2 / 18
◇戻りたいけど戻れないし◆
しおりを挟む
エルトリーゼとして生まれ、子供の頃からよく夢を見る。自分が死んでいる夢、家族のような人々の夢、友人のような人々の夢、そして……真っ黒な短い髪に青い目をした大好きだったひとの夢。
『セツナ、おつかれ!』
部活帰りに声をかけられたのは、その日が最後だった。
土砂降りの雨が降る外を校舎の渡り廊下から眺めて、シヅルが呟く。
『雨ひどいなー、心配だし、一緒に帰るよ』
『大丈夫よシヅル、あなたが私と一緒の道通ったら、遠回りじゃないの。一人で平気』
くすくすと笑うセツナに、彼は不安そうな表情で言う。
『けど……なんか、嫌な予感がしてさ』
『大丈夫だってば、もうこんな時間だし、私だってシヅルが心配だわ』
そう言って彼の背を叩くと、しぶしぶといった様子でシヅルは手を振った。
そうして別れて、そして……。
◇◇◇
(く……思えばあいつはこの世界に想い人が居るのよね、ムカツクわ)
セツナ、否、エルトリーゼは目覚めてすぐに親指の爪を噛んだ。
すましていれば美少女だというのに、悪鬼のようなその表情からはとても可憐さは窺えない。
ベッドから降りると、彼女は伸びをした。
(って、言ってもしようがないわね。私死んじゃったんだし……でも、なんとか方法がないかしら?)
この世界で、前世の記憶があるなどと他人に言うつもりはなかった。
こちらの世界は魔法であるが、文明としてはもともとの世界とほとんど変わらない、むしろ進んでいる面も多いかもしれない。
だからこそ、だ。この最悪の婚約から逃げだす道があるかもしれない。
(不可能を可能にする魔法のある世界だからこそよ! きっと何かしらあの腹黒から逃げる手立てがあるはず……! たとえば蘇るとか前世に帰るとか、そんな馬鹿みたいなことできなくてもいいから、そう、言ってしまえば仮想現実だっていいのよ!)
そう頭で考えているとノックの音が響いた。
「お嬢様、お目覚めですか?」
「ええ、入っていいわよ」
少女の声に返事をすると、黒い髪を結い上げた茶色い瞳のメイド、ロレッサ・レイトミーが入ってくる。
「今日はいつもよりお早いのですね、やはり、アヴェルス様とのご婚約がありましたし……お嬢様も嬉しいのでは?」
「う、嬉しい? 私が? どうしてそう思うの?」
ロレッサのとんでもない言葉に首を傾げると、彼女も不思議そうに首を傾げた。
「え? だってアヴェルス様ですよお嬢様! これ以上いい縁談がどこにありますか! あのかたならお嬢様のことだってきっと大切にしてくださいます!」
にっこり笑って言うロレッサに、エルトリーゼは眩暈を覚えた。
(アッ、建前のほうしか見えてないのね……純粋なロレッサ……)
こうしてコロッと騙される女性の多いこと多いこと。
あんな男の何がいいのかエルトリーゼにはさっぱり分からないが、それでもいいものはいいらしい。あの本性を知ってなおそう言えるのかは知らないが。
(ま。式までに逃げ道を見つけるなりしなきゃね。なんにしても、その日まであの男から絡んでくることはないだろうし……)
などという考えは甘かったのだと、エルトリーゼは数時間後に後悔した。
『セツナ、おつかれ!』
部活帰りに声をかけられたのは、その日が最後だった。
土砂降りの雨が降る外を校舎の渡り廊下から眺めて、シヅルが呟く。
『雨ひどいなー、心配だし、一緒に帰るよ』
『大丈夫よシヅル、あなたが私と一緒の道通ったら、遠回りじゃないの。一人で平気』
くすくすと笑うセツナに、彼は不安そうな表情で言う。
『けど……なんか、嫌な予感がしてさ』
『大丈夫だってば、もうこんな時間だし、私だってシヅルが心配だわ』
そう言って彼の背を叩くと、しぶしぶといった様子でシヅルは手を振った。
そうして別れて、そして……。
◇◇◇
(く……思えばあいつはこの世界に想い人が居るのよね、ムカツクわ)
セツナ、否、エルトリーゼは目覚めてすぐに親指の爪を噛んだ。
すましていれば美少女だというのに、悪鬼のようなその表情からはとても可憐さは窺えない。
ベッドから降りると、彼女は伸びをした。
(って、言ってもしようがないわね。私死んじゃったんだし……でも、なんとか方法がないかしら?)
