処刑された人質王女は、自分を殺した国に転生して家族に溺愛される

葵 すみれ

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09.大好き

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「……昔、守ることができず、私には守る資格すらなかった人がいた。その人のことを思い出していたとき、お前が高熱を出したと聞かされてな……」

 コーネリアスは、懐かしそうに目を細める。

「その人が導いてくれたのかもしれない。これ以上愚かな真似をするな、と。それで、お前のところへ行ったのだ」

「……っ」

 はっとしたロゼッタは、思わず口を開きそうになるが、慌ててそれを飲み込んだ。
 彼が言っているのが、ニーナのことなのだとわかってしまったからだ。
 そうだ、コーネリアスが助けに来てくれた日は、かつてニーナが処刑された日だった。
 きっと、ニーナのことを思い出してくれていたのだろう。

 そういえば、寝室にあったのは白い百合のようだった。かつて、ニーナが好きだと言った花だ。
 まさか、覚えてくれていたというのか。
 いや、ちらっと見えただけで本当に白い百合かどうかはわからなかった。見間違いということもある。
 でも、もし本当に覚えていたのなら……。

 そう思うと、胸の奥が熱くなった。
 ロゼッタは、泣きそうになるのを必死にこらえる。

「どうした?」

 黙って俯いてしまったロゼッタの顔を、コーネリアスが覗き込んでくる。

「なんでも、ありません……」

 そう言ったロゼッタだったが、声が震えてしまったため、コーネリアスは不思議そうな顔をした。そして、心配そうに抱き締めてくる。

「どうした? なにかつらいことを思い出したか? それとも具合が悪いのか?」

 気遣うような声音に、ますます目頭が熱くなった。しかし、ここで泣いては余計に心配をかけてしまう。
 ロゼッタは、ぐっと歯を食いしばって涙をこらえた。

「大丈夫です……」

 なんとかそれだけを口にすると、コーネリアスは安堵の息を漏らした。そして、さらに強く抱き締めてくれる。

「間に合って良かった。お前が無事で良かった」

 そう言われて、ロゼッタの胸はますます苦しくなった。
 だが、その苦しささえも今のロゼッタにとっては幸せだった。
 愛されるというのは、こんなにも心を満たすのだと初めて知ったから。

 前世では得られなかった、家族からの愛情だ。
 欲しくてたまらなかったものが今、この手の中にある。
 それが嬉しくてたまらなかった。

「おとうさま」

 ロゼッタはコーネリアスの胸に顔を埋めたまま、彼の服をぎゅっと掴んだ。そして、小さく呟く。

「大好き」

 それは、紛れもない本心だった。
 前世の自分だったら、これほど素直に口にすることはできなかっただろう。相手の迷惑になるのではないかなど、ごちゃごちゃと考えてしまったはずだ。
 しかし、今のロゼッタにとっては恐れることなど何もなかった。

 なぜなら、ロゼッタはコーネリアスの娘なのだから。
 愛されて当然の存在なのだ。
 たとえ、前世で自分の婚約者だったとしても関係ない。今のロゼッタにとっては、コーネリアスは大切な父親だ。

「ああ、私もお前が大好きだ」

 そう口にしたコーネリアスがどこか泣きそうに見えて、ロゼッタは思わず笑みをこぼした。
 そして、彼の背中に腕を回して抱き締め返すと、さらに強く身を寄せるのだった。
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