自分を陥れようとする妹を利用したら、何故か王弟殿下に溺愛されました

葵 すみれ

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29.墓穴を掘る天才

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 そして、学園祭の最終日となった。
 レイチェルはカーティスから贈られた髪飾りを髪に着け、ダンスパーティー用のドレスに袖を通す。

「これで大丈夫かしら?」

 鏡を見ながら、レイチェルは自分の姿を確認する。
 ドレスは淡い紫色で、腰から裾にかけて段々に色が濃くなっていく。そのグラデーションの色合いは、まるで夜空のような美しさだった。
 胸元や袖、裾には小さな宝石が散りばめられており、動くたびにキラキラと輝きを放つ。
 ドレス自体はシンプルなデザインだが、とても華やかに見える仕上がりになっていた。
 髪飾りもドレスと調和していて、よく似合っている。

「とてもお綺麗ですわ、お嬢さま」

 着替えを手伝ってくれた侍女が、感心したように息をつく。

「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ」

 レイチェルは侍女に向かって微笑む。そして姿見の前でくるりと回ってみた。ドレスの裾がふわりと広がり、花びらのように揺れる。

「本当によくお似合いですわ。まるで夜空を纏ったような美しさです」

 侍女はうっとりとした表情で褒め称える。

「ふふ、ありがとう」

 レイチェルは頬を染めて微笑んだ。
 そして、そっと髪飾りに触れる。
 カーティスが贈ってくれたものだ。この髪飾りを見るたびに、彼への愛しさが募っていく。
 本当は今日のドレス姿をカーティスに見てもらいたかった。
 だが、それはできない。

「でも、この髪飾りがあるもの」

 レイチェルは自分に言い聞かせるように呟く。彼の色を身に着けているというだけで、幸せな気分になった。
 その時、扉をノックする音が聞こえてきた。

「はい」

 レイチェルが返事をすると、扉が開く。
 そこに立っていたのは兄ジェイクだった。

「レイチェル、準備はできたか?」

「ええ、今終わったところですわ」

 レイチェルが答えると、ジェイクはじっとレイチェルを見た。

「とてもよく似合っているよ。まるで夜空をその身に纏っているようだ」

「ふふ、ありがとう。お兄さま」

 レイチェルは微笑むと、兄に歩み寄った。そして彼の手を取ると、ぎゅっと握りしめる。

「お兄さま、エスコートをお願いしてもよろしいかしら?」

「もちろんだよ。さあ、行こうか」

 ジェイクはレイチェルの手を引いて歩き出す。そして二人は会場へと向かった。
 会場に入ると、すでに多くの生徒や来場者が集まっていた。
 皆、思い思いに着飾り、談笑している。
 今日で学園祭が終わりということもあってか、皆名残惜しそうな様子だ。

「やはりレイチェルさまは、王太子殿下とご一緒ではないのね……」

「あんな浮気者、もうお忘れになったほうがよろしくてよ」

「王家の血筋というのなら、もっとふさわしい方がいらっしゃいますもの」

「だが、浮気されてしまうレイチェル嬢にも問題が……」

 周囲ではひそひそと噂話が聞こえてくる。
 おおむねレイチェルに同情的ではあるが、中には心ない言葉もあるようだ。

「気にするな。よくあることだ」

 ジェイクはレイチェルにだけ聞こえる声で囁く。

「ええ、わかっていますわ。お兄さま」

 レイチェルも小声で返し、微笑んだ。
 勝手なことを言う者はどこにでもいる。しかし、全体的にグリフィンの王としての資質を疑う方向に話が進んでおり、レイチェルにとってはありがたい流れだった。
 この学園祭が終わったら、どうにか婚約を解消できるように動かねばならない。

 そのための方法がまだ思い浮かばないが、まずはダンスパーティーに集中するべきだろう。
 無様な姿を晒してしまっては、付け入る隙を自ら与えることになる。
 レイチェルは気を引き締めて、パーティーの開始を待つことにした。
 やがて生徒会の役員が壇上に上がり、挨拶を始める。

「皆さん、本日は学園祭最終日です。最後まで楽しんで……」

「ちょっと待ってくれ!」

 役員の挨拶の途中で、誰かが声を上げた。
 ざわりと会場がどよめく中、その声の主は生徒会の役員を押し退けて前に出てきた。

「僕からこの場を借りて重大な発表がある!」

 そう言って壇上に現れたのは、グリフィンだった。その隣には、ピンク色のドレスに身を包んだケイティがいる。
 会場にいる生徒たちの視線が、一気に二人に向けられた。

「王太子殿下?」

「ケイティ嬢? いったい何が……」

「どうしたのかしら……」

 突然の事態に生徒たちは戸惑いの声を上げている。

「お、王太子殿下!  壇上に勝手に上がられては困ります!」

 生徒会の役員たちが慌ててグリフィンを制止しようとするが、彼はそれを振り切るようにして叫んだ。

「うるさい! 僕は大事な話があるんだ! 邪魔をするな!」

 グリフィンは役員たちに向かって叫ぶ。その剣幕に、彼らは思わず怯んでしまった。

「いや……しかし……」

 役員たちは戸惑った表情で顔を見合わせる。彼らは王太子の命令に従うべきかどうか迷っているようだった。

「皆、聞いてくれ! 僕はこの場を借りて宣言する!」

 グリフィンはそんな生徒会の役員たちを無視して、声を張り上げる。
 彼の隣ではケイティが、うっとりとした表情を浮かべていた。
 会場はしんと静まり返り、皆の視線はグリフィンとケイティに集まっている。

 レイチェルも唖然としながら二人を見つめていた。
 一体、何を言うつもりなのか。
 まさか婚約破棄を宣言するのだろうかという考えが浮かぶが、それはないだろうとレイチェルは思い直す。

 小説でもグリフィンは婚約を破棄していたが、もっと先の話だった。それも少人数の関係者のみの集まりだったはずだ。
 学園のダンスパーティーという、大勢の無関係な生徒たちが聞いている場で宣言するはずがない。
 そう思っていると、グリフィンはケイティの肩を抱き寄せて高らかに告げた。

「僕は真実の愛を見つけた! よって、レイチェル・リグスーンとの婚約を破棄し、このケイティ・リグスーンと婚約することを宣言する!」

 会場は騒然となった。誰もが予想していなかった事態に、驚きの声を上げている。
 当然の反応だろう。学園祭のダンスパーティーで発表するような内容ではない。
 しかも間違いなく、グリフィンの独断によるものだ。王家と公爵家の婚約を勝手に破棄するなど前代未聞である。

「え……」

 レイチェルも思わず声を上げてしまった。
 まさか本当にこんな場で婚約破棄と、新たな婚約を発表するとは思いもしなかったのだ。
 さらに、二人は壇上で口づけを交わし始めた。

「……ここまで墓穴を掘る天才だったのね」

 呆然としたレイチェルの呟きは、人々の悲鳴によってかき消された。
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