この世界で、前世の記憶があるなどと他人に言うつもりはなかった。
こちらの世界は魔法であるが、文明としてはもともとの世界とほとんど変わらない、むしろ進んでいる面も多いかもしれない。
だからこそ、だ。この最悪の婚約から逃げだす道があるかもしれない。
(不可能を可能にする魔法のある世界だからこそよ! きっと何かしらあの腹黒から逃げる手立てがあるはず……! たとえば蘇るとか前世に帰るとか、そんな馬鹿みたいなことできなくてもいいから、そう、言ってしまえば仮想現実だっていいのよ!)
そう頭で考えているとノックの音が響いた。
「お嬢様、お目覚めですか?」
「ええ、入っていいわよ」
少女の声に返事をすると、黒い髪を結い上げた茶色い瞳のメイド、ロレッサ・レイトミーが入ってくる。
「今日はいつもよりお早いのですね、やはり、アヴェルス様とのご婚約がありましたし……お嬢様も嬉しいのでは?」
「う、嬉しい? 私が? どうしてそう思うの?」
ロレッサのとんでもない言葉に首を傾げると、彼女も不思議そうに首を傾げた。
「え? だってアヴェルス様ですよお嬢様! これ以上いい縁談がどこにありますか! あのかたならお嬢様のことだってきっと大切にしてくださいます!」
にっこり笑って言うロレッサに、エルトリーゼは眩暈を覚えた。
(アッ、建前のほうしか見えてないのね……純粋なロレッサ……)
こうしてコロッと騙される女性の多いこと多いこと。
あんな男の何がいいのかエルトリーゼにはさっぱり分からないが、それでもいいものはいいらしい。あの本性を知ってなおそう言えるのかは知らないが。
(ま。式までに逃げ道を見つけるなりしなきゃね。なんにしても、その日まであの男から絡んでくることはないだろうし……)
などという考えは甘かったのだと、エルトリーゼは数時間後に後悔した。
10
あなたにおすすめの小説
10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
【完結】母になります。
たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。
この子、わたしの子供なの?
旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら?
ふふっ、でも、可愛いわよね?
わたしとお友達にならない?
事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。
ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ!
だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
ざまぁはハッピーエンドのエンディング後に
ララ
恋愛
私は由緒正しい公爵家に生まれたシルビア。
幼い頃に結ばれた婚約により時期王妃になることが確定している。
だからこそ王妃教育も精一杯受け、王妃にふさわしい振る舞いと能力を身につけた。
特に婚約者である王太子は少し?いやかなり頭が足りないのだ。
余計に私が頑張らなければならない。
王妃となり国を支える。
そんな確定した未来であったはずなのにある日突然破られた。
学園にピンク色の髪を持つ少女が現れたからだ。
なんとその子は自身をヒロイン?だとか言って婚約者のいるしかも王族である王太子に馴れ馴れしく接してきた。
何度かそれを諌めるも聞く耳を持たず挙句の果てには私がいじめてくるだなんだ言って王太子に泣きついた。
なんと王太子は彼女の言葉を全て鵜呑みにして私を悪女に仕立て上げ国外追放をいい渡す。
はぁ〜、一体誰の悪知恵なんだか?
まぁいいわ。
国外追放喜んでお受けいたします。
けれどどうかお忘れにならないでくださいな?
全ての責はあなたにあると言うことを。
後悔しても知りませんわよ。
そう言い残して私は毅然とした態度で、内心ルンルンとこの国を去る。
ふふっ、これからが楽しみだわ。
皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
幼い頃から天の声が聞こえるシラク公爵の娘であるミレーヌ。
この天の声にはいろいろと助けられていた。父親の命を救ってくれたのもこの天の声。
そして、進学に向けて騎士科か魔導科を選択しなければならなくなったとき、助言をしてくれたのも天の声。
ミレーヌはこの天の声に従い、騎士科を選ぶことにした。
なぜなら、魔導科を選ぶと、皇子の婚約者という立派な役割がもれなくついてきてしまうからだ。
※完結しました。新年早々、クスっとしていただけたら幸いです。軽くお読みください。
チョイス伯爵家のお嬢さま
cyaru
恋愛
チョイス伯爵家のご令嬢には迂闊に人に言えない加護があります。
ポンタ王国はその昔、精霊に愛されし加護の国と呼ばれておりましたがそれももう昔の話。
今では普通の王国ですが、伯爵家に生まれたご令嬢は数百年ぶりに加護持ちでした。
産まれた時は誰にも気が付かなかった【営んだ相手がタグとなって確認できる】トンデモナイ加護でした。
4歳で決まった侯爵令息との婚約は苦痛ばかり。
そんな時、令嬢の言葉が引き金になって令嬢の両親である伯爵夫妻は離婚。
婚約も解消となってしまいます。
元伯爵夫人は娘を連れて実家のある領地に引きこもりました。
5年後、王太子殿下の側近となった元婚約者の侯爵令息は視察に来た伯爵領でご令嬢とと再会します。
さて・・・どうなる?
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる