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03.真実の愛なんて信じない
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取り調べにより、オテロの企みが明らかになった。
レオノールに惚れたオテロは、邪魔な婚約者のイヴァンに婚約破棄をさせようと、他の女を宛がうことにしたのだという。
身の程知らずに成り上がろうとしていて、頭があまりよろしくない、格好の相手がエリザだったのだ。
匿名で、異性を虜にする魔術薬を美容薬と偽って送りつけ、惚れ薬となるお茶もしのばせておいたのだが、こうもあっさり疑いもせず使うとは思わなかったと、オテロも苦笑していた。
つまり、エリザは利用されただけで、本人は企みを知らなかったのだ。
魔術薬であるとも気づかず、単に自分の魅力に男子生徒たちが虜になったのだと、うぬぼれていたのだという。
だが、オテロはそう語ったものの、おそらく本命はこの国そのものを弱めることだったのだろうと、イヴァンとレオノールは考える。
王家と公爵家の間に亀裂を生じさせ、ふさわしくない者を未来の王妃に据えて国力の低下を狙うなど、隣国からの指令を受けていた可能性がある。
もし、レオノールに求婚などしでかさなければ、企み自体は防げたとしても、オテロの仕業とはわからなかったかもしれない。
オテロは隣国に戻された。
裏では賠償金などの取り引きがあったという。
隣国はこの件で風下に立たされることとなり、オテロも隣国に戻ってからは、冷たい目で見られているということだ。
エリザは王太子をたぶらかし、自分が将来の王妃となろうと、レオノールにありもしない罪をなすりつけて、蹴り落とそうとしていた。
さらに隣国の悪事に荷担する結果になったが、本人は知らぬ間に利用されていたということで処刑は免れ、修道院に送られた。
「今回は、面目なかった……」
事件が一息ついたところで、イヴァンはうなだれながらレオノールに詫びる。
パーティー当日の婚約破棄こそ演技だったが、それより前にイヴァンはすっかり術中にはまり、本当に婚約破棄しかねない勢いだったのだ。
おかしいと思ったレオノールが調べて、エリザが魔術薬を使っていることを突き止めた。
そしてイヴァンの術も解除したのだが、魔術薬の出所がわからなかった。そのため、共犯者を探そうとイヴァンも術にかかったままのふりをして、エリザを泳がせていたのだ。
そしてエリザの提案に従うふりをして、パーティー当日にイヴァンがレオノールに婚約破棄を言い渡し、仕掛けたのである。
「よろしいのですわよ、わたくしは可愛げのない女ですもの。エリザ嬢のような方を、殿方は可愛らしいとお思いになるのでしょう?」
レオノールは微笑みながら、冷たく言い放つ。
いくら魔術薬のせいだったとはいえ、エリザにデレデレしていたイヴァンの姿は、レオノールにとっては思い出したくもない、腹立たしい記憶だった。
その後、共犯者を探すためだったとはいえ、イヴァンがエリザを恋人として扱っていたことも、頭では納得していても心は許しがたい。
もともと家と家の結びつきであり、燃え上がるような想いがあったわけではない。
だが、レオノールはイヴァンのことを共に支え合っていく相手として信頼し、尊敬もしていたのだ。
その信頼を裏切られたことへの憤りだと、レオノールは自らの感情について考える。
未来の王妃として、常に誇り高くあれとレオノールは自らを律してきた。
それが可愛げとは程遠いことくらい、レオノール自身がよく知っている。
だが、仕方がないではないか。
「いや、きみが可愛くないなど、思ってはいないが」
「……はい?」
不意打ちのようなイヴァンの言葉に、レオノールはつい固まってしまう。
普段は予想外のことを言われても、表情になど出さない。
だが、今は頭が混乱してしまい、いつものように振る舞えなかった。
「その……常に誇り高くあろうとするきみに、可愛らしいなどと言っては失礼ではないかと思っていた。だが、私は自分の愚かさをまたも思い知らされた。こうして嫉妬するきみは、とても可愛らしい」
「ま……まあ……わたくし、嫉妬など……」
真摯な眼差しを向けてくるイヴァンから視線をそらし、レオノールはぼそぼそと呟く。
「わかっている。嫉妬ではなく、不甲斐ない私に怒っているだけなのだろう?」
「そ……そうですわ……おわかりになって……」
視線をそらしたまま、レオノールはか細く答える。
だが、イヴァンは満足そうに微笑むだけだ。
「今回のことは一生をかけて償っていく。これからの人生は、真実の愛をきみに捧げよう」
イヴァンはレオノールの前に跪き、その手を取って手の甲に口づける。
呆然としたままそれを受け入れたレオノールは、凍り付いたように動けなくなってしまう。
「……わたくし、真実の愛なんて信じませんわ」
