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23.母さま
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「わたくしはあなたが生まれてきてくれたことを嬉しく思っているわ」
耳元で囁かれる言葉に、ロゼッタは目頭が熱くなるのを感じた。その言葉だけで救われたような気持ちになり、涙がこぼれ落ちそうになる。
しかし、ぐっと堪えてブリジットの腕の中でおとなしくしていた。
しばらくすると、ブリジットはゆっくりと身体を離す。そして、再び椅子に腰掛けると口を開いた。
「アイザックもね、妹としてあなたを大切に思っているのよ。もちろん国王陛下も、あなたのことを娘として愛しているわ。それだけはわかってちょうだいね」
「はい、王妃陛下……ありがとうございます……」
ロゼッタは深く頭を下げる。
それを眺めて優しく微笑みかけると、ブリジットはさらに言葉を続けた。
「もうわたくしを母と呼んでくれても良いのですよ」
ブリジットは悪戯っぽい口調で言う。
それが冗談であることはわかっていたが、ロゼッタは少し考えてから返事をした。
「では……母《はは》さま、とお呼びしてよろしいですか?」
ロゼッタの言葉に、ブリジットは一瞬驚いたように目を見開く。だが、すぐに満面の笑みを浮かべた。
「ええ、そう呼んでくれると嬉しいわ」
「はい、母さま」
ロゼッタは笑顔を浮かべると、もう一度頭を下げた。
そして顔を上げると、ブリジットに向かって口を開く。
「あの……ありがとうございます。わたしを娘として受け入れてくれて……」
「いいのよ、ロゼッタ。あなたはわたくしの大切な娘なのだから」
ブリジットはそう言って、再びロゼッタの頭を優しく撫でる。その手の温もりを感じながら、ロゼッタは幸せを感じていた。
「……あなたを見ていると、とても懐かしくて涙が出そうになるわ。自己満足の罪滅ぼしかもしれないけれど、今度こそは……。国王陛下もきっと、あなたを慈しむことで心が救われるのでしょうね……」
ブリジットが独り言のようにそう呟いたが、ロゼッタにはよく聞き取れなかった。
聞き返そうとロゼッタがブリジットを見つめると、彼女はすぐにごまかすように微笑んで言葉を続ける。
「何でもないわ、気にしないでちょうだい。ただ、わたくしのような可愛げのない女ではダメだということを言いたかっただけなの」
「そ、そんなことありません! 母さまはとてもお優しい方です!」
ロゼッタは思わず立ち上がって否定する。
すると、ブリジットは一瞬驚いたような表情を浮かべたあと、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう、嬉しいわ」
その笑みは、王妃という身分からは想像もつかないほど純粋なもので、ロゼッタは思わず見惚れてしまう。
そして、侍女たちから聞いた噂話とは全く異なる印象を抱いた。
実際に接して、ブリジットの人柄に触れてみれば、彼女たちが抱く偏見に満ちた噂など嘘でしかないことがわかる。
最初に冷たいと感じたのは、先入観で目が曇っていたのだろう。
「ロゼッタ……どうか国王陛下の側にいてあげてね」
ブリジットは切実な響きを持った声で、そう言った。
その瞳はどこか遠くを見ているようで、ロゼッタは思わず息をのむ。
「……はい、母さま」
ロゼッタはそう答えることしかできなかった。
何か見えない糸が絡まってしまっているような、そんな気がしてならない。
それからしばらく談笑したあと、ロゼッタは王妃の部屋を後にした。
「やっぱり、かわいそうだけれどあの子には……いえ、きっとそのほうがあの子のためにも……」
ロゼッタが部屋を出る間際、ブリジットは小さな声で呟いていた。しかし、その言葉は誰の耳にも届くことはなかった。
耳元で囁かれる言葉に、ロゼッタは目頭が熱くなるのを感じた。その言葉だけで救われたような気持ちになり、涙がこぼれ落ちそうになる。
しかし、ぐっと堪えてブリジットの腕の中でおとなしくしていた。
しばらくすると、ブリジットはゆっくりと身体を離す。そして、再び椅子に腰掛けると口を開いた。
「アイザックもね、妹としてあなたを大切に思っているのよ。もちろん国王陛下も、あなたのことを娘として愛しているわ。それだけはわかってちょうだいね」
「はい、王妃陛下……ありがとうございます……」
ロゼッタは深く頭を下げる。
それを眺めて優しく微笑みかけると、ブリジットはさらに言葉を続けた。
「もうわたくしを母と呼んでくれても良いのですよ」
ブリジットは悪戯っぽい口調で言う。
それが冗談であることはわかっていたが、ロゼッタは少し考えてから返事をした。
「では……母《はは》さま、とお呼びしてよろしいですか?」
ロゼッタの言葉に、ブリジットは一瞬驚いたように目を見開く。だが、すぐに満面の笑みを浮かべた。
「ええ、そう呼んでくれると嬉しいわ」
「はい、母さま」
ロゼッタは笑顔を浮かべると、もう一度頭を下げた。
そして顔を上げると、ブリジットに向かって口を開く。
「あの……ありがとうございます。わたしを娘として受け入れてくれて……」
「いいのよ、ロゼッタ。あなたはわたくしの大切な娘なのだから」
ブリジットはそう言って、再びロゼッタの頭を優しく撫でる。その手の温もりを感じながら、ロゼッタは幸せを感じていた。
「……あなたを見ていると、とても懐かしくて涙が出そうになるわ。自己満足の罪滅ぼしかもしれないけれど、今度こそは……。国王陛下もきっと、あなたを慈しむことで心が救われるのでしょうね……」
ブリジットが独り言のようにそう呟いたが、ロゼッタにはよく聞き取れなかった。
聞き返そうとロゼッタがブリジットを見つめると、彼女はすぐにごまかすように微笑んで言葉を続ける。
「何でもないわ、気にしないでちょうだい。ただ、わたくしのような可愛げのない女ではダメだということを言いたかっただけなの」
「そ、そんなことありません! 母さまはとてもお優しい方です!」
ロゼッタは思わず立ち上がって否定する。
すると、ブリジットは一瞬驚いたような表情を浮かべたあと、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう、嬉しいわ」
その笑みは、王妃という身分からは想像もつかないほど純粋なもので、ロゼッタは思わず見惚れてしまう。
そして、侍女たちから聞いた噂話とは全く異なる印象を抱いた。
実際に接して、ブリジットの人柄に触れてみれば、彼女たちが抱く偏見に満ちた噂など嘘でしかないことがわかる。
最初に冷たいと感じたのは、先入観で目が曇っていたのだろう。
「ロゼッタ……どうか国王陛下の側にいてあげてね」
ブリジットは切実な響きを持った声で、そう言った。
その瞳はどこか遠くを見ているようで、ロゼッタは思わず息をのむ。
「……はい、母さま」
ロゼッタはそう答えることしかできなかった。
何か見えない糸が絡まってしまっているような、そんな気がしてならない。
それからしばらく談笑したあと、ロゼッタは王妃の部屋を後にした。
「やっぱり、かわいそうだけれどあの子には……いえ、きっとそのほうがあの子のためにも……」
ロゼッタが部屋を出る間際、ブリジットは小さな声で呟いていた。しかし、その言葉は誰の耳にも届くことはなかった。
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