王宮で虐げられた令嬢は追放され、真実の愛を知る~あなた方はもう家族ではありません~

葵 すみれ

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03.寂れた庭園の片隅で

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「うっ……ううっ……」

 セシールは一人、寂れた庭園の片隅で涙を流していた。
 誰も訪れないような場所を見つけてから、ここで泣くのが習慣になっていた。
 王女付きの侍女になってから、セシールの日常は酷いものだったのだ。
 雑用を押し付けられ、無理な命令もされて、セシールは心身共に疲れ切っていた。

「うぅ……ひっく……」

 しかし、人前で泣くわけにはいかない。
 王女付きの侍女として、毅然としていなければならないからだ。
 泣きたくても泣けないのが現状だった。
 そんなセシールにとって、この場所だけが唯一の憩いの場所だった。

「もう、辞めてしまいたい……」

 セシールは小さな声で呟いた。
 王女付きの侍女を辞めれば、どんなに楽だろうか。
 しかし、それは許されないことだ。
 家族のためにも、セシールは王女付きの侍女として働き続けなければならないのだ。

 王女付き侍女の証として与えられた赤いペンダントが、ずっしりと重くのしかかる。
 まるではずせない首輪のようだった。

「辞めたい……でも……辞められない……」

 セシールは涙を流しながら、嗚咽をこらえた。

「……そんなに泣くのなら、辞めてしまえばいいだろう」

 突然、背後から声が聞こえた。
 驚いて振り向くと、そこには見知らぬ少年が立っていた。
 年齢はセシールと同じか少し上くらいだろう。
 銀色の髪に赤い瞳という珍しい色彩の持ち主だ。
 繊細で整った顔立ちと相まって、妖精や精霊ではないだろうかと思えてしまう。

「あ、あなたは……?」

 セシールは戸惑う。
 この場所には誰もいないと思っていたからだ。
 やはり妖精や精霊といった、人ならざる者なのだろうかと思う。

「王女付きの侍女か? 嫌なら辞めればいいだけなのに、何をグズグズ泣いている? バカなのか?」

 ところが、少年の口から出てきたのは侮蔑を込めた汚い言葉だった。
 セシールは一瞬、何を言われているかわからなかった。意味が染み込んでくると、怒りがこみ上げてくる。

「な、なにを言うんですか! 私は王女付きの侍女として、務めを果たす義務があるんです! そんなことできるわけないでしょう!」

 セシールは反射的に言い返した。
 しかし、その声は弱々しく震えていた。

「義務? そんなくだらないもののために頑張るのか?」

 少年は馬鹿にしたように薄く笑う。

「……くだらなくなんかありません」

 セシールは絞り出すような声を発した。

「ふん、くだらないな。自分の意思もなく流されて生きるなど愚かしいことだ」

 少年は嘲笑を浮かべている。
 何を勝手なことをと、セシールは苛立ちが募る。

「……だったら、どうしろって言うんですか!? あなたは私の気持ちがわかるんですか!? 家族のために辞められない私の気持ちが、わかるっていうんですか!?」

 セシールは怒りにまかせて叫んだ。

「家族のため? お前がそんなに泣くほど辞めたいのなら、受け入れるのが家族だろう?」

 不思議そうに、少年は首を傾げる。

「それは……」

 セシールは口ごもった。
 燃え上がるようだった怒りが、急速にしぼんでいく。
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