処刑された人質王女は、自分を殺した国に転生して家族に溺愛される

葵 すみれ

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26.新しい側妃候補

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 コーネリアスが新たな側妃を迎える。それは、ロゼッタにとっては寝耳に水だった。

「それは本当なの……?」

 ロゼッタは震える声で尋ねる。すると、侍女たちは大きく頷いた。

「はい、どうやら王宮内で噂が広まっているようです」

「ロゼッタさま付きの侍女が増えるそうで、側妃候補だろうとお話ししておりました」

 侍女たちは口々にそう語る。
 だが、ロゼッタはまだその話を受け入れられずにいた。
 父が新しい側妃を迎えれば、ロゼッタはどうなるのだろうか。せっかく父や兄と仲良くなれたというのに、また以前のように孤独な日々に逆戻りするのだろうか。
 そう思うと、ロゼッタの心は不安で押しつぶされそうになる。
 そんな状態のロゼッタに対して、侍女たちは無慈悲に言葉を続けた。

「新しい側妃は、ロゼッタさまをないがしろにするかもしれません」

「嫌がらせを受けるかもしれませんし、上手くやっていけるかもわかりませんよ」

「……っ!」

 彼女たちの言葉に、ロゼッタはショックのあまりその場に崩れ落ちそうになる。
 脳裏に浮かんでくるのは、ロゼッタを虐げる母マライアの歪んだ笑顔だ。
 恐怖と絶望で胸が張り裂けそうになる。

「そんな、そんなのは嫌よ……」

 ロゼッタは消え入りそうな声で呟いた。
 侍女たちはそんなロゼッタを見て優しく微笑むと口を開く。

「でも、私たちの誰かが側妃となれば、ロゼッタさまを守ることができますわ」

「そうですよ。だからロゼッタさまからも、どうか国王陛下にお口添えをお願いします」

「きっと、ロゼッタさまが言えば陛下も聞き入れてくれるはずです」

 口々にそう告げると、侍女たちは期待するような視線を投げかけてきた。彼女たちが浮かべる笑みは、どこか歪だ。
 まるで、ロゼッタを操ろうとしているかのようにも見える。
 いや、実際そうなのだろう。
 侍女たちがどうして王妃の悪口を言っていたのか、わかった気がした。彼女たちはロゼッタを不安がらせ、コーネリアスに進言させようとしているのだ。

 ロゼッタは動揺しながらも、懸命に考える。
 ここで侍女たちに乗せられてはいけない。
 彼女らに側妃になってほしいとは思えなかったし、そもそも側妃を迎えるという話が本当かもわからないのだ。

「で……でも、噂なのよね……? 本当は違うかもしれないし、わたしが話しても……」

 ロゼッタは侍女たちの顔色をうかがいながらそう告げる。
 すると、彼女らは一瞬黙り込むとお互いに視線を交わした。そして、そろってロゼッタに向き直ると口を開く。

「しかし、現在の側妃さまは療養中ですよね。その状況を考えると、新しい側妃を迎えなければならないのではないでしょうか?」

「それに、国王陛下と王妃さまは夫婦仲があまり良くありませんから、新しい側妃を迎えられるのは自然なことかと」

「もともと側妃が一人しかいないことがおかしかったんです。これは、必要なことなんですよ」

 侍女たちは口々にそう告げる。
 それを聞いたロゼッタは、何も言い返せなかった。
 確かに、彼女たちの言うことには一理ある。
 コーネリアスとブリジットの夫婦仲は良好とは言えず、ロゼッタの母である側妃は療養中だ。
 新しい側妃を迎えるというのは自然なことなのかもしれない。

「……わかったわ」

 ロゼッタはそう呟くと、そっと息を吐く。そして、真っ直ぐに侍女たちを見つめた。

「おとうさまと側妃のことについてお話ししてみるわね」

 ロゼッタはそれだけ告げると、侍女たちに微笑みかける。
 すると、彼女らの表情がぱっと明るくなった。

「ありがとうございます、ロゼッタさま」

「きっと良いお返事がいただけるはずですわ!」

 侍女たちは口々にそう言いながら、部屋を出ていく。
 そして、彼女たちの姿が見えなくなってから、ロゼッタはソファに座り込んだ。

「はぁ……」

 大きく息を吐いて、天井を仰ぐ。そして、ゆっくりと目を閉じた。
 側妃のことについて話すとは言ったが、彼女らを側妃に推すとは一言も言っていない。嘘は言っていないはずだ。
 それに、侍女たちが言っていたことはただの噂でしかない。それが本当かどうかもわからないのだから、気に病む必要などないではないか。
 ロゼッタは自分にそう言い聞かせると、再び大きく息を吐くのだった。
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