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33.婚約
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その後、レイチェルはカーティスと共に王城へ足を運んだ。
国王から婚約の許可を得るためである。
謁見の間に入ると、そこには国王夫妻の姿があった。貴族たちもずらりと並んでいるが、王太子グリフィンは不在だ。
国王夫妻はレイチェルの姿を見て、わずかに目を見開いた。
「カーティス、なぜレイチェル嬢を連れてきた?」
国王は厳しい表情でカーティスに問いかける。その横では王妃も不安そうな表情で彼を見つめていた。
しかし、レイチェルとカーティスが互いの色を纏った姿をしていることに気づき、二人は驚きの表情を浮かべる。
「陛下に許可をいただきたく参りました」
カーティスが口を開いた瞬間、王妃が悲鳴じみた声を上げた。
「レイチェル! グリフィンを裏切るつもり!?」
王妃は信じられないとばかりに、レイチェルに非難の眼差しを向ける。
だが、レイチェルは平然とその視線を受け止めた。
「恐れながら王妃陛下、婚約破棄を宣言したのはグリフィン殿下でございますわ。裏切ったのは殿下のほうですし、すでに婚約は正式に解消されております」
レイチェルが毅然とした態度で答えると、王妃はますます動揺した様子を見せた。
「でも……だからといって、カーティスとなんて……。あなたはグリフィンとの婚約を望んでいたはずでしょう? あの子のことを愛しているのよね?」
王妃は信じられないといった様子で、震える声で問いかける。
しかしレイチェルは首を横に振った。
「いいえ、私は四大公爵家の娘として、殿下との婚約が定められただけに過ぎません。そこに私の意思は存在しませんわ」
レイチェルがきっぱりと告げると、王妃は愕然とした表情を浮かべた。
「それでも私は、婚約者としての義務を精いっぱい果たそうと努力してきました。ですが、殿下はそれを拒絶なさったのです。そして一方的に婚約を破棄し、私など側妃でもお断りだとおっしゃいましたわ」
さらにレイチェルが淡々と事実を述べていくと、王妃の顔はみるみるうちに青ざめていった。
「そんな……」
王位継承権第二位であるカーティスが、四大公爵家の直系であるレイチェルを娶れば、次期国王はカーティスでほぼ確定する。
問題を起こし、資質が疑われているグリフィンでは、とても王位は継げないだろう。
それがわかるだけに、王妃はショックを受けているようだった。
王妃が呆然としていると、カーティスが一歩前に出た。
「陛下、私はレイチェルを心から愛しております。どうか婚約の許しをいただきたく存じます」
カーティスがそう言うと、国王は深いため息をついた。
そして、険しい表情で口を開く。
「カーティス、お前の気持ちはよくわかった。しかし……レイチェル嬢は納得しているのだろうか?」
まるで最後の望みに賭けるような国王の問いかけだった。
しかし、レイチェルはその期待を裏切るように、カーティスに寄り添う。そして彼を見上げると、にっこりと微笑んでみせた。
「はい、陛下。私はカーティスさまと共に歩んでいく覚悟です」
レイチェルがはっきりと告げると、国王は苦々しい表情を浮かべた。
そして沈黙が流れる。
「おお、これは素晴らしい! 正統な王家の血筋であるカーティス殿下と、四大公爵家の直系であるレイチェル嬢が結ばれるとは、なんとめでたいことか!」
沈黙を破るように声を上げたのは、オウムト公爵だった。
その言葉に、国王の顔色が変わる。
『正統な王家の血筋』は、国王の前では禁句だった。王家の色とされる紫色の瞳ではなく、青紫色の瞳を持つ国王は、正統な王家の血を引いているとは言えない。
それは王太子グリフィンも同じだ。彼はさらに遠ざかり、青色の瞳である。
「オウムト公、口が過ぎよう」
国王が牽制するように言うと、オウムト公爵は不敵な笑みを浮かべた。
「陛下、私は何も間違ったことは言っておりません。あのような場で自ら婚約を破棄するような者より、カーティス殿下が次期国王となるべきではありませんか。そして、正統な四大公爵家の直系であるレイチェル嬢こそが、未来の王妃にふさわしい」
