聖女は王子たちを完全スルーして、呪われ大公に強引求婚します!

葵 すみれ

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32.節度ある付き合いを1

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「というわけで、マテウスさま。ここはやはり、二人の愛を確かめ合うべきですわ」

 シルヴィアは真剣な眼差しで言う。
 それに対して、マテウスは少し呆れたような表情を浮かべた。

「あのな……ここ最近のしおらしさはどこにいったんだよ」

「あら、いけませんか?」

 シルヴィアが首を傾げると、マテウスは苦笑する。

「いや……こっちのほうが、あんたらしいけどさあ……」

「だって、切なくなるのも、苦しくなるのも、わたくしがマテウスさまを好きだからこそだとわかったのですもの。だからもう、迷うことなんてありませんわ」

 シルヴィアは胸を張って答える。

「それに、わたくしたちは正式な婚約者同士なのですわよ。ならば、何の問題があるでしょうか?」

「あるんだよ」

 マテウスは苦笑して、シルヴィアの額を指でつついた。

「はうっ……な、何ですの?」

 額を押さえながらシルヴィアが尋ねると、マテウスは肩をすくめた。

「婚約なんて、解消できるんだよ。特に、こんな王命であっさり決まった婚約、またあっさり解消されてもおかしくねえ」

 マテウスの言葉に、シルヴィアは愕然とする。
 だが、王女ベアトリクスがこの婚約を取り持ってくれたときのことを思い出す。
 王子たちの危機感を煽るため、マテウスとの婚約を進めたことになっていたはずだ。しかも、婚約ならば後で解消できるので、一時的なことだとごまかせると言っていた。
 つまり、この婚約はいずれ解消されることを前提で結ばれたものということになる。

「そんな……わたくし、国王陛下をこの手にかけなくてはなりませんの……?」

「いや、あんたの中で何が起こったんだよ!?」

 マテウスは慌てた様子でシルヴィアの肩を掴む。

「だって、陛下がこの婚約を解消させるというのなら、それしか方法がないではありませんか」

 シルヴィアは涙を浮かべて訴えるが、マテウスは大きくため息をつくだけだった。

「あのなあ……そんなことしなくても、ベアトリクス王女と手を組んだ上で担ぎ上げて女王にするとか、やりようはいくらでもあるぞ?」

「まあ、そういうものなのですか……?」

 シルヴィアが半信半疑の様子で言うと、マテウスは苦笑する。

「ああ。あの王女、かなりのやり手みたいだぞ。俺にも態度を変えず、にこやかに探りを入れてくるくらいだし。というか……王位狙ってるぞ、あれは」

 マテウスは確信を持った口調で言う。
 それを聞いて、シルヴィアは驚いたような表情を浮かべた。

「まあ……でも、次期国王は二人の王子殿下のどちらかではありませんの?」

「王位継承権は男子優先だからな。だが、女子にも継承権はある。それに、正妃の子はあの王女だけだ。ならば、彼女が王位を継ぐ可能性は十分にある」

「そうなのですね……」

 シルヴィアは、友達になろうと言ってきたときのベアトリクスを思い出す。
 打算が感じられたが、だからこそ互いに協力し合えると思ったものだ。

「俺としても、あの王女が王位に就いたほうが都合がいい。女王なら、聖女を娶るなんてできねえからな」

 マテウスはそう言って肩をすくめた。
 だが、すぐに真剣な眼差しでシルヴィアを見る。
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