さんのこと気に入ったんじゃ……!」
「ふーん。やっぱりそんなこと考えてたんだ」

 墓穴を掘ったことに気づいても時すでに遅し、電話の時より数倍恐ろしい声音で囁かれ、恐怖心から後ろを振り向くことすらできなかった。

「はぁ~、俺傷ついたなぁ。この二週間、彼氏として優しく優しく接してきたつもりだったのに」
「ご……ごめ、ごめんなさい……」

 背中から朔の重みが消え、圧迫されていた肺に空気が入り込む。ごほごほと何度も咳き込んでいると、再び戻ってきたらしい朔に制服のズボンを脱がされた。
 ベルトを抜く音がやけに生々しくて嫌になる。どれだけ抵抗したくても、後ろ手に縛られた状態では足をばたつかせることしか出来なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

俺にだけ厳しい幼馴染とストーカー事件を調査した結果、結果、とんでもない事実が判明した

あと
BL
「また物が置かれてる!」 最近ポストやバイト先に物が贈られるなどストーカー行為に悩まされている主人公。物理的被害はないため、警察は動かないだろうから、自分にだけ厳しいチャラ男幼馴染を味方につけ、自分たちだけで調査することに。なんとかストーカーを捕まえるが、違和感は残り、物語は意外な方向に…? ⚠️ヤンデレ、ストーカー要素が含まれています。 攻めが重度のヤンデレです。自衛してください。 ちょっと怖い場面が含まれています。 ミステリー要素があります。 一応ハピエンです。 主人公:七瀬明 幼馴染:月城颯 ストーカー:不明 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

素直に同棲したいって言えよ、負けず嫌いめ!ー平凡で勉強が苦手な子が王子様みたいなイケメンと恋する話ー

美絢
BL
 勉強が苦手な桜水は、王子様系ハイスペックイケメン幼馴染である理人に振られてしまう。にも関わらず、ハワイ旅行に誘われて彼の家でハウスキーパーのアルバイトをすることになった。  そこで結婚情報雑誌を見つけてしまい、ライバルの姫野と結婚することを知る。しかし理人は性的な知識に疎く、初夜の方法が分からないと告白される。  ライフイベントやすれ違いが生じる中、二人は同棲する事ができるのだろうか。【番外はじめました→ https://www.alphapolis.co.jp/novel/622597198/277961906】

幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。

叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。 幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。 大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。 幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

処理中です...