オウムト公爵はそう言うと、満足げに微笑んだ。
国王は険しい表情でオウムト公爵を見据えるが、何も言い返せない様子だった。
「オウムト家は、カーティス殿下を支持いたしますぞ」
オウムト公爵は高らかに宣言する。
「我がリグスーン家も、カーティス殿下を支持いたします」
すると、すかさずジェイクが声を上げた。
「スーノン家も、だ」
さらにスーノン公爵が、それに続く。
彼の姿を初めて見る王妃は、驚いたように目を見開いた。
「スーノン公爵が、なぜここに……?」
「この国の未来を憂えてのことでございますよ、王妃陛下」
スーノン公爵はそう言うと、優雅に一礼した。
「そんな……あり得ないわ。なんでこんなことになっているの?」
王妃は混乱しながら叫ぶと、周囲を見回した。しかし、誰も彼女の疑問に答えようとはしない。
四大公爵家のうち、三つの支持がカーティスに集まったのだ。
それを見た他の貴族たちも、追従するように声を上げ始める。
「カーティス殿下こそが次期国王にふさわしい!」
「私もカーティス殿下を支持します!」
「カーティス殿下とレイチェル嬢はとてもお似合いだ!」
「カーティス殿下、万歳!」
謁見の間に、カーティスを支持する声が響き渡る。
次々と上がる声に、王妃は絶望の表情を浮かべる。そして力なく玉座に座り込んだ。
「陛下……私はどうすれば……」
王妃が目に涙を浮かべて訴えると、国王は深いため息をついた。
そして、意を決したように口を開く。
「わかった……二人の婚約を認めよう」
国王が苦々しい表情で告げると、謁見の間は歓喜の声に包まれた。
「ありがとうございます……陛下」
カーティスは満面の笑みを浮かべると、レイチェルの手を取って跪く。そして手の甲に口付けた。
「これで私たちは正式な婚約者だ。これから末永くよろしく頼む」
カーティスはそう言うと、レイチェルの手を握りしめる。
「はい、カーティスさま。こちらこそよろしくお願いします」
レイチェルも彼の手を握り返し、微笑んでみせた。
そして二人の様子を見守っていた国王夫妻はうな垂れたのだった。
国王から婚約の許可を得るためである。
謁見の間に入ると、そこには国王夫妻の姿があった。貴族たちもずらりと並んでいるが、王太子グリフィンは不在だ。
国王夫妻はレイチェルの姿を見て、わずかに目を見開いた。
「カーティス、なぜレイチェル嬢を連れてきた?」
国王は厳しい表情でカーティスに問いかける。その横では王妃も不安そうな表情で彼を見つめていた。
しかし、レイチェルとカーティスが互いの色を纏った姿をしていることに気づき、二人は驚きの表情を浮かべる。
「陛下に許可をいただきたく参りました」
カーティスが口を開いた瞬間、王妃が悲鳴じみた声を上げた。
「レイチェル! グリフィンを裏切るつもり!?」
王妃は信じられないとばかりに、レイチェルに非難の眼差しを向ける。
だが、レイチェルは平然とその視線を受け止めた。
「恐れながら王妃陛下、婚約破棄を宣言したのはグリフィン殿下でございますわ。裏切ったのは殿下のほうですし、すでに婚約は正式に解消されております」
レイチェルが毅然とした態度で答えると、王妃はますます動揺した様子を見せた。
「でも……だからといって、カーティスとなんて……。あなたはグリフィンとの婚約を望んでいたはずでしょう? あの子のことを愛しているのよね?」
王妃は信じられないといった様子で、震える声で問いかける。
しかしレイチェルは首を横に振った。
「いいえ、私は四大公爵家の娘として、殿下との婚約が定められただけに過ぎません。そこに私の意思は存在しませんわ」
レイチェルがきっぱりと告げると、王妃は愕然とした表情を浮かべた。
「それでも私は、婚約者としての義務を精いっぱい果たそうと努力してきました。ですが、殿下はそれを拒絶なさったのです。そして一方的に婚約を破棄し、私など側妃でもお断りだとおっしゃいましたわ」
さらにレイチェルが淡々と事実を述べていくと、王妃の顔はみるみるうちに青ざめていった。
「そんな……」
