自分を陥れようとする妹を利用したら、何故か王弟殿下に溺愛されました

葵 すみれ

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34.謁見

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 レイチェルとカーティスの婚約が正式に決まり、二人は晴れて婚約者となった。
 本当の目的達成まで、あと一息である。
 そのために、二人で再び国王夫妻への謁見に臨んだのだ。

「これで、あとは建国祭で儀式を執り行うことができれば、結界は修復できる」

 控えの間で待ちながら、カーティスは感慨深げに呟く。

「ええ……そうですね」

 レイチェルは緊張した面持ちで答える。
 建国祭で儀式を執り行うのは、国王夫妻、あるいは王太子夫妻だ。
 つまり、カーティスとレイチェルが儀式を執り行えば、次期国王はカーティスであると周囲に知らしめることになる。
 未だグリフィンに王位を継がせたいと願う国王夫妻は、それを許すだろうか。

「陛下たちが黙って受け入れるとは思えませんわ……」

 レイチェルは不安そうにカーティスを見つめる。

「ああ、確かにそうだな……。しかし、どうにか説得するしかない。儀式を執り行わなければ結界が修復できず、この国は滅亡してしまうのだから」

 カーティスはそう言うと、レイチェルを抱き寄せた。そして耳元で囁く。

「心配することはない。そのためにずっと準備もしてきたんだ。何があっても私がきみを守るよ」

 その言葉に、レイチェルの胸は甘く疼いた。
 カーティスの愛に包まれているという実感に、心が満たされていく。
 もしかしたら、儀式を執り行ってしまえば、彼の愛が消えてしまうのではないか。
 ふとそんな不安がレイチェルの頭をよぎったが、それを振り払うようにカーティスの胸に顔を埋めた。

「ありがとうございます、カーティスさま……私もあなたを守りますわ」

 レイチェルがそう告げると、カーティスは嬉しそうに微笑んだ。

「嬉しいよ、私の愛しい人」

 カーティスはそう言うと、レイチェルの頬に口づけをした。

「そろそろ時間だ」

 名残惜しそうにしながらも、カーティスはゆっくりと身体を離した。

「さあ、行こう」

 カーティスが手を差し出すと、レイチェルもその手を取った。
 そして、二人は手を繋いで謁見の間に入る。
 すでに国王夫妻は玉座に腰掛けており、カーティスとレイチェルの到着を待っていた。

「陛下、本日は謁見の機会をいただき、ありがとうございます」

 カーティスが挨拶をすると、国王はゆっくりと口を開いた。

「それで……今日お前たちが来た理由はなんだ?」

 国王の表情は硬く、声にはわずかに警戒の色が滲んでいる。

「はい……陛下にお伝えしたいことがございまして」

 カーティスがそう言うと、王妃の顔色が変わる。そして縋るような眼差しでカーティスを見つめた。
 しかし、カーティスはそれを無視するように言葉を続ける。

「建国祭での儀式を、私とレイチェルに執り行わせてはいただけませんか?」

 カーティスの言葉に、謁見の間は騒然となった。

「何を言うのだ、カーティス! お前は国王でも王太子でもない。儀式を執り行う資格はない!」

「そうよ! わきまえなさい!」

 国王が叫ぶと、王妃もそれに同調する。しかしカーティスは動じることなく言葉を続けた。

「しかし、陛下。結界が修復されなければ、この国は滅亡してしまいます」

 カーティスの言葉に、国王夫妻は怪訝な表情を浮かべた。

「毎年、結界を修復する儀式は欠かしていない。何を言っているのだ?」

 国王は訝しげに問いかける。

「いいえ、それは違います。結界は年々、修復しきれずに綻びが生じているのです。このまま放置しておけば、この国は滅亡するでしょう」

 カーティスが厳しい表情で告げると、王妃がぎくりとした表情を浮かべた。

「そんな……あり得ないわ……」

「いいえ、現実なのです。すでに影響は出始めています。十七年前のオウムト領での事件を覚えていますか?」

 カーティスは王妃に問いかけた。
 すると、王妃がびくりと身体を震わせる。

「そう、当時王太子だった陛下が素早く騎士たちを派遣したために、幸いにして領民に被害は出ませんでした。勇敢な騎士が一人、命を落としてしまいましたが……」

 痛ましそうなカーティスの口調に、謁見の間は静まり返った。
 王妃は青ざめて、わなわなと唇を震わせている。彼女の様子は明らかに異常だった。
 それを見て、レイチェルは以前抱いた疑問が確信へと変わっていく。
 命を落としたという騎士こそ、グリフィンの本当の父親なのだろう。

「王妃陛下がこうもお心を痛めている事件は、結界の綻びによって生じたものでした。結界の綻びは少しずつ拡大しています。今はまだ、ささいな影響しかありませんが……このまま放置していては、いずれ取り返しのつかないことになるでしょう」

 カーティスは王妃の反応を当然のものと受け止めているようで、冷静に言葉を続ける。
 もしかしたら、カーティスも王妃の真実を知っているのだろうか。だからこそ、動揺させるためにこの話を持ち出したのかもしれない。
 レイチェルはそんなことを考えながら、カーティスの話に耳を傾けていた。

「嘘だ……そのようなこと、信じられるわけがない!」

 国王は激昂して立ち上がった。王妃は黙ったまま、目に涙を溜めて震えている。
 しかしカーティスは怯むことなく、さらに言葉を続けた。

「陛下のご心配もわかりますが、私は確信を持って申し上げております。正統な王家の血筋である、このカーティスが申し上げているのです。信じていただきたい」

 カーティスがはっきりと言い切ると、謁見の間は騒然となった。
 これまで表舞台に出ることなく、身を潜めていたカーティスが、国王にとっての禁句を堂々と口にしたのだ。
 血筋の正統性で言えば、カーティスに勝る者はいない。
 それを正面から突き付けられ、国王は苦々しい表情を浮かべていた。

「陛下……どうか私とレイチェルに儀式を執り行わせてください。必ずやこの国を救ってみせます」

 カーティスは真剣な眼差しで訴えかける。

「しかし……私は……」

 国王は言葉を詰まらせ、目を伏せてしまった。
 しばらくの沈黙の後、やがて大きなため息をつく。

「……考えさせてほしい」

 国王は苦しげに答える。

「はい……どうか前向きにお考えください」

 カーティスはそれだけ言うと、国王夫妻に一礼し、レイチェルの手を取って謁見の間を立ち去った。
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