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31.それが王族
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「それでね……きみの母君が療養中となったため、新しい側妃を迎えるべきだと貴族派が騒ぎ出した。グラスター侯爵も、せめて自分の息がかかった者を側妃にしておきたいんだと思う」
「なるほど……そうだったんですね」
納得するようにロゼッタはそう言って、深く息を吐き出した。
自分たちを側妃にするようにと働きかけてきた侍女たちは、おそらく貴族派なのだろう。そう考えると、いろいろと合点がいく部分もあった。
あの侍女たちは、王妃の悪口をロゼッタに吹き込んできた。ロゼッタを貴族派の象徴として利用し、王妃と対立させようとしていたのかもしれない。
「おとうさまは……貴族たちの言いなりになるつもりなのでしょうか?」
おそるおそるそう尋ねると、アイザックは少し困ったような顔をしながら答える。
「うーん……子が僕たち二人だけで、しかも弟妹が増えそうにない以上、難しいところだよね。まして、父上と母上の不仲は有名だし……」
アイザックはそう言って、言葉を濁すと大きくため息をついた。
「でも、もし新しい側妃が増えたとしても、ロゼッタは大丈夫だよ」
アイザックは穏やかな声でそう告げると、安心させるようにロゼッタの頭に手を乗せる。それから柔らかい笑みを向けた。
「父上はきみのことを大切にしている。そんなきみに危害を加えようとはしないはずだよ。だから、心配することなんて何もないからね」
「はい……」
ロゼッタが弱々しく返事をすれば、アイザックは小さく微笑む。
その柔らかな眼差しを見ると、彼の優しさが伝わってくるようだった。だからこそ、胸が痛くなる。
「でも……おにいさまは? 側妃が増えれば、おにいさまのお立場は悪くならないのですか?」
ロゼッタが小さな声ながらも懸命に訴えかけると、アイザックは驚いたように目を見開いた。そして、すぐに苦笑いすると答える。
「ははっ、本当にきみは賢くて優しくて強い子だね。僕は大丈夫だよ。きっと上手くやるから。ありがとう」
「で、でも……」
言葉を続けようとするロゼッタの唇に、アイザックはそっと人差し指をあてた。そのままロゼッタの言葉を遮るように、彼は小さく首を振る。
「それにね、新しくきみ付きの侍女になったセレサ。彼女はきっと母上が送り込んだ側妃候補だ」
「えっ……!?」
やや声を潜めたアイザックの発言を聞き、ロゼッタは動揺して固まる。そして、彼をじっと見つめた。
「セレサはもともと母上付きの侍女だ。だから僕も知っているけれど、おっとりした優しい女性だよ。貴族派から側妃を出しては、面倒なことになるだろう。だから、母上は自分の息のかかった者を側妃にしようとしているんだと思うよ」
「そんな……」
やはりセレサは側妃候補だったのか。ロゼッタのことを守ると言っていたのは、王妃の命令だったのだろうか。そう考えると心苦しかった。
「で……でも、セレサは本当はどう思って……それに、母さまだって……!」
ロゼッタが戸惑った様子でそう口走ると、アイザックは再び眉を下げる。彼は寂しげな笑みを浮かべ、こう言った。
「仕方がないよ。それが王族というものなんだ」
「……っ」
あまりにも悲しい答えに、ロゼッタは何も言えずに押し黙ってしまう。
そんな彼女の様子を目にすると、アイザックはさらに付け足すように語る。
「なるほど……そうだったんですね」
納得するようにロゼッタはそう言って、深く息を吐き出した。
自分たちを側妃にするようにと働きかけてきた侍女たちは、おそらく貴族派なのだろう。そう考えると、いろいろと合点がいく部分もあった。
あの侍女たちは、王妃の悪口をロゼッタに吹き込んできた。ロゼッタを貴族派の象徴として利用し、王妃と対立させようとしていたのかもしれない。
「おとうさまは……貴族たちの言いなりになるつもりなのでしょうか?」
おそるおそるそう尋ねると、アイザックは少し困ったような顔をしながら答える。
「うーん……子が僕たち二人だけで、しかも弟妹が増えそうにない以上、難しいところだよね。まして、父上と母上の不仲は有名だし……」
アイザックはそう言って、言葉を濁すと大きくため息をついた。
「でも、もし新しい側妃が増えたとしても、ロゼッタは大丈夫だよ」
アイザックは穏やかな声でそう告げると、安心させるようにロゼッタの頭に手を乗せる。それから柔らかい笑みを向けた。
「父上はきみのことを大切にしている。そんなきみに危害を加えようとはしないはずだよ。だから、心配することなんて何もないからね」
「はい……」
ロゼッタが弱々しく返事をすれば、アイザックは小さく微笑む。
その柔らかな眼差しを見ると、彼の優しさが伝わってくるようだった。だからこそ、胸が痛くなる。
「でも……おにいさまは? 側妃が増えれば、おにいさまのお立場は悪くならないのですか?」
ロゼッタが小さな声ながらも懸命に訴えかけると、アイザックは驚いたように目を見開いた。そして、すぐに苦笑いすると答える。
「ははっ、本当にきみは賢くて優しくて強い子だね。僕は大丈夫だよ。きっと上手くやるから。ありがとう」
「で、でも……」
言葉を続けようとするロゼッタの唇に、アイザックはそっと人差し指をあてた。そのままロゼッタの言葉を遮るように、彼は小さく首を振る。
「それにね、新しくきみ付きの侍女になったセレサ。彼女はきっと母上が送り込んだ側妃候補だ」
「えっ……!?」
やや声を潜めたアイザックの発言を聞き、ロゼッタは動揺して固まる。そして、彼をじっと見つめた。
「セレサはもともと母上付きの侍女だ。だから僕も知っているけれど、おっとりした優しい女性だよ。貴族派から側妃を出しては、面倒なことになるだろう。だから、母上は自分の息のかかった者を側妃にしようとしているんだと思うよ」
「そんな……」
やはりセレサは側妃候補だったのか。ロゼッタのことを守ると言っていたのは、王妃の命令だったのだろうか。そう考えると心苦しかった。
「で……でも、セレサは本当はどう思って……それに、母さまだって……!」
ロゼッタが戸惑った様子でそう口走ると、アイザックは再び眉を下げる。彼は寂しげな笑みを浮かべ、こう言った。
「仕方がないよ。それが王族というものなんだ」
「……っ」
あまりにも悲しい答えに、ロゼッタは何も言えずに押し黙ってしまう。
そんな彼女の様子を目にすると、アイザックはさらに付け足すように語る。
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