だって魔王の子孫なので

深海めだか

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宝探しは君の手で

第三十話

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 青い空に対比して、目の前に茂る木々たちは鬱蒼と背を伸ばしている。


 海の真ん中に佇むその島は、学園が所有している中でもかなり大きい部類のものだ。
 小高い山林が島の大半を占めており、それ以外のエリアは見通しの良い原野か海岸、もしくは崖。
 移動するだけで一苦労であるにも関わらず、荒れ放題の木々や動物たちが、さらに行手を阻んでくる。オブラートに包むまでもない。どう考えてもハズレ枠だ。

「ねえ、どうしよう。どこから探す?」

 そんなことを考えながらぼうっと木々を見上げていれば、不安げな声が耳に届いた。
 クラスメイトであり、同じチームの雪之院ゆきのいん 薫。透けるような肌と黒曜の瞳は間違いなく雪女の家系だが、体格の良さは父方譲りなのだろうか。
 仕方なく少し顔を上げれば、ちょうどこちらを覗き込んでいた瞳と目があった。

「……僕は別に、任せるよ」

 ふいと視線を逸らして小さく呟く。俺なんかにそんな、縋るような眼差しを向けないでほしい。

「そんな! 朔魔くんは俺たちのリーダーじゃないか」
「学園側が勝手に決めたんだ。そんなの気にする必要ないよ」
「っ、で、でも……──」

 及び腰ながらも食い下がってくる様子を見るに、相手も引く気はないのだろう。
 判断を委ねたい、責任を負いたくないという気持ちはわかる。他でもない自分がそうだからこそ、リーダーなんて重い役目に居心地の悪さを感じているのだ。

「……わかった。でもあんまり期待はしないで。なるべく他のチームと衝突せず、宝を探して早く帰ろう」

 けれど、ここで仲間割れを起こしてもメリットなんか一つもない。
 仕方がないと渋々微笑み、安心するであろう言葉を意図して選ぶ。ここにきて長年被っていた猫が役に立った。

「ごめん、夜重咲さん。そういうことだから人が少ないエリアを調べてもらってもいいかな」

 宝探しで禁止されているのは"生徒への過度な攻撃"

 しかし、それもあくまで原則であり、訴えても例外が適応されることの方がほとんどだ。他の生徒と出会わないで済むのなら、それに越したことはない。……まあ。というか、個人的にも会いたくないやつが一人いる。

「ええ、もちろん。少々お待ちくださいませ」

 振り向いた先で見つめた赤い目が、三日月のように弧を描く。夜重咲やえざき 彩華。吸血鬼を祖先にもつ家系の令嬢で、不運にも俺のチームに配属されてしまった生徒の一人だ。 

 宝探しではリーダー含め、学園側が事前に生徒の割り振りを決める。
 しかしながらその選定基準は一切公開されておらず、クラス、家柄、性別、能力──何が影響するかもわからない。ただひとつ言えるのは、チーム組がどうであろうと結果を出すしかないということ。

 キィィィィィ

 耳の奥を揺らすような高く細い音が響いたあと、彼女はそっと口を閉じ人差し指を持ち上げた。

「二時の方向、数人はいるようですが他のエリアと比べれば少ない方かと」
「なるほど。確かにあっちは中心部から逸れてるし、道も険しいから……──」
「ええ。相手側が予想外の動きをしない限り、このまま進んでも遭遇することはないでしょうね」

 判断を裏付けるような言葉に頷いて、声の代わりに視線を投げる。それだけで察しのいい二人には伝わったらしい。
 
(このチーム割、案外当たりだったのかもな)

 なんて、悠長なことを考えながら、この頃の俺は想像できうる最善の未来に淡い期待を膨らませていた。
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