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19.お菓子作り
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「あの……奥方さま、毎日お茶を飲んでお散歩をするだけですが、これで実験になっているのでしょうか……?」
銀月茶を飲み、庭園を散歩するという実験を数日繰り返したところで、ジェナがおそるおそる問いかけてきた。
「ええ、しばらくこれを続けるだけよ」
コーデリアが答えると、ジェナはまだ信じ切れないような様子ではあったが、何も言うことはなかった。
どうやら彼女は非道な実験を覚悟していたようで、それがなかったことに拍子抜けしているらしい。
かつてリアが教師として生徒たちを見ながら、共通点に気付いたことがあった。
平民として生まれながら魔術の才能を持つ者はほぼ孤児で、しかもほとんどが貴族の残飯を漁った経験があるのだ。
そのことから、魔力とは選ばれた血筋の者が持つのではなく、何かによって引き出されるのではないかと、リアは考えた。
そして、おそらくそれは貴族のみが食べるものだろう。
たどり着いたのが、銀月茶だ。
前世のリアは美味しいと感じたが、今のコーデリアは苦味しかわからない。
魔力の有無によって、味の感じ方が変わるのだと考えられる。
そうして魔力によって左右されるのなら、魔力に働きかける要素があるのではないかというのが、コーデリアの仮説だ。
「ただ……お茶だけで摂取していると、時間がかかりそうなのよね。もっと多く摂取するには……そうだわ、茶葉をお菓子に入れられないかしら」
貴族の子どもは、銀月茶にジャムや砂糖といった甘味を入れて飲む。大人になると苦味を感じなくなると言われている。
それは味覚が大人になるからだとされているが、コーデリアは魔力が発現するからだと考えている。
ただ、それはつまり、その味覚に達するまでに数年を要するということだ。
孤児だったリアは、銀月茶など飲んだことはない。
だが、貴族の残飯には苦いものや酸っぱいものなど、様々なものがあった。おそらく、その中には銀月茶の茶殻もあったのだろう。
毎日摂取していたわけでもなく魔力が発現したので、淹れた茶よりも茶葉や茶殻のほうが効果は高そうだ。
「厨房に行くのは構わないと言っていたわね……料理長に相談してみましょう」
屋敷や敷地内は、どこでも好きに行ってよいと言われている。封鎖されている場所には入るなとあったが、それは当然のことだ。破る気はない。
コーデリアは早速、ジェナとミミを連れて厨房に向かう。
「デニス料理長、ちょっとよいかしら」
厨房は夕食の準備前で、まだ落ち着いているようだった。料理長デニスの姿を見つけ、コーデリアは声をかける。
「はい、奥方さま。何かありましたか」
「銀月茶の茶葉を使ったお菓子を作ることって、できないかしら」
「茶葉を使ったお菓子ですか? 茶葉を砕いてクッキーやケーキに練り込むなど、色々と作れると思います」
あっさりとデニスは答えた。
どうやらそう難しくはなさそうだと、コーデリアはほっとする。
「もしよろしければ、奥方さまがお作りになってみますか?」
「まあ、いいの?」
思いがけない申し出に、コーデリアは驚きながら問い返す。
コーデリアは菓子どころか料理も作ったことがない。前世のリアも、捕まえた獣を捌いて焼いたり煮たりすることはあったが、菓子などは無縁だった。
自分で菓子を作れるのかと思うと、コーデリアはうきうきしてくる。
「では、茶葉を使ったクッキーを作ってみましょう」
デニスは微笑ましそうに頷くと、てきぱきと準備を始めた。
すり鉢で茶葉をすり潰し、他の材料も分量を確認する。あっという間に、コーデリアの前に材料がそろえられた。
「これらを入れて、ざっくりと混ぜてください」
「……こう?」
「はい、お上手ですよ。次は……」
デニスの指示に従い、コーデリアは材料を混ぜていく。
生地を整えたり、オーブンの火加減を調整したりといった作業は、デニスが行った。どうやらオーブンは魔道具らしい。
続いてコーデリアが行ったのは、型抜きで生地を花型や星型などに、くり抜いていくことだ。
「楽しいわね、これ」
色々な形の型抜きがあり、目の前に可愛らしいクッキーの原型が並んでいくのが面白い。余った生地はデニスが整えて、またコーデリアが型を抜いていった。
「できましたね。オーブンも温まったので、焼きましょう。後は、しばらく待てば完成です」
焼き上がりまではさほどかからないようなので、コーデリアは待つことにした。
面倒な作業や難しいところは全部デニスに任せてしまったが、それでもコーデリアが初めて作った菓子だ。
わくわくしながら、コーデリアは出来上がりを待つ。
「奥方さま、もしよろしければ旦那さまにもクッキーを持って行かれてはいかがでしょうか」
「旦那さまに? そうね、休憩時間の差し入れに良いわね」
デニスから提案され、コーデリアは頷く。
素晴らしい好待遇を与えてくれるクライブに、感謝の印として差し入れをするのは良さそうだ。
「旦那さま、きっとお喜びになりますね」
ミミがにこにこしながら、声をかけてくる。
「そうだと嬉しいわ」
こうして話しているうちに、クッキーが焼き上がった。
デニスがオーブンから取り出したクッキーはこんがりと焼き上がっていて、甘い香りがほのかに漂う。
とても美味しそうな出来上がりだ。
「まあ、美味しそう……!」
早速、味見をしてみることにする。
前世も含めて初めて作った菓子だ。コーデリアは胸を高鳴らせながら、クッキーを一枚手に取った。
