処刑された人質王女は、自分を殺した国に転生して家族に溺愛される

葵 すみれ

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16.庭園

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「わぁ……」

 外に出て初めて見る景色に、ロゼッタは感嘆の声を上げた。
 太陽の光を浴びた木々は鮮やかな緑に染まり、鳥たちが飛び回っている。庭園には色とりどりの花々が咲き誇り、甘い香りが漂っていた。

「気に入ったかな?」

 アイザックはそう言いながら、ロゼッタの顔を覗き込む。

「はい、とても」

 ロゼッタが微笑むと、アイザックは満足げに微笑み返した。そして、手を差し伸べてくる。

「では、行こうか」

 アイザックに導かれて、ロゼッタは花々が咲く道を歩いた。
 爽やかな風が甘い香りを運びながら、頬を撫でていく。

「ロゼッタは、この庭に来るのは初めてなんだよね?」

「はい。ずっと、お部屋にこもってばかりでした」

「それは寂しかっただろう。父上は忙しい上に気が利かないからね。僕がもっと早く来ていればよかった」

 残念そうなアイザックの言葉に、ロゼッタは苦笑した。どうもアイザックはコーネリアスに対して辛辣なようだ。

「おにいさまは、おとうさまのことが好きではないのですか?」

 疑問を口にすると、アイザックは不思議そうに首を傾げた。それから、困ったように微笑んだ。

「いや、そういうわけじゃないんだ。ただ、父上はあまり子どもに興味がないみたいでね。あまり構ってもらった記憶もないし、ちょっと距離を感じてしまうんだ」

 そう言って、アイザックは肩をすくめる。

「そうだったんですね……でも、おにいさまは結構おとうさまにいろいろ言ってますけれど」

「ああ、まあ最近はね。何せ父上には僕ときみ以外の子はいない。これから増えることもなさそうだし、王太子である僕を簡単に切り捨てることはできないだろう? それなら、少しくらいわがままを言っても構わないかと思ってね」

 悪戯っぽく笑ってみせるアイザックに、ロゼッタは呆気に取られた。
 だが、すぐにおかしさが込み上げてきて、くすくすと笑い声を上げる。

「おにいさま、悪い人ですね」

「そうかもしれない。僕は、自分勝手で欲張りな人間だからね」

 アイザックはさらりと認めると、楽しげに口角を上げる。

「でも、ロゼッタ。きみだけは特別だよ」

 そう言って、アイザックはそっとロゼッタの頬に触れた。

「きみは僕の、唯一の妹だ。たった二人きりの兄妹なんだから、仲良くしよう」

 アイザックは優しく微笑む。その笑顔を見て、ロゼッタも自然と笑顔になった。

「はい、おにいさま」

「うん、いい子だ」

 満足げに頷いてから、アイザックは再び歩き出す。ロゼッタも彼の隣を歩いた。
 繋がれた手から、アイザックのぬくもりが伝わってくる。その温かさに、ロゼッタは心が満たされるのを感じていた。
 しばらく歩くと、小さな東屋が見えてきた。そこには白いテーブルと椅子が二脚置かれている。

「ここで少し休憩しよう」

 アイザックはそう声をかけると、ロゼッタの手を引いて椅子に腰掛けた。そして、すぐに侍女を呼ぶとお茶の準備をさせる。
 準備を終えた侍女が下がると、アイザックはにっこりと微笑んだ。

「さあ、お茶を飲んで」

「ありがとうございます」

 ロゼッタはお礼を言ってから、ティーカップを手に取った。ふわりと花の香りが漂うお茶を飲むと、体が温まるような気がした。

「おいしいです」

「そう、よかった」

 アイザックは微笑んでから、自分もお茶に口をつけた。しばしの沈黙が流れる。
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