平凡なラブストーリー

H君

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8話

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歩いても歩いても有宮君と私は帰る方向は一緒で、もしかして夜だから、一応女としての私を心配して送ってくれてるのだとしても、道を聞かれない以上、帰る方向は一緒な訳で、あっという間に私のマンションの前に着いた。

「送ってくれてありがとう…」

「どういたしまして」

道は完璧で間違えずに帰って来れた。

やっぱりキミはストー…

「俺、ストーカーじゃないですからね」

考えてる事を当てられた。
アハハ…と苦笑いしか出来ない。

「それじゃ、おやすみなさい」

「おやすみなさい…」

来た道を戻る有宮君。
やっぱりわざわざここまで来てくれたんだ。

久々の人からの、男からの「おやすみなさい」の余韻に浸っていると……
ふと、気付いた。
私……また何か忘れてる……

あぁ!?合コンの会費!!有宮君に払わせたままだ!

「あ……有宮君!合コンのお金!」

私の声にゆっくり首を振り返る有宮君は、フッと笑っていた。

「相田さん、声デカ過ぎ。
近所迷惑だし今日私、合コン行きましたって公表してるようなものですよ?」

クスクス笑いながら戻ってきてくれる。もう遅いけれど、私は慌てて口を手で隠す。

「ゴメン、お金忘れてた。いくら?」

「忘れました」

っと、これまた笑顔で返してくる。

「そういうわけには……思い出して!」

ボソボソ声で喋ると聞こえにくいのか、有宮君が顔を近づけてきた。

ち…近すぎじゃない?
鼻と鼻がくっつきそう!!
変な汗が出てきて鼻がてかってきた!!
私1人だけアワアワして、有宮君は考え込んで……

「じゃあ、今度メシ奢ってください」

目の前に最高の笑顔でささやかれた。

「メシって…お昼ご飯?」

なんて色気のない返事。

「プッ、違いますよ、夕ご飯の方。相田さん、お酒苦手でしょ?今日の仕切り直し。上手い飯屋、行きましょ2人で」

これは誘われているのでしょうか……デートに。

「相田さんって本当、貸し借り気にする人なんですねー。そこは俺と似てないかな?」

そんな薄情な事を言いながら首を傾けて語りかけてくる。
うぅ……狡いくらい可愛い……
有宮君はコートのポケットをガサガサさせて、スマホをとりだした。

「アドレス交換しましょ?
待ち合わせとか時間とかスマホでした方がいいですよね?
相田さんが良ければショップまで行きますけど」

「い……いい!いい!スマホで!」

有宮君とご飯だなんて悠ちゃんに聞かれたら、根こそぎ聞かれるに違いない。
そして私はこの日、約8ヶ月振りに男のアドレスを新規登録した。

あの合コンから翌朝。
昨日の夜の事を思い出して、なかなか寝付けなかった。
有宮君はアドレス交換したらすぐに帰ってしまって
本当に下心なかったんだーってちょっと残念に思ったりして

バイバイしてからもドキドキだけはずっと止まらなかった。
だって、おさまった頃に「ご飯行ける日楽しみにしてます。おやすみなさい」って改めてメールが送られてきて
完全に寝不足で肌荒れとか酷いはずなのに、いつもより潤ってる感じがする。
昨日、若い子達と過ごしてパワーを分けてもらったのかな?

ていうか、浮き足だってる感じ。

昨日のご飯の約束が
メールがこんなにも嬉しく思うなんて
認めたくないけど、ちょっと惹かれてしまっている自分がいる。
これが恋に発展するのかどうかわからないけど

いつまでも思いにふけっているわけにはいかないので、クローゼットを開けて通勤の準備をする。
私の働いてるショップは私服勤務で、エプロンだけ着るスタイル
しゃがんだり動いたりする事が多いから基本パンツスタイルが多い。

悠ちゃんは流行りをバッチリおさえてるからスカートとか履いたりするけど、私はもっぱらパンツ派。
いつもなら迷わずデニムを履くんだけど、向かいのショップに有宮君がいると思うと着るものに悩んでしまっている…

…なんでこんな乙女になってんだぁ~

結局、スキニーデニムを履いていく事に決めた。
有宮君が昨日の夜の服装を気に入ってくれてたから
トップスもあえてピタッとしたニットにした。
ビジューの着いた大人っぽいニット

意識してるって思われるかなぁ…
まぁ、いいや、
考えてる時間がもったいない!
社会人の朝は忙しいのだ。
昨日、悠ちゃんから借りたネックレスも忘れ
ず鞄に入れる?

あっ!そういえば昨日の夜、悠ちゃんに先に帰る連絡するの忘れてた!!
悠ちゃんからも、連絡なかったし…
もしかして、もしかしなくても誤解されてる感じ?

今日の早番は悠ちゃん…
しかも、店長は連休消化中
絶対に色々聞かれるなぁ
私は色んな覚悟を決めて、出勤する事にした。
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