カミサマは新しいチートの楽しみ方をミツケマシタ

肉球は正義

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ヤット タビニデル

ミッション1-11 これにて

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この期に及んで判明した王子とヒロインちゃんが面識を持っていたこと。
くっそ!どんだけヒロインりょく高いんだよ!

いやっ、でも王子は何か知らないが妹に興味があるようだし?不本意だが、ヒロインちゃんに心を奪われてなくてよかった!

しっかあし!!
王子が妹に手を出す、んにゃ2人っきりになるのも、なあ!


◆ ◆ ◆


逃げ損ねた私は、いっそ今回はダメなんだし王子がヒロインちゃんと話し始めないかと期待する。
でもそれじゃ幼馴染くんがっ。あ、でも結局、今のままじゃ…。
そう思うと余計に動けない。動けなかったけど。

幼馴染くんがヒロインちゃんと王子のことを交互に見ては混乱具合を増しているのを見て私は決心した。

「っ!」

ここで動かなければいけない。
私は、兄の背から出て王子の手を掴んだ。
「お、お話、聞きます。あるんです、よね?お話。わたっ私に」
緊張というより恐怖で震える声を絞り出すと、王子はパッと明るく笑い頷いた。


◆ ◆ ◆


妹の行動に驚く俺と店長。
妹は王子の手を引いて、店の裏口から出て行った。
「おっちゃん!」
気付けば俺はおっちゃんのテーブルに注文を取りに行く振りをしながら近付いていた。

おっちゃんは反応しない。

「おいってば!いいのかよ!俺はよくないよ?!妹に王子が近付くなんて!」
一応小声で言うと、おっちゃんは器用に俺がいる方の片目だけ開けて低く返してくる。
「よくない!よくはないが、変に心残りがあれば上手くいくことも、行かなくなるのだ…」


…俺と妹は未来を変えられた、らしい。
だけどカミサマの言っていた『ハッピーエンド』に、できる気がしない。


◆ ◆ ◆


「こっ、ここなら静かにお話できます」
酒場の裏口を出れば、いわゆる裏路地。しかも隣同士の店同士がゴミ捨てなんかの行き来をしやすいように広めの空間。
でも、休憩できるように椅子やテーブルなどもある。
とっても清潔で店長は「店の裏がクセェと呑む気も失せるからな!」と胸を張っていました。

とりあえず、手を離そう。
そう思って王子の手を掴んでいた手の力を緩めた時だ。
王子の方から、私の手を包むように握られた。

「あ、あの?」
「幸せです」

王子の顔は発した言葉よりも幸せそうだった。
ただ私の手を握っているだけなのに、目に涙まで溜めている。

え、なんで?どうしたらいいの?!

「貴女に会えたこと、恋をしたこと、叶わなくとも貴女が今ここにいてくれること」
「そんな大げさなっ」

王子はヒロインちゃんと知り合うまでどんな生活してたんですか?
そんで私はヤケになったのかな?!冷静になってきました!
王子なんだから、物語の始まる前から可愛い女の子たちとはたくさん出会ってきたでしょう!

ん?出会って…?

私はハッとした。

そう、王子なんだ。
この世界の王子。
ヒロインちゃんに会うまで、恋をしたことがなくて、その上愛があるのかないのか分からない結婚が待っている王子。
だからヒロインちゃんの献身さなり、優しさ、着飾らない姿に惹かれて恋をする王子。

そんな王子が、私の前にいる。
攻略対象でもある。

「けれど短すぎる…。いえ、貴女と関わるのが遅過ぎました」

王子が瞬きした拍子に溜めていた涙が落ちた。
涙は次から次に落ちて、止まらない。
王子は静かに涙を流しながら両手で握っていた私の手から、片方の手を離して私の頬に壊れ物でも触るようにしてきた。

さすがにビックリして体が跳ねる。
王子はなだめてくれているのか、そうしたいだけなのか。私の頬を撫でられる。
それはもう、そっと、優しく。

「初めてお会いした日、引き止めればよかった。護衛が貴女の兄君と懇意にしていると聞いた時、貴女に会える日があるかもなんて考えずに呼べばよかった」

懇意っていうか、押し掛けて探りを入れたりとか。こじつけて剣術を教えさせ、教えてもらって!いただけですけどーっ。

本当にカミサマの心を魅力する能力が働いている?
その力だけで、まともに会いもしていない相手はこうなっちゃうの?

「あの、涙を」

どうすればいいのか分からないので、とりあえず王子にハンカチでもと思ったけど握られた手に強めに力を込められ、首も横に振られた。

「この気持ちが恋なら、僕は、貴女のことが好きです」

…言、われてしまった。

「ですが、貴女に僕のことを知ってもらう時間が無さすぎる」

不意に王子の手が離れて、私は何が起きたのか分からなくなる。

「だからせめて、今だけ。こうさせて、頂けませんか?今だけ、僕の気持ちを聴いてくれませんか?」

その言葉で気が付いた。
私は耳を王子の胸に当てるように、抱き締められていることに。

この状態で断り辛いことをっ。

「は、はぃ。いま、だけ、なら」
「ありがとうございます」

王子の速い動悸が聴こえる。抱き締められてるから、温かさも感じる。まるで少女漫画だ。
なのに、なのにどうして。

私の心は、その先に行けないんだろう?
このまま抱きしめ返して『私も王子に会いたかった』なんて言えたら、ミッションクリアなんじゃない?
でも、違うんだよ、ね。
カミサマは両想いで幸せな終わり方を望んでる。
だから、ここで私がガチガチに緊張した身体で嘘を付いちゃダメなんだ。


◆ ◆ ◆


妹のことが心配で心配でたまらなかった俺は、同じってのとは違うけど、2人の動向が気になる店長、おっちゃんと一緒にデバガメしている。

あー、雰囲気はいい。
夜の暗がり、そこに2人を包む月の光。認めたくはないが妹を抱き締める王子。その行動を受け入れている妹。

飛び出して邪魔したいっ!!
ぐっ!と握った拳が震える。めちゃくちゃ震えてるから店長がギョッとしてるが放置だ!知るか!

おっちゃんなんて、おっちゃんの心配事の方が優先されて俺の堪えてる殺気に気付いてないぞ!
あ、いや、無視してるだけかもしんない。

あー!あー!もう離れろ!はよ断るんだ妹ぉおお!無理して王子に付き合うんじゃない!


◆ ◆ ◆


どのくらい経っただろう。月に雲がかかって少し暗闇が深くなっている。

答えなきゃ。
私からちゃんと言わなきゃ。

「王子さま」
「……はい」

抵抗するような間に感じたけど、私は両手で王子の胸を押して身体を離す。

「私は、王子さまの想いに応えられません」

王子は寂しそうに笑った。

「分かっていても、言葉にされるとこんなにも胸が痛むのですね」

私を抱き締めていた王子の手が、王子の胸を押さえる。私はこみ上げてくる複雑な感情を押し殺しながら頭を下げた。

「護衛の方を読んでまいります。失礼します」

そう告げて、私は王子の顔を見ないように裏口に身体を向けた。
そこでトーテムポールみたいな格好で盗み聞きしていた某3人を見つけてしまい、なんていうか、不覚にも笑ってしまった。


実は、そこから先の記憶があんまりない。
兄と店長の元に走って言ったような気もするし、その前にカミサマの声が聞こえた気もする。

覚えているのは、お疲れ様~♪と気の抜けたカミサマの声と優しい光。
瞬きをしたらカミサマの空間に戻ってきていた。
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