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04.弟(?)と話していたら、夫が無言で庇ってきて、最後は手を握られました
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オリアナは玄関ホールでサディアスの隣に立ち、静かに扉が開くのを待っていた。
(騎士団が鉱山防衛に派遣される……)
この婚姻は、もともと王家が公爵家の鉱山事業に食い込むための策略だ。
妾腹とはいえ、オリアナを嫁がせることで、王家は公爵家の利権を手に入れようとしている。
(サディアスが私を嫌っているのも当然よね……)
サディアスにしてみれば、自分は公爵家を脅かす存在でしかないだろう。
彼の微かに震える指先を横目に、オリアナはそっと唇を噛んだ。
(でも、だとしたら、なぜ星輝石を私に渡したの……?)
胸に疑問を抱いたまま、重厚な扉が開く音が響き渡った。
騎士団が整然とした足取りで入ってくる。
騎士団長が進み出て、サディアスとオリアナに丁重な礼をする。
「ファーレスト公爵閣下、公爵夫人。デクリオン王国騎士団第三隊、鉱山事業防衛の任を受け参上いたしました」
サディアスが静かに頷く。
「ご苦労。よろしく頼む」
続いて、騎士団が順番に一人ずつ進み出て、夫妻の前で敬礼と挨拶を交わしていく。
オリアナは表面上穏やかな笑みを浮かべつつ、騎士たちを順に眺めていた。すると、ふと視線がある騎士に止まった瞬間、身体が凍りついた。
(まさか……)
彼の顔立ちも茶色の髪も、自分とよく似ている。
茶色の瞳だけは違っていたが、魔術で色をごまかしていることをオリアナは知っていた。
(この人が、ヘクター……!)
記憶が鮮明に蘇る。
『物語』の主人公であるヘクター──つまり自分の双子の弟。『物語』の通りなら、彼こそが後に英雄となり、公爵家を滅ぼす者だ。
ヘクターが前に進み出て敬礼した。その瞬間、彼の瞳がオリアナの瞳を捉え、動きを止めた。
ヘクターはほんの一瞬だけ眉をひそめ、わずかな戸惑いを見せた。
(彼も気づいた……?)
オリアナの心が激しく揺れ動く。
「騎士ヘクター。公爵閣下、公爵夫人のご無事のため、尽力いたします」
ヘクターの落ち着いた、低い声がオリアナの胸に響く。
その瞬間、サディアスが微かにオリアナへ近づき、彼女を庇うようにさりげなく半歩前に踏み出した。
(……?)
その控えめな動作にオリアナの心が一瞬揺れた。サディアスの行動は何を意味しているのだろう。
彼の横顔からは何も読み取れないが、オリアナは初めて彼に守られているような奇妙な安心感を覚えてしまった。
同時に、ヘクターはまるでオリアナとサディアスの微妙な距離感を見抜いたかのように、わずかに瞳を曇らせる。
(ヘクターの様子がおかしい……? それとも私の考えすぎ?)
夫は『物語』の中で自分を殺す悪役、目の前の騎士は『物語』の英雄。自分がどう動くかで、この先の運命が変わるかもしれない──。
オリアナは混乱の中で深く息を吸い、表情を整える。
「騎士団の皆さま、よろしくお願いいたします」
何事もなかったかのように微笑みを返すが、その胸の奥は波乱の予感にざわついていた。
公爵邸の広大な庭園には、夜の冷たい空気が漂っていた。
屋敷の大広間からは、騎士たちの談笑やグラスの触れ合う音が微かに聞こえてくる。
オリアナはひとり、石造りのベンチに腰を下ろした。
騎士団の到着を祝うための歓迎パーティーが開かれたものの、室内にいても落ち着かず、少しだけ外の空気を吸おうと庭へ出たのだ。
(ヘクター……)
騎士団の中にいた、自分の双子の弟であるはずの青年。
物語では、彼はこの時点でオリアナとの血縁関係を知らないはずだった。
だが、彼はオリアナを見た瞬間に動揺し、さらに──
(私とサディアスの関係に、何か感じ取った……?)
