平凡なラブストーリー

H君

文字の大きさ
8 / 10

7話

しおりを挟む
そしてまた繋がれる手。嬉しくてにやけてしまった。
有宮君は「相田さん、お酒入ってるから転んじゃいけないから」て言ってくれたけど、それでも嬉しいと思う私は久々に男の人に優しくされて舞い上がってるのだろうか?

そしていつも乗っている電車に乗り込む。
「じゃあ……」と言おうとしたら、「俺もこの電車」って言われて、もうしばらく一緒に過ごす事になった。

2人で並んで座った時、気恥ずかしくて会話に困っていると、ポツリポツリと有宮君がニートになった理由を話し出してくれた。

「すっごい恥ずかしい話なんだけど…俺、将来なりたいものは小説家なんです」

「小説書くの?凄い!」

昔から私は椅子に座って机に向かっているより、外で走ったりする事の方が実力を発揮出来るタイプだった。
だから、体育以外の成績はいつも散々。
机に向かってペンを持っていられる人を尊敬してた。

「凄いって言われても、まだデビューもしてないし全然何の成果も出してないだだのド素人ですよ。
でも、学生の頃から俺は小説家になるもんなんだって思ってて、ロクに就職活動もしないで……」

えーっと……あらら。先が読めて来たぞ。

「家も一人暮らしの家を親に用意してもらって、俺はここで小説を書くのが仕事なんだって思い込んでて。本当、思い出すだけでも恥ずかしい……」

えっ?!ちょっと待って!
ニートなのに親に家を用意してもらった?
君、お金持ちの子?
つーか家賃とか生活費は?

なんて疑問だらけだったけど、有宮君がせっかく身の上話をしてくれてるので、おとなしく話を聞く事にした。

「でも、ある日気づいた事があって。
人間って社会に出て人間関係に揉まれたり、どんな仕事でもやってみなきゃ大変さや楽しさってわかんなくて。
何でも経験しなきゃ、人間ダメなんだって。
特に文字にして相手に伝える小説家って職業は特に色んな事を知ってなくちゃいけないから、俺全然駄目だーって。
それで今のショップに面接受けて受かって晴れてニート脱出です」

かけているメガネを人差し指で、クイッと持ち上げて優しく笑う。
言っている事は当たり前の事なのに、絵になるのが悔しい。

「そっかぁー小説家かー、夢叶うといいね」

「まぁ、ゆっくり頑張りますよ。小説家に定年はないんで」

「……60過ぎてもフリーターでいるつもり?」

苦笑いしながらつい言ってしまった。
だって彼の将来不安すぎる

「んーそんな先の事考えてないですねぇ。30までにデビュー出来たらいいかなぁ?」

でたな、悪いトコロ。
私も人の事言えないけど、物事を深く考えないのがマイペースな性格の悪いトコロだ 。

「キツイこと言うかもしれないけど、ご両親はいつまでもいるわけではないよ?
今はまだ仕送りとかしてもらってて、生活出来てるかもしれないけどお父さんだって定年後は年金生活できっとラクなわけではないのだから、ちゃんと安心させてあげないと。
夢を追うことは素晴らしい事だけど期限を決めてちゃんとしなくちゃ。
それが、育ててくれたご両親に対して……」

「相田さん、降りる駅ですよ」

「えっ?!」

車内アナウンスを聞くと確かに降りる駅。私は慌てて鞄を持ち、ホームに降りる。
んっ?何で有宮君、私の降りる駅知ってるの?
それに話の途中……

「あのまま話ししてたら乗り過ごしてましたね」

「えっ!」

隣には有宮君。

「俺もこの駅」

あっ……あっー!!!そうか!!
私と最寄り駅一緒だったから私の事知ってたのね?!

「あ、あり……有宮君!あなたが私の事知ってたのは、この駅で何回か私の事見かけたことあるから?!」

改札に繋がる下りの階段で、キョトンとした顔で私を見つめる有宮君。

私は横のエスカレーターに乗り、降りて行く。

彼は止まっているからそのまますれ違う。

「まっ、そういう事にしておいてくれていいですよ」

すれ違いざまにそう囁かれた。

えっ?
違うの?

わけがわからなく呆然としていたら有宮君が降りてきた。

「ねぇ、今のはどういう……」

「あぁ、ちなみに言っておきますけど、いまは親から何の援助も受けてないですよ。
今のショップ決まる前は日雇いバイトとかして、生活費やら家賃やら払ってきましたから。
このバイトも決まったから、今まで親がだしてくれたお金も徐々に返して行くつもりで…」

あっそうなんだっと納得して聞いてると……

「あの人達がお金受け取ってくれるとは思わないけど…」と、有宮君がボソッと言ったのが聞こえた

やっぱりキミ、お金持ちの子か…

ていうか、さっきから話遮られ過ぎて聞きたい事は聞けずじまい。
モヤモヤしていたら、改札を先に通った有宮君が笑顔で「帰ろう」なんて手をのばしてきてくれたものだから。
握られた手の温かさにヤられて、私はもうこの日はどうでも良くなってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

最高魔導師の重すぎる愛の結末

甘寧
恋愛
私、ステフィ・フェルスターの仕事は街の中央にある魔術協会の事務員。 いつもの様に出勤すると、私の席がなかった。 呆然とする私に上司であるジンドルフに尋ねると私は昇進し自分の直属の部下になったと言う。 このジンドルフと言う男は、結婚したい男不動のNO.1。 銀色の長髪を後ろに縛り、黒のローブを纏ったその男は微笑むだけで女性を虜にするほど色気がある。 ジンドルフに会いたいが為に、用もないのに魔術協会に来る女性多数。 でも、皆は気づいて無いみたいだけど、あの男、なんか闇を秘めている気がする…… その感は残念ならが当たることになる。 何十年にも渡りストーカーしていた最高魔導師と捕まってしまった可哀想な部下のお話。

処理中です...