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13.限界
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それから、ポーラは毎日のようにレイモンドに付きまとった。
その姿はまるで恋人に甘えているようで、ヘスティアは見ているだけで胸の奥がもやもやしてくる。
「ねえ、レイモンドさま。私のお願いを聞いてくださる?」
ポーラは上目遣いで見つめると、甘えたような声で言う。
それに対して、レイモンドは少し困った表情を浮かべた。
「お願いというのは何だ?」
「ふふ……実はね……」
ポーラはもじもじと身体をくねらせると、頬を赤く染める。その姿はとても可愛らしく見えた。
しかし、その仕草とは裏腹に、ポーラの口から出た言葉はあまりにも酷かった。
「私ね……レイモンドさまとの子供が欲しいんです」
「なっ……!?」
レイモンドは驚きのあまり言葉を失う。
ポーラはそんな反応を見て楽しんでいるかのように、くすくすと笑った。そして、さらに続ける。
「だってレイモンドさまは辺境伯なのですから、跡継ぎが必要ですよね? だから、私と子供を作りましょう?」
ポーラはそう言うと、無邪気な笑みを浮かべた。まるでそれが自然なことだとでも言うかのように。
レイモンドは呆然とした表情を浮かべていたが、すぐに我に返ると口を開く。
「ふざけるな! そんなことはできない」
「あら……どうして? 私では不足ですか?」
ポーラはわざとらしく悲しそうな表情をする。
「そういうことじゃない。俺はまだ結婚もしていないんだぞ。子供を作るなど早すぎる」
「それでしたら、結婚すればよいのですわ」
ポーラはあっさりと言ってのける。その口調には迷いがなかった。
「私は辺境伯夫人として、立派に役目を果たしてみせますわ」
ポーラは自信に満ちた表情で言う。その姿は堂々しており、自らの言葉に何の疑いも持っていないことが明らかだ。
「だから、安心してくださいな」
ポーラはにっこりと微笑むと、レイモンドの腕を抱き寄せる。その姿はまるで恋人同士のように見えた。
その様子を、ヘスティアは愕然としながら見つめる。
自分には、あのように振る舞うことなど決してできない。
それに、愛らしく可憐なポーラと、美貌のレイモンドはお似合いのようにも見えた。
子爵令嬢なら、少々格が足りなくはあるが、許容範囲内だろう。
そう考えると、ますます自分が惨めに思えてくる。
「……っ」
ヘスティアは唇を噛み締めると、その場を立ち去った。そして自分の部屋に戻ると、ベッドに潜り込む。
「私は……私は……」
ヘスティアは枕を抱きしめながら呟く。
だが、その言葉の続きを言うことはできなかった。いや、言いたくなかったのだ。認めたくなかったのである。
ポーラが羨ましいという感情を。そして、嫉妬という醜い感情を。
「私……最低だわ」
ヘスティアは自嘲気味に笑うと、枕を強く抱きしめる。
「レイモンドさま……」
ヘスティアは無意識のうちに彼の名を呟いた。そして、自分の気持ちを自覚する。
自分は彼に恋をしているのだと。
そう思った瞬間、胸の奥が熱くなるのを感じた。それと同時に目頭が熱くなり、涙がこぼれ落ちる。
「うっ……うぅ……」
ヘスティアは嗚咽を漏らしながら泣き続けた。
その夜、ヘスティアは夢を見た。
ポーラとレイモンドが皆に祝福されながら、結婚式を挙げる夢だ。そして、自分はそれを眺めているだけの存在だった。
夢の中でさえ、自分はレイモンドと結ばれることはなかったのだ。
次の日も、そのまた次の日も、ポーラはレイモンドを誘惑し続けた。
始めは逃げ出していたレイモンドも、徐々にほだされてきたのか、会話を交わすようになっていった。
その様子をヘスティアはずっと見続けることしかできない。
その度に胸が締め付けられるような痛みに襲われるが、どうすることもできなかったのである。
そしてついに限界を迎えた時、ヘスティアは辺境伯家を去ることを決意した。