ヘクターは、オリアナの顔を見て驚いた後、すぐにサディアスの方を見て、瞳を曇らせた。
ただ似ていることに驚いたのなら、あの反応は不自然だった。
(まるで、サディアスと私の関係に対して……何か思うところがあるみたいだったわ)
オリアナは小さく息をついた。
物語のヘクターなら、こんな反応はしないはず。
彼はサディアスを敵視するようになるのは、もっとずっと先の話だった。
それなのに、なぜ彼はあのとき──
「……公爵夫人」
静かな夜を切り裂く、低く落ち着いた声。
オリアナは振り返った。
そこに立っていたのは、先ほどまで宴の場にいたはずの騎士──ヘクターだった。
「騎士ヘクター?」
「おひとりですか。夜風が冷たいでしょう」
彼の声は穏やかだったが、その瞳には何かを探るような色が浮かんでいる。
「少しだけ風に当たりたくて」
オリアナは微笑みながら応じる。
ヘクターはしばらく彼女を見つめていたが、やがて静かに言葉を継いだ。
「……先ほどの場では、失礼いたしました」
「……?」
「公爵夫人のお顔を拝見した際、少し驚いてしまいまして」
「驚く?」
「僭越ながら……私と、どこか似ていると思ったのです」
ヘクターの瞳が、わずかに揺れる。
(……本当にそれだけかしら?)
オリアナは慎重に彼を見つめた。
(物語の彼なら、単に似ていると感じた程度で済んだはず。あんな表情はしない)
まるで、すでに『オリアナという存在』を知っていたかのような反応だった。
「……それだけ?」
オリアナが問いかけると、ヘクターは微かに口を引き結び、慎重に言葉を選ぶように言った。
「公爵閣下には、注意なさったほうがよろしいかと」
「……どうして?」
「……」
ヘクターは言葉に詰まる。
(やっぱり何かを知っている……?)
オリアナの胸に、疑念が膨らむ。
だが、問い詰めようとした瞬間、また別の足音が庭に響いた。
「オリアナ姫」
低く、静かだが、確固たる存在感のある声。
サディアスだった。
ヘクターはオリアナから視線を外し、ゆっくりと振り向く。
「騎士ヘクター。公爵夫人に何かご用でしょうか」
サディアスは無表情のまま、オリアナとヘクターの間に立つ。
その立ち位置は、明らかにオリアナを庇うようなものだった。
(まるで、私を守るみたいに……?)
ヘクターは一瞬だけ沈黙し、穏やかに微笑む。
「いえ、公爵夫人が一人でいらしたので、護衛のつもりでした」
そう言うと、深く一礼し、静かに踵を返す。
「では、失礼いたします」
そうして去っていくヘクターを見送りながら、オリアナは隣のサディアスを見上げた。
「……庇ってくださったのですか?」
オリアナの問いかけに、サディアスは答えない。
ただ、ヘクターが完全に見えなくなるまで、じっとその背中を見送っていた。
その横顔は冷ややかで、何かを計算しているようにも見える。
(やっぱり、ヘクターを警戒している……?)
やがて、静かに息をつき、サディアスはオリアナの方を向いた。
「夜風は冷えます。お身体に障るといけません、戻りましょう」
言葉と同時に、唐突にオリアナの手が取られた。
「サディアスさま?」
驚いて見上げると、サディアスはその手をそっと包み込むように握りしめた。
「手が冷たくなっています」
彼の指先は温かく、それはまるで心配しているかのようだった。
けれど、その手のひらには、どこかぎこちなさが感じられる。
慣れていない。まるで、誰かの手を取ることすら不慣れで、ためらっているような仕草だった。
(この人は、私をいずれ殺すはず……なのに、どうしてこんなに優しい仕草を?)
その違和感に胸がざわつく。
しかし、次の瞬間、ふと別の考えがよぎった。
(……もしかして、サディアスは、私を監視しているのでは?)
王家から送り込まれた公爵夫人。
公爵家の鉱山事業を王家に取り込むための存在。
もしサディアスがそう思っているのなら──
(私は王家のスパイだと疑われているのかもしれない)
だからこそ、こうして細やかに気を配っているのかもしれない。
夜に一人で庭へ出たことも、誰かと密談していたのではと警戒しているのかもしれない。
そう思うと、サディアスの手の温かさが、急に冷たく感じられた。
彼は私を気遣っているのではなく、監視しているだけ──
その考えに、無意識のうちに手に力が入る。
しかし、サディアスは気づいた様子もなく、ただ静かにオリアナの手を引いた。
わからない。
けれど、今はただ、彼の手に引かれるまま屋敷へと戻るしかなかった。
(騎士団が鉱山防衛に派遣される……)
この婚姻は、もともと王家が公爵家の鉱山事業に食い込むための策略だ。
妾腹とはいえ、オリアナを嫁がせることで、王家は公爵家の利権を手に入れようとしている。
(サディアスが私を嫌っているのも当然よね……)
サディアスにしてみれば、自分は公爵家を脅かす存在でしかないだろう。
彼の微かに震える指先を横目に、オリアナはそっと唇を噛んだ。
(でも、だとしたら、なぜ星輝石を私に渡したの……?)
