自分を陥れようとする妹を利用したら、何故か王弟殿下に溺愛されました

葵 すみれ

文字の大きさ
32 / 44

32.手放せない幸福

 そして、婚約が解消されてから数日後。
 リグスーン公爵は療養という名目で、マイラと共に領地へ旅立っていった。謹慎となったケイティも一緒だ。
 これにより、リグスーン公爵家は事実上、ジェイクが継ぐことになる。

 グリフィンの処分はまだ決まっていない。
 だが、国王夫妻の甘さを考えれば、彼が廃嫡になることはないだろう。

 レイチェルは騒ぎのほとぼりが冷めるまでの間、しばらく学園を休んでいた。
 その間、レイチェルの元には毎日のようにカーティスから手紙と花束が届けられている。

「カーティスさまはお忙しいのに、私のために時間を割いてくださっているのね」

 レイチェルはカーティスの気遣いに、心が温かくなるのを感じた。
 そして、彼からの手紙を読み返す度に、胸が高鳴っていく。

「今日もお手紙をくださるかしら……。カーティスさまに会いたい……」

 庭でお茶を飲みながら、レイチェルはカーティスからの手紙を心待ちにする。
 すると、その時、突然背後から声がかかった。

「お手紙をお持ちいたしました」

 その声に、レイチェルはびくりと肩を震わせる。
 聞き覚えのある低い声だ。
 だが、レイチェルは振り返ることができなかった。

「お返事をいただけますでしょうか」

 再び声をかけられ、レイチェルはおそるおそる振り返った。するとそこには、予想どおりの人物が立っていた。

「カーティス……さま……」

 レイチェルは呆然として呟く。

「やっと会えたな、レイチェル」

 カーティスは優しく微笑むと、レイチェルに歩み寄る。そして、大輪の薔薇の花束を差し出した。

「会いたかった」

 カーティスは熱のこもった声で告げると、花束ごとレイチェルを抱きしめる。
 突然のことに、レイチェルは混乱した。だが、彼の温もりを感じると、胸が高鳴るのを感じた。

「私も……お会いしたかったですわ……」

 レイチェルはカーティスの胸に顔を埋めると、そっと背中に手を回した。そしてぎゅっと抱きしめると、彼の胸に頬ずりをする。
 薔薇の強く甘い香りが、二人を包む。

「ああ……可愛いな」

 カーティスはそう囁くと、レイチェルの髪を優しく撫でる。
 その心地よさに、レイチェルはうっとりと目を閉じた。

「ずっとこうしてきみを抱きしめたかった」

 カーティスの囁きに、レイチェルの鼓動が速まる。そして、彼の背中に回す手に力を込めた。

「私もです……カーティスさま……」

 レイチェルは潤んだ瞳でカーティスを見上げる。彼の紫色の瞳に自分の姿が映っているのが見えた。

「レイチェル……」

 カーティスはゆっくりと顔を近づけてくる。そして、二人は口づけを交わした。
 唇が触れ合うと、そこから甘い感覚が広がっていく。それと同時に、幸福感に満たされていくのを感じた。

「夢みたいだ……」

 カーティスはそう呟くと、再びレイチェルの唇を奪う。今度は先ほどよりも強く、長く口づけを交わした。

「ん……ふぅ……」

 レイチェルはカーティスの情熱的な口づけに酔いしれる。
 カーティスはレイチェルの後頭部に手を回すと、さらに強く抱きしめた。

「好きだ……レイチェル……愛してる……」

 カーティスは愛の言葉を囁きながら、何度も口づけを繰り返す。その度に、レイチェルの心は幸福感で満たされていった。
 やがて、カーティスはゆっくりとレイチェルから離れた。

「すまない……嬉しくてつい」

 カーティスは恥ずかしそうに頭を掻く。
 その仕草が可愛らしくて、レイチェルは思わず笑みを零した。

「ふふ……私も嬉しいですわ」

 レイチェルが微笑むと、カーティスはほっとしたような表情を浮かべる。
 そして二人は手を繋いだまま見つめ合った。

「レイチェル……以前、私の妃になってくれると言ったね」

 カーティスは真剣な表情で尋ねる。
 レイチェルはその真剣な眼差しに息をのんだ。心臓が激しく脈打っているのがわかる。

「ええ……確かに申し上げましたわ」

 レイチェルが答えると、カーティスは真剣な眼差しのまま続けた。

「あの時、きみは義務感からそう答えてくれたのかもしれない。だが、今は違うと思ってもいいだろうか。きみも望んでくれていると」

 カーティスの真摯な問いかけに、レイチェルは胸が熱くなるのを感じた。
 そして、彼の手をぎゅっと握り返す。

「ええ……もちろんですわ。私も……カーティスさまの妃になりたいです……」

 レイチェルはそう答えると、カーティスの胸に飛び込んだ。
 彼の腕が優しく包み込むように抱きしめる。
 その温もりを感じて、レイチェルの心は喜びで満たされた。

「ありがとう……本当に嬉しいよ」

 カーティスは幸せそうに微笑むと、もう一度強く抱きしめてくれた。
 それがまた嬉しくてたまらない気持ちになる。

「私もです……カーティスさま」

 レイチェルはカーティスの背中に手を回すと、ぎゅっと抱きしめた。
 この温もりをずっと求めていたのだと実感する。

 ところが、レイチェルの頭にふと疑問が浮かんだ。
 カーティスは小説では登場せず、世界が修正した影響で現れた存在だろう。
 彼の気持ちも、自分の気持ちも、世界に植え付けられたものに過ぎないのではないか。そうは思いながらも、レイチェルは己の気持ちに嘘はつけなかった。

 だが、結ばれてしまった後は、どうなるのだろうか。

 正式な夫婦となってしまえば、あとは愛情がなくても結界は維持できる。
 この感情が植え付けられたものならば、取り去られるのもあっという間になるのではないか。
 カーティスの愛に満ちた眼差しが、冷たく変わってしまうかもしれない。
 そのことを考えると、レイチェルの心は不安と悲しみで塗りつぶされた。

「どうかしたか?」

 急に黙り込んだレイチェルに、カーティスが心配そうに声をかける。

「いえ……なんでもありませんわ」

 レイチェルは慌ててごまかすと、カーティスの胸に顔を埋めた。そして彼の背中に回した手に力を込める。
 もう少しだけこのままでいたかった。この幸せを手放したくなかったのだ。
 そんな気持ちを込めて、ぎゅっと抱きしめ続ける。
 するとカーティスもまた同じように強く抱きしめてくれた。
 それがとても幸福だった。
感想 41

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

ほーみ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

婚約破棄だ!と言われ実家に帰ったら、最推しに餌付けされます

黒猫かの
恋愛
王国の第一王子クレイスから、衆人環視の中 で婚約破棄を言い渡されたローゼン侯爵令嬢ノエル。

異世界に逃げたシングルマザー経理は、定時退勤だけは譲れない

木風
恋愛
DV夫から一歳の娘を抱えて逃げた鈴木優子は、光に飲まれて異世界の王宮へ転移してしまう。 生きるために差し出した武器は簿記と経理経験――崩壊寸前の王宮会計を『複式簿記』で立て直すことに。 ただし譲れない条件はひとつ、「午後五時の定時退勤」。娘の迎えが最優先だからだ。 その姿勢に、なぜか若き国王ヴィクトルが毎日経理室へ通い始めて――仕事と子育ての先に、家族の形が芽吹いていく。

断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について

夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。 ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。 しかし、断罪劇は予想外の展開へ。

今更ですか?結構です。

みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。 エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。 え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。 相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!