やがて、そっぽを向きながら呟いたレオノールの頬は、真っ赤に染まっていた。
レオノールに惚れたオテロは、邪魔な婚約者のイヴァンに婚約破棄をさせようと、他の女を宛がうことにしたのだという。
身の程知らずに成り上がろうとしていて、頭があまりよろしくない、格好の相手がエリザだったのだ。
匿名で、異性を虜にする魔術薬を美容薬と偽って送りつけ、惚れ薬となるお茶もしのばせておいたのだが、こうもあっさり疑いもせず使うとは思わなかったと、オテロも苦笑していた。
つまり、エリザは利用されただけで、本人は企みを知らなかったのだ。
魔術薬であるとも気づかず、単に自分の魅力に男子生徒たちが虜になったのだと、うぬぼれていたのだという。
だが、オテロはそう語ったものの、おそらく本命はこの国そのものを弱めることだったのだろうと、イヴァンとレオノールは考える。
王家と公爵家の間に亀裂を生じさせ、ふさわしくない者を未来の王妃に据えて国力の低下を狙うなど、隣国からの指令を受けていた可能性がある。
もし、レオノールに求婚などしでかさなければ、企み自体は防げたとしても、オテロの仕業とはわからなかったかもしれない。
オテロは隣国に戻された。
裏では賠償金などの取り引きがあったという。
隣国はこの件で風下に立たされることとなり、オテロも隣国に戻ってからは、冷たい目で見られているということだ。
エリザは王太子をたぶらかし、自分が将来の王妃となろうと、レオノールにありもしない罪をなすりつけて、蹴り落とそうとしていた。
さらに隣国の悪事に荷担する結果になったが、本人は知らぬ間に利用されていたということで処刑は免れ、修道院に送られた。
「今回は、面目なかった……」
事件が一息ついたところで、イヴァンはうなだれながらレオノールに詫びる。
パーティー当日の婚約破棄こそ演技だったが、それより前にイヴァンはすっかり術中にはまり、本当に婚約破棄しかねない勢いだったのだ。
おかしいと思ったレオノールが調べて、エリザが魔術薬を使っていることを突き止めた。
そしてイヴァンの術も解除したのだが、魔術薬の出所がわからなかった。そのため、共犯者を探そうとイヴァンも術にかかったままのふりをして、エリザを泳がせていたのだ。
そしてエリザの提案に従うふりをして、パーティー当日にイヴァンがレオノールに婚約破棄を言い渡し、仕掛けたのである。
「よろしいのですわよ、わたくしは可愛げのない女ですもの。エリザ嬢のような方を、殿方は可愛らしいとお思いになるのでしょう?」
レオノールは微笑みながら、冷たく言い放つ。
いくら魔術薬のせいだったとはいえ、エリザにデレデレしていたイヴァンの姿は、レオノールにとっては思い出したくもない、腹立たしい記憶だった。
その後、共犯者を探すためだったとはいえ、イヴァンがエリザを恋人として扱っていたことも、頭では納得していても心は許しがたい。
もともと家と家の結びつきであり、燃え上がるような想いがあったわけではない。
だが、レオノールはイヴァンのことを共に支え合っていく相手として信頼し、尊敬もしていたのだ。
その信頼を裏切られたことへの憤りだと、レオノールは自らの感情について考える。
未来の王妃として、常に誇り高くあれとレオノールは自らを律してきた。
それが可愛げとは程遠いことくらい、レオノール自身がよく知っている。
だが、仕方がないではないか。
「いや、きみが可愛くないなど、思ってはいないが」
「……はい?」
不意打ちのようなイヴァンの言葉に、レオノールはつい固まってしまう。
普段は予想外のことを言われても、表情になど出さない。
だが、今は頭が混乱してしまい、いつものように振る舞えなかった。
「その……常に誇り高くあろうとするきみに、可愛らしいなどと言っては失礼ではないかと思っていた。だが、私は自分の愚かさをまたも思い知らされた。こうして嫉妬するきみは、とても可愛らしい」
「ま……まあ……わたくし、嫉妬など……」
真摯な眼差しを向けてくるイヴァンから視線をそらし、レオノールはぼそぼそと呟く。
「わかっている。嫉妬ではなく、不甲斐ない私に怒っているだけなのだろう?」
「そ……そうですわ……おわかりになって……」
視線をそらしたまま、レオノールはか細く答える。
だが、イヴァンは満足そうに微笑むだけだ。
「今回のことは一生をかけて償っていく。これからの人生は、真実の愛をきみに捧げよう」
イヴァンはレオノールの前に跪き、その手を取って手の甲に口づける。
呆然としたままそれを受け入れたレオノールは、凍り付いたように動けなくなってしまう。
「……わたくし、真実の愛なんて信じませんわ」
やがて、そっぽを向きながら呟いたレオノールの頬は、真っ赤に染まっていた。
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