婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った

葵 すみれ

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04.惚れ薬の効果

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 しかし、ジェレミーは花びらを眺めながら、ふっと口元を緩めた。

「……そうか。俺が甘いお茶を好きだって、覚えていてくれたんだな」

 ジェレミーはそう言って、砂糖菓子入りのお茶を飲む。

「美味いよ」

 そう言って笑った顔に、ポリーヌの胸が高鳴った。

「ありがとうございます……」

 ポリーヌは、どうにか声を絞り出した。
 本当に惚れ薬は効果があるのだろうか。
 ポリーヌは、ジェレミーをそっと盗み見る。

「……」

 ジェレミーは、じっとポリーヌを見つめていた。
 視線が合うと、彼は照れたように笑う。そして深呼吸をすると、ポリーヌの目を見ながら口を開く。

「ポリーヌ嬢、きみはとても可愛いな」

「えっ?」

 思いがけない言葉に、ポリーヌは赤面した。
 まさかジェレミーにそんなことを言われるなんて夢にも思わなかった。

「こんな可愛い婚約者と結婚できるなんて、俺は幸せ者だ」

 そう言って、ジェレミーは微笑んだ。その笑顔にまた胸が高鳴る。
 ジェレミーは、ゆっくりと立ち上がった。そして、ポリーヌの前までやって来ると、彼女の手を取って跪いた。

「え……?」

 呆然とするポリーヌを真剣な目で見つめると、ジェレミーは口を開いた。

「ポリーヌ嬢、俺はきみが好きだ」

「……っ!」

 突然の言葉に、ポリーヌは息を呑んだ。
 まさか、本当に惚れ薬が効くとは思わなかった。

「ジェレミーさま……」

 ポリーヌは動揺して俯いた。心臓がうるさいくらいに鳴っている。

「すまない。こんなことを急に言って驚かせたと思う。だが、本気なんだ」

 ジェレミーはそう言うと、ポリーヌの手をぎゅっと握った。

「俺たちは政略結婚だ。互いに愛情を持つことは難しいかもしれない。それでも、俺はきみと幸せになりたいと思っている」

「ジェレミーさま……」

 ポリーヌは顔を上げる。彼の真摯なまなざしに、胸が高鳴った。

「きみは俺をどう思ってる?」

「……わ、私は……その……」

 ポリーヌは口ごもった。まさか告白されるなんて思っていなかったのだ。

「……っ」

 顔が熱い。きっと赤くなっているだろうと思いながら、ポリーヌは口を開いた。

「わ、私も……ジェレミーさまをお慕いしております」

 勇気を出してそう告げると、ジェレミーは驚いた顔をした。しかし、すぐに笑顔になる。

「そうか、良かった……」

 そう言って、ジェレミーは握ったままのポリーヌの手に口づけた。

「きゃ……」

 ポリーヌは驚いて手を引っ込めようとするが、ジェレミーにしっかりと掴まれていて抜け出せない。
 そのまま彼は、指先にも口づける。

「あ……っ」

 思わず声が出た。恥ずかしさで顔が熱くなる。
 すると、ジェレミーは立ち上がって、今度は正面からポリーヌの体を抱きしめた。

「……っ!」

 突然のことに驚いたものの、ポリーヌもおずおずと彼の背中に腕を回す。
 しばらくそうしていたが、やがてゆっくりと体を離した。そして、顔を見合わせて互いに照れくさそうに笑う。

「嬉しいよ、ポリーヌ嬢」

「……私もです」

 ポリーヌは微笑んだ。ジェレミーも嬉しそうに笑う。
 こうして、二人は恋人同士になったのだった。
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