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21.不吉な手紙

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 それから、銀月茶の茶葉を練り込んだ菓子を食べるのが日課になった。
 もちろんジェナとミミも一緒だ。二人はげんなりとしていたが、これも実験だと言うと、むしろ納得したような顔になっていた。実験に対して苦行を想定していたらしいので、少しは期待に沿えたようだ。

「……だんだん、苦味を感じなくなってきたような気がします。慣れて、味覚が壊れてきたのでしょうか」

 あるとき厨房で、作った菓子を味見していると、ジェナがぼそりとそう漏らした。

「最近だと、少し美味しいような気もしてきました。私も味覚がおかしくなったんでしょうか……」

 すると、ミミも頷く。
 どうやら二人に効果が表れてきたようだ。コーデリアも、以前よりは苦味が薄れてきたような気がする。

「私はまだ慣れませんね……とても苦いです……」

 料理長デニスだけが、眉根を寄せて首を横に振る。
 彼にも毎回味見をしてもらっているが、最初から変わらず苦いらしい。
 この反応を見ていると、年齢が若いほど効果が表れやすいと考えることもできそうだ。参考になる件数が少ないので断定はできないが、前世の養成所時代でも、大人になってから魔力が発現した者はいなかった。十分、可能性はあるだろう。

「旦那さまの分をお包みしますね」

「ええ、ありがとう」

 デニスから籠を受け取ると、コーデリアはクライブの執務室に向かう。
 クライブに菓子を差し入れするのも、日課になっていた。

「……あら、今日はいないのかしら」

 執務室をノックしても返事がなかったので、コーデリアはそっと中に入る。クライブからは、いなくても勝手に入ってよいという許可はもらっている。
 やはり、部屋の中には誰もいなかった。机の上に、籠が置いてあるだけだ。コーデリアは近付くと、籠に添えられていたカードを手に取る。

『美味しかった、ありがとう』

 カードに書かれた文字を眺めながら、コーデリアは自然と口元がほころぶ。
 クライブが執務室にいないときでも、籠ごと置いておくと、空になった籠にメッセージが添えられて返ってくるのだ。
 ほんの一言ではあるが、自分のために用意された言葉は胸を温かくするのだと、コーデリアは知った。

 コーデリアは、持ってきた菓子入りの籠と、置いてある空になった籠を交換しようとする。すると、空のはずの籠が重たいことに気付く。
 何だろうと籠を開けてみると、中にはコーデリアの手のひら程度の大きさの、長方形の測定器が入っていた。縦長に目盛りがあり、針は一番下を指している。

「まあ……用意してくれたのね」

 呟きながら、コーデリアは菓子の礼が書かれたカードを裏返してみる。
 すると、そこには『頼まれていた測定器が手に入ったので、入れておく』と書かれていた。
 先日、クライブに魔力測定器が欲しいと願ったのだ。早速、願いを叶えてくれたらしい。

「しかも、小さいわね。簡単に使えそうだわ」

 以前、コーデリアが魔力を測定されたときのものは、もっと大きかった。目の前の測定器は、コーデリアでも簡単に持ち上げることができ、扱いやすそうだ。
 ありがたく測定器を受け取ることにして、コーデリアは自室に戻る。

「奥方さま、それは何ですか?」

 自室に戻って測定器をテーブルの上に出すと、ジェナとミミが不思議そうに尋ねてきた。

「これは魔力を測定するものよ。ええと……こうかしら」

 コーデリアは測定器を片手で持ち、もう片方の手で下部分にあったボタンを押してみる。
 すると、針がぴくりと動いた。少しだけ上がったが、十段階ある目盛りの一つ目までも届かない。

「……前に測定したときよりは、マシなのかしら」

 前に測定したときは、針が動かなかったはずだ。それから比べれば、少しは魔力が発現しているということだろうか。
 どの目盛りまで達すれば、魔力が発現したということになるのか、よくわからない。

「ジェナとミミもやってみて」

 コーデリアは、測定器をジェナに渡す。
 おそるおそるジェナはコーデリアが行ったように、ボタンを押した。

「う……動きました! これって、魔力があるっていうことですか!?」

 普段は落ち着いているジェナが、興奮しながら叫ぶ。
 測定器が指している目盛りは、一つ目を少し超えていた。コーデリアよりも上だ。

「え!? わ、私も……!」

 今度はミミが測定器を受け取り、ボタンを押す。
 目盛りはジェナのときよりも上、二つ目に近い場所まで達している。

「凄い! 動いた! 信じられない!」

「ミミ、凄い!」

 すっかり二人は高揚して、我を忘れているようだ。手を取り合いながら、飛び跳ねている。
 コーデリアは喜ぶ二人を眺めながら、仮説は正しかったのだと、頷いていた。
 年齢が若いほど効果が早く表れるというのも、可能性は高そうだ。まだコーデリアは効果が薄いが、続けていればそのうち発現するだろう。

「あ……失礼いたしました。はしゃぎすぎてしまいました……」

 はっと我に返ったようで、ジェナが気まずそうに謝罪してくる。

「ご……ごめんなさい、奥方さま……」

 ミミもジェナに続く。
 だが、コーデリアはにっこりと笑って首を横に振った。

「いいのよ。実験が上手くいっていることが、喜ばしいわ」

「あ……あの、これで魔術が使えるようになるんですか? 空を飛んだり、雨を降らせたり……!」

 それでもやはり気になるようで、浮き立ちながらミミが尋ねてくる。

「空を飛んだり、雨を降らせたりは、かなりの大魔術ね。旦那さまなら使えるかもしれないけれど……そこまで達するのには、訓練と才能が必要だわ。まずは、室内で風を吹かせるくらいからね」

「でも、訓練すれば魔術は使えるようになるんですね……凄いです!」

「どんな訓練をすればよいのでしょう……!?」

 否定的なコーデリアの言葉だったが、ミミは顔を輝かせたままだった。ジェナも身を乗り出して、訓練について尋ねてくる。
 前世のリアにとって魔術とは、知らないうちに何か使えたという、あまりありがたみのないものだったが、ミミとジェナにとっては違うようだ。

「そうね、まず……」

 コーデリアが口を開きかけたところで、ドアをノックする音が響いた。
 何事だろうかと思いながら、コーデリアは入るように促す。

「失礼いたします。奥方さまに、お手紙が届きました」

 やってきたのはメイドの一人で、コーデリアに手紙を届けると去っていった。
 コーデリアは差出人を見て、顔をしかめる。これまで散々コーデリアを蔑み、ろくな食事すら与えてくれなかった父、キャンベル伯爵からの手紙だったのだ。
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