胸に疑問を抱いたまま、重厚な扉が開く音が響き渡った。
騎士団が整然とした足取りで入ってくる。
騎士団長が進み出て、サディアスとオリアナに丁重な礼をする。
「ファーレスト公爵閣下、公爵夫人。デクリオン王国騎士団第三隊、鉱山事業防衛の任を受け参上いたしました」
サディアスが静かに頷く。
「ご苦労。よろしく頼む」
続いて、騎士団が順番に一人ずつ進み出て、夫妻の前で敬礼と挨拶を交わしていく。
オリアナは表面上穏やかな笑みを浮かべつつ、騎士たちを順に眺めていた。すると、ふと視線がある騎士に止まった瞬間、身体が凍りついた。
(まさか……)
彼の顔立ちも茶色の髪も、自分とよく似ている。
茶色の瞳だけは違っていたが、魔術で色をごまかしていることをオリアナは知っていた。
(この人が、ヘクター……!)
記憶が鮮明に蘇る。
『物語』の主人公であるヘクター──つまり自分の双子の弟。『物語』の通りなら、彼こそが後に英雄となり、公爵家を滅ぼす者だ。
ヘクターが前に進み出て敬礼した。その瞬間、彼の瞳がオリアナの瞳を捉え、動きを止めた。
ヘクターはほんの一瞬だけ眉をひそめ、わずかな戸惑いを見せた。
(彼も気づいた……?)
オリアナの心が激しく揺れ動く。
「騎士ヘクター。公爵閣下、公爵夫人のご無事のため、尽力いたします」
ヘクターの落ち着いた、低い声がオリアナの胸に響く。
その瞬間、サディアスが微かにオリアナへ近づき、彼女を庇うようにさりげなく半歩前に踏み出した。
(……?)
その控えめな動作にオリアナの心が一瞬揺れた。サディアスの行動は何を意味しているのだろう。
彼の横顔からは何も読み取れないが、オリアナは初めて彼に守られているような奇妙な安心感を覚えてしまった。
同時に、ヘクターはまるでオリアナとサディアスの微妙な距離感を見抜いたかのように、わずかに瞳を曇らせる。
(ヘクターの様子がおかしい……? それとも私の考えすぎ?)
夫は『物語』の中で自分を殺す悪役、目の前の騎士は『物語』の英雄。自分がどう動くかで、この先の運命が変わるかもしれない──。
オリアナは混乱の中で深く息を吸い、表情を整える。
「騎士団の皆さま、よろしくお願いいたします」
何事もなかったかのように微笑みを返すが、その胸の奥は波乱の予感にざわついていた。
公爵邸の広大な庭園には、夜の冷たい空気が漂っていた。
屋敷の大広間からは、騎士たちの談笑やグラスの触れ合う音が微かに聞こえてくる。
オリアナはひとり、石造りのベンチに腰を下ろした。
騎士団の到着を祝うための歓迎パーティーが開かれたものの、室内にいても落ち着かず、少しだけ外の空気を吸おうと庭へ出たのだ。
(ヘクター……)
騎士団の中にいた、自分の双子の弟であるはずの青年。
物語では、彼はこの時点でオリアナとの血縁関係を知らないはずだった。
だが、彼はオリアナを見た瞬間に動揺し、さらに──
(私とサディアスの関係に、何か感じ取った……?)