もうここに自分の居場所はない。そう思ったのだ。
そして、ヘスティアは旅支度を整えると、誰にも告げずに屋敷を出た。
「さようなら……」
小さな声で呟き、屋敷の門をくぐろうとする。
だがその時、後ろから声をかけられた。
「待ってくれ!」
振り返ると、そこにはレイモンドの姿があった。彼は息を切らせながら駆け寄ってくる。そして、ヘスティアの手を握った。
「どうして……出ていくんだ?」
レイモンドは戸惑いと悲しみが入り交じったような表情で言う。
そんな彼の手をヘスティアは振り払った。
「……もうここには、いられませんから」
「行かないでくれ! 俺はきみが必要なんだ」
「嘘です!」
ヘスティアは思わず叫んでしまう。
すると、レイモンドは一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに悲しそうな表情を浮かべた。
「嘘ではない。俺はきみのことを……」
「やめてください!」
ヘスティアはレイモンドの言葉を遮るように叫ぶと、その場に崩れ落ちる。そして、大粒の涙を流し始めた。
その様子を見て、レイモンドは慌てて駆け寄ろうとする。
だが、ヘスティアはそれを拒んだ。
「来ないでください!」
ヘスティアの拒絶に、レイモンドは足を止める。そして、悲しそうな表情を浮かべながら立ち尽くしていた。
そんな彼の姿を見たヘスティアは胸が締め付けられるような痛みに襲われるが、それでも言葉を続けようとする。
「私は……私は……」
ヘスティアは言葉に詰まる。嗚咽を漏らしながら、泣き続けることしかできない。
「ごめんなさい……ごめんなさい」
泣きながら謝罪の言葉を繰り返す。
しかし、レイモンドは何も答えなかった。ただ黙って立ち尽くしているだけだった。
そこに足音が近づいてくる。
「……これはどういう状況だ?」
現れたのは、見知らぬ壮年の男性だった。
白髪交じりの黒髪に、顎には髭を蓄えている。そして、鋭い眼光と身にまとった威圧感は、彼が只者ではないことを物語っていた。
「おじいさま……」
レイモンドは呆然と呟いた。
その姿はまるで恋人に甘えているようで、ヘスティアは見ているだけで胸の奥がもやもやしてくる。
「ねえ、レイモンドさま。私のお願いを聞いてくださる?」
ポーラは上目遣いで見つめると、甘えたような声で言う。
それに対して、レイモンドは少し困った表情を浮かべた。
「お願いというのは何だ?」
「ふふ……実はね……」
ポーラはもじもじと身体をくねらせると、頬を赤く染める。その姿はとても可愛らしく見えた。
しかし、その仕草とは裏腹に、ポーラの口から出た言葉はあまりにも酷かった。
「私ね……レイモンドさまとの子供が欲しいんです」
「なっ……!?」
レイモンドは驚きのあまり言葉を失う。
ポーラはそんな反応を見て楽しんでいるかのように、くすくすと笑った。そして、さらに続ける。
「だってレイモンドさまは辺境伯なのですから、跡継ぎが必要ですよね? だから、私と子供を作りましょう?」
ポーラはそう言うと、無邪気な笑みを浮かべた。まるでそれが自然なことだとでも言うかのように。
レイモンドは呆然とした表情を浮かべていたが、すぐに我に返ると口を開く。
「ふざけるな! そんなことはできない」
「あら……どうして? 私では不足ですか?」
ポーラはわざとらしく悲しそうな表情をする。
「そういうことじゃない。俺はまだ結婚もしていないんだぞ。子供を作るなど早すぎる」
「それでしたら、結婚すればよいのですわ」
ポーラはあっさりと言ってのける。その口調には迷いがなかった。
「私は辺境伯夫人として、立派に役目を果たしてみせますわ」
ポーラは自信に満ちた表情で言う。その姿は堂々しており、自らの言葉に何の疑いも持っていないことが明らかだ。
「だから、安心してくださいな」
ポーラはにっこりと微笑むと、レイモンドの腕を抱き寄せる。その姿はまるで恋人同士のように見えた。
その様子を、ヘスティアは愕然としながら見つめる。