王位継承権第二位であるカーティスが、四大公爵家の直系であるレイチェルを娶れば、次期国王はカーティスでほぼ確定する。
問題を起こし、資質が疑われているグリフィンでは、とても王位は継げないだろう。
それがわかるだけに、王妃はショックを受けているようだった。
王妃が呆然としていると、カーティスが一歩前に出た。
「陛下、私はレイチェルを心から愛しております。どうか婚約の許しをいただきたく存じます」
カーティスがそう言うと、国王は深いため息をついた。
そして、険しい表情で口を開く。
「カーティス、お前の気持ちはよくわかった。しかし……レイチェル嬢は納得しているのだろうか?」
まるで最後の望みに賭けるような国王の問いかけだった。
しかし、レイチェルはその期待を裏切るように、カーティスに寄り添う。そして彼を見上げると、にっこりと微笑んでみせた。
「はい、陛下。私はカーティスさまと共に歩んでいく覚悟です」
レイチェルがはっきりと告げると、国王は苦々しい表情を浮かべた。
そして沈黙が流れる。
「おお、これは素晴らしい! 正統な王家の血筋であるカーティス殿下と、四大公爵家の直系であるレイチェル嬢が結ばれるとは、なんとめでたいことか!」
沈黙を破るように声を上げたのは、オウムト公爵だった。
その言葉に、国王の顔色が変わる。
『正統な王家の血筋』は、国王の前では禁句だった。王家の色とされる紫色の瞳ではなく、青紫色の瞳を持つ国王は、正統な王家の血を引いているとは言えない。
それは王太子グリフィンも同じだ。彼はさらに遠ざかり、青色の瞳である。
「オウムト公、口が過ぎよう」
国王が牽制するように言うと、オウムト公爵は不敵な笑みを浮かべた。
「陛下、私は何も間違ったことは言っておりません。あのような場で自ら婚約を破棄するような者より、カーティス殿下が次期国王となるべきではありませんか。そして、正統な四大公爵家の直系であるレイチェル嬢こそが、未来の王妃にふさわしい」
オウムト公爵はそう言うと、満足げに微笑んだ。
国王は険しい表情でオウムト公爵を見据えるが、何も言い返せない様子だった。
「オウムト家は、カーティス殿下を支持いたしますぞ」
オウムト公爵は高らかに宣言する。
「我がリグスーン家も、カーティス殿下を支持いたします」
すると、すかさずジェイクが声を上げた。
「スーノン家も、だ」
さらにスーノン公爵が、それに続く。
彼の姿を初めて見る王妃は、驚いたように目を見開いた。
「スーノン公爵が、なぜここに……?」
「この国の未来を憂えてのことでございますよ、王妃陛下」
スーノン公爵はそう言うと、優雅に一礼した。
「そんな……あり得ないわ。なんでこんなことになっているの?」
王妃は混乱しながら叫ぶと、周囲を見回した。しかし、誰も彼女の疑問に答えようとはしない。
四大公爵家のうち、三つの支持がカーティスに集まったのだ。
それを見た他の貴族たちも、追従するように声を上げ始める。
「カーティス殿下こそが次期国王にふさわしい!」
「私もカーティス殿下を支持します!」
「カーティス殿下とレイチェル嬢はとてもお似合いだ!」
「カーティス殿下、万歳!」
謁見の間に、カーティスを支持する声が響き渡る。
次々と上がる声に、王妃は絶望の表情を浮かべる。そして力なく玉座に座り込んだ。
「陛下……私はどうすれば……」
王妃が目に涙を浮かべて訴えると、国王は深いため息をついた。
そして、意を決したように口を開く。
「わかった……二人の婚約を認めよう」
国王が苦々しい表情で告げると、謁見の間は歓喜の声に包まれた。
「ありがとうございます……陛下」
カーティスは満面の笑みを浮かべると、レイチェルの手を取って跪く。そして手の甲に口付けた。
「これで私たちは正式な婚約者だ。これから末永くよろしく頼む」
カーティスはそう言うと、レイチェルの手を握りしめる。
「はい、カーティスさま。こちらこそよろしくお願いします」
レイチェルも彼の手を握り返し、微笑んでみせた。
そして二人の様子を見守っていた国王夫妻はうな垂れたのだった。
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