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◇開幕◆

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 この世界には、特別なギフトを持って生まれてくる子供たちがいた。
 ある者は透視透聴、ある者は転移、ある者は治癒の力を。
 そして――……。

 ざあざあと雨が降りつけるなか、少年は路地裏にうずくまっていた。
 短い黒髪と茶色の瞳は東の国の生まれであるとものがたっている。

 長いあいだなにも口にしていないのか、少年はやせ細り、今にも死んでしまいそうだった。
 衣服もぼろぼろなもの、身体は痣だらけで――ただ、右手の甲に不自然な、蝶の模様のようなものがあった。

「きみ、まだ、生きているか?」
 初老の男性の声が響き、少年の霞んだ視界には黒い靴だけが映る。

「……しようがない、ウィリアムを呼んでこい。この子供は生かす価値がある」
「はい」

 相手がなにを言っているのか、その時の少年にはすでに理解する力も残っていなかった。
 ただただ、雨の冷たさと、命が潰えていく感覚に溺れていた。
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