自分には、あのように振る舞うことなど決してできない。
それに、愛らしく可憐なポーラと、美貌のレイモンドはお似合いのようにも見えた。
子爵令嬢なら、少々格が足りなくはあるが、許容範囲内だろう。
そう考えると、ますます自分が惨めに思えてくる。
「……っ」
ヘスティアは唇を噛み締めると、その場を立ち去った。そして自分の部屋に戻ると、ベッドに潜り込む。
「私は……私は……」
ヘスティアは枕を抱きしめながら呟く。
だが、その言葉の続きを言うことはできなかった。いや、言いたくなかったのだ。認めたくなかったのである。
ポーラが羨ましいという感情を。そして、嫉妬という醜い感情を。
「私……最低だわ」
ヘスティアは自嘲気味に笑うと、枕を強く抱きしめる。
「レイモンドさま……」
ヘスティアは無意識のうちに彼の名を呟いた。そして、自分の気持ちを自覚する。
自分は彼に恋をしているのだと。
そう思った瞬間、胸の奥が熱くなるのを感じた。それと同時に目頭が熱くなり、涙がこぼれ落ちる。
「うっ……うぅ……」
ヘスティアは嗚咽を漏らしながら泣き続けた。
その夜、ヘスティアは夢を見た。
ポーラとレイモンドが皆に祝福されながら、結婚式を挙げる夢だ。そして、自分はそれを眺めているだけの存在だった。
夢の中でさえ、自分はレイモンドと結ばれることはなかったのだ。
次の日も、そのまた次の日も、ポーラはレイモンドを誘惑し続けた。
始めは逃げ出していたレイモンドも、徐々にほだされてきたのか、会話を交わすようになっていった。
その様子をヘスティアはずっと見続けることしかできない。
その度に胸が締め付けられるような痛みに襲われるが、どうすることもできなかったのである。
そしてついに限界を迎えた時、ヘスティアは辺境伯家を去ることを決意した。
もうここに自分の居場所はない。そう思ったのだ。
そして、ヘスティアは旅支度を整えると、誰にも告げずに屋敷を出た。
「さようなら……」
小さな声で呟き、屋敷の門をくぐろうとする。
だがその時、後ろから声をかけられた。
「待ってくれ!」
振り返ると、そこにはレイモンドの姿があった。彼は息を切らせながら駆け寄ってくる。そして、ヘスティアの手を握った。
「どうして……出ていくんだ?」
レイモンドは戸惑いと悲しみが入り交じったような表情で言う。
そんな彼の手をヘスティアは振り払った。
「……もうここには、いられませんから」
「行かないでくれ! 俺はきみが必要なんだ」
「嘘です!」
ヘスティアは思わず叫んでしまう。
すると、レイモンドは一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに悲しそうな表情を浮かべた。
「嘘ではない。俺はきみのことを……」
「やめてください!」
ヘスティアはレイモンドの言葉を遮るように叫ぶと、その場に崩れ落ちる。そして、大粒の涙を流し始めた。
その様子を見て、レイモンドは慌てて駆け寄ろうとする。
だが、ヘスティアはそれを拒んだ。
「来ないでください!」
ヘスティアの拒絶に、レイモンドは足を止める。そして、悲しそうな表情を浮かべながら立ち尽くしていた。
そんな彼の姿を見たヘスティアは胸が締め付けられるような痛みに襲われるが、それでも言葉を続けようとする。
「私は……私は……」
ヘスティアは言葉に詰まる。嗚咽を漏らしながら、泣き続けることしかできない。
「ごめんなさい……ごめんなさい」
泣きながら謝罪の言葉を繰り返す。
しかし、レイモンドは何も答えなかった。ただ黙って立ち尽くしているだけだった。
そこに足音が近づいてくる。
「……これはどういう状況だ?」
現れたのは、見知らぬ壮年の男性だった。
白髪交じりの黒髪に、顎には髭を蓄えている。そして、鋭い眼光と身にまとった威圧感は、彼が只者ではないことを物語っていた。
「おじいさま……」
レイモンドは呆然と呟いた。
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