ヘクターは、オリアナの顔を見て驚いた後、すぐにサディアスの方を見て、瞳を曇らせた。
ただ似ていることに驚いたのなら、あの反応は不自然だった。
(まるで、サディアスと私の関係に対して……何か思うところがあるみたいだったわ)
オリアナは小さく息をついた。
物語のヘクターなら、こんな反応はしないはず。
彼はサディアスを敵視するようになるのは、もっとずっと先の話だった。
それなのに、なぜ彼はあのとき──
「……公爵夫人」
静かな夜を切り裂く、低く落ち着いた声。
オリアナは振り返った。
そこに立っていたのは、先ほどまで宴の場にいたはずの騎士──ヘクターだった。
「騎士ヘクター?」
「おひとりですか。夜風が冷たいでしょう」
彼の声は穏やかだったが、その瞳には何かを探るような色が浮かんでいる。
「少しだけ風に当たりたくて」
オリアナは微笑みながら応じる。
ヘクターはしばらく彼女を見つめていたが、やがて静かに言葉を継いだ。
「……先ほどの場では、失礼いたしました」
「……?」
「公爵夫人のお顔を拝見した際、少し驚いてしまいまして」
「驚く?」
「僭越ながら……私と、どこか似ていると思ったのです」
ヘクターの瞳が、わずかに揺れる。
(……本当にそれだけかしら?)
オリアナは慎重に彼を見つめた。
(物語の彼なら、単に似ていると感じた程度で済んだはず。あんな表情はしない)
まるで、すでに『オリアナという存在』を知っていたかのような反応だった。
「……それだけ?」
オリアナが問いかけると、ヘクターは微かに口を引き結び、慎重に言葉を選ぶように言った。
「公爵閣下には、注意なさったほうがよろしいかと」
「……どうして?」
「……」
ヘクターは言葉に詰まる。
(やっぱり何かを知っている……?)
オリアナの胸に、疑念が膨らむ。
だが、問い詰めようとした瞬間、また別の足音が庭に響いた。
「オリアナ姫」
低く、静かだが、確固たる存在感のある声。
サディアスだった。
ヘクターはオリアナから視線を外し、ゆっくりと振り向く。
「騎士ヘクター。公爵夫人に何かご用でしょうか」
サディアスは無表情のまま、オリアナとヘクターの間に立つ。
その立ち位置は、明らかにオリアナを庇うようなものだった。
(まるで、私を守るみたいに……?)
ヘクターは一瞬だけ沈黙し、穏やかに微笑む。
「いえ、公爵夫人が一人でいらしたので、護衛のつもりでした」
そう言うと、深く一礼し、静かに踵を返す。
「では、失礼いたします」
そうして去っていくヘクターを見送りながら、オリアナは隣のサディアスを見上げた。
「……庇ってくださったのですか?」
オリアナの問いかけに、サディアスは答えない。
ただ、ヘクターが完全に見えなくなるまで、じっとその背中を見送っていた。
その横顔は冷ややかで、何かを計算しているようにも見える。
(やっぱり、ヘクターを警戒している……?)
やがて、静かに息をつき、サディアスはオリアナの方を向いた。
「夜風は冷えます。お身体に障るといけません、戻りましょう」
言葉と同時に、唐突にオリアナの手が取られた。
「サディアスさま?」
驚いて見上げると、サディアスはその手をそっと包み込むように握りしめた。
「手が冷たくなっています」
彼の指先は温かく、それはまるで心配しているかのようだった。
けれど、その手のひらには、どこかぎこちなさが感じられる。
慣れていない。まるで、誰かの手を取ることすら不慣れで、ためらっているような仕草だった。
(この人は、私をいずれ殺すはず……なのに、どうしてこんなに優しい仕草を?)
その違和感に胸がざわつく。
しかし、次の瞬間、ふと別の考えがよぎった。
(……もしかして、サディアスは、私を監視しているのでは?)
王家から送り込まれた公爵夫人。
公爵家の鉱山事業を王家に取り込むための存在。
もしサディアスがそう思っているのなら──
(私は王家のスパイだと疑われているのかもしれない)
だからこそ、こうして細やかに気を配っているのかもしれない。
夜に一人で庭へ出たことも、誰かと密談していたのではと警戒しているのかもしれない。
そう思うと、サディアスの手の温かさが、急に冷たく感じられた。
彼は私を気遣っているのではなく、監視しているだけ──
その考えに、無意識のうちに手に力が入る。
しかし、サディアスは気づいた様子もなく、ただ静かにオリアナの手を引いた。
わからない。
けれど、今はただ、彼の手に引かれるまま屋敷へと戻るしかなかった。
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