創作BL短編集

深海めだか

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少し不思議な夜のお話

未曾有の抜け道

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「裏道、行ってみない?」

 月が綺麗な夜だった。悪戯っぽいその声を切り捨てるほど、僕は野暮でも真面目でもない。

「いいよ、どこにでも連れて行って」

 なんて、わざとらしく呟けば、あいつはきゃらきゃらと不思議な音を立てて笑っていた。
 手を引かれるまま右へ左へまた右へ。時折くるりと回るのは、楽しいから……なんだろうか。

 腐った臭いのする路地裏を、猫が横切る裏通りを、ひとつふたつと進んでいく。気づけば僕も笑っていて、何だか妙に楽しかった。

「あとすこしだから」

 聞こえていたけれど、あえて返事はしなかった。だって言葉を返したら、この時間がもっと早く終わってしまうように思えたから。

 ふわりふわりとした意識の中で、きらりきらりと星が舞う。もう夢なのか現なのかもわからない。
 ゴミ箱はトランポリンのように柔らかくて、ひとたび踏めば、体が雲の上へと飛び上がった。嘘のような話だが、全部本当で夢なのだ。

 まるく輝く月を目指して、星の間を渡っていく。楽しくて、きらきらで、でもほんの少しだけ怖い。
 口にするかどうか迷った末に、聞こえるような聞こえないような、そんな音量で呟いた。

「ねぇ……どこまで行くの」

 振り向いたのは誰だったか。

「残念、バレちゃった」

 ぱちんっと指を鳴らすような音がして、気づいたら暗い夜道に立っていた。

 あれ、何をしてたんだっけ。
 不思議とおぼつかない思考の中、ただ家を目指して歩き出す。遠い空のそのまた向こうで、月が楽しげに、きゃらきゃらとと音を立てていた。
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