デニス、ジェナ、ミミも一枚手に取り、四人はクッキーをかじる。
「……苦い」
そして、四人は同時に眉根を寄せながら、呟きを漏らした。
銀月茶を飲み、庭園を散歩するという実験を数日繰り返したところで、ジェナがおそるおそる問いかけてきた。
「ええ、しばらくこれを続けるだけよ」
コーデリアが答えると、ジェナはまだ信じ切れないような様子ではあったが、何も言うことはなかった。
どうやら彼女は非道な実験を覚悟していたようで、それがなかったことに拍子抜けしているらしい。
かつてリアが教師として生徒たちを見ながら、共通点に気付いたことがあった。
平民として生まれながら魔術の才能を持つ者はほぼ孤児で、しかもほとんどが貴族の残飯を漁った経験があるのだ。
そのことから、魔力とは選ばれた血筋の者が持つのではなく、何かによって引き出されるのではないかと、リアは考えた。
そして、おそらくそれは貴族のみが食べるものだろう。
たどり着いたのが、銀月茶だ。
前世のリアは美味しいと感じたが、今のコーデリアは苦味しかわからない。
魔力の有無によって、味の感じ方が変わるのだと考えられる。
そうして魔力によって左右されるのなら、魔力に働きかける要素があるのではないかというのが、コーデリアの仮説だ。
「ただ……お茶だけで摂取していると、時間がかかりそうなのよね。もっと多く摂取するには……そうだわ、茶葉をお菓子に入れられないかしら」
貴族の子どもは、銀月茶にジャムや砂糖といった甘味を入れて飲む。大人になると苦味を感じなくなると言われている。
それは味覚が大人になるからだとされているが、コーデリアは魔力が発現するからだと考えている。
ただ、それはつまり、その味覚に達するまでに数年を要するということだ。
孤児だったリアは、銀月茶など飲んだことはない。
だが、貴族の残飯には苦いものや酸っぱいものなど、様々なものがあった。おそらく、その中には銀月茶の茶殻もあったのだろう。
毎日摂取していたわけでもなく魔力が発現したので、淹れた茶よりも茶葉や茶殻のほうが効果は高そうだ。
「厨房に行くのは構わないと言っていたわね……料理長に相談してみましょう」
屋敷や敷地内は、どこでも好きに行ってよいと言われている。封鎖されている場所には入るなとあったが、それは当然のことだ。破る気はない。
コーデリアは早速、ジェナとミミを連れて厨房に向かう。
「デニス料理長、ちょっとよいかしら」
厨房は夕食の準備前で、まだ落ち着いているようだった。料理長デニスの姿を見つけ、コーデリアは声をかける。
「はい、奥方さま。何かありましたか」
「銀月茶の茶葉を使ったお菓子を作ることって、できないかしら」
「茶葉を使ったお菓子ですか? 茶葉を砕いてクッキーやケーキに練り込むなど、色々と作れると思います」
あっさりとデニスは答えた。
どうやらそう難しくはなさそうだと、コーデリアはほっとする。
「もしよろしければ、奥方さまがお作りになってみますか?」
「まあ、いいの?」
思いがけない申し出に、コーデリアは驚きながら問い返す。
コーデリアは菓子どころか料理も作ったことがない。前世のリアも、捕まえた獣を捌いて焼いたり煮たりすることはあったが、菓子などは無縁だった。
自分で菓子を作れるのかと思うと、コーデリアはうきうきしてくる。
「では、茶葉を使ったクッキーを作ってみましょう」
デニスは微笑ましそうに頷くと、てきぱきと準備を始めた。
すり鉢で茶葉をすり潰し、他の材料も分量を確認する。あっという間に、コーデリアの前に材料がそろえられた。
「これらを入れて、ざっくりと混ぜてください」
「……こう?」
「はい、お上手ですよ。次は……」
デニスの指示に従い、コーデリアは材料を混ぜていく。
生地を整えたり、オーブンの火加減を調整したりといった作業は、デニスが行った。どうやらオーブンは魔道具らしい。
続いてコーデリアが行ったのは、型抜きで生地を花型や星型などに、くり抜いていくことだ。
「楽しいわね、これ」
色々な形の型抜きがあり、目の前に可愛らしいクッキーの原型が並んでいくのが面白い。余った生地はデニスが整えて、またコーデリアが型を抜いていった。
「できましたね。オーブンも温まったので、焼きましょう。後は、しばらく待てば完成です」
焼き上がりまではさほどかからないようなので、コーデリアは待つことにした。
面倒な作業や難しいところは全部デニスに任せてしまったが、それでもコーデリアが初めて作った菓子だ。
わくわくしながら、コーデリアは出来上がりを待つ。
「奥方さま、もしよろしければ旦那さまにもクッキーを持って行かれてはいかがでしょうか」
「旦那さまに? そうね、休憩時間の差し入れに良いわね」
デニスから提案され、コーデリアは頷く。
素晴らしい好待遇を与えてくれるクライブに、感謝の印として差し入れをするのは良さそうだ。
「旦那さま、きっとお喜びになりますね」
ミミがにこにこしながら、声をかけてくる。
「そうだと嬉しいわ」
こうして話しているうちに、クッキーが焼き上がった。
デニスがオーブンから取り出したクッキーはこんがりと焼き上がっていて、甘い香りがほのかに漂う。
とても美味しそうな出来上がりだ。
「まあ、美味しそう……!」
早速、味見をしてみることにする。
前世も含めて初めて作った菓子だ。コーデリアは胸を高鳴らせながら、クッキーを一枚手に取った。
デニス、ジェナ、ミミも一枚手に取り、四人はクッキーをかじる。
「……苦い」
そして、四人は同時に眉根を寄せながら、呟きを